四十七 満開までには
駒井が戻ってきて、きっと話はシビアなものになる。まずは、腹ペコを満たすところから。
みんなの笑い声が足されたからか、カレーは程よくマイルドで、煮込みが少ない割には、深みのある味に仕上がった。リコちゃんは一口食べると、
「祝ちゃん。美味しい!」
「そう。良かった。リコちゃん辛くない?」
「うん。辛くないよ。すっごく美味しい。えっと、、。おかわり、、しても良いですか?」
リコちゃんが、自分から『おかわり』ってワードを口にしてくれた。
「もちろん!いっぱい作ったから。お腹がポンポコリンになるまで、いっぱい食べて!」
あー、幸せだ。子供がお腹いっぱい食べるなんて当たり前なんだけど。
駒井もリコちゃんの向かいで、同世代のガキ大将みたいにカレーにがっついている。
「ヤバ。マジで美味い。店だせるレベルで美味い!ルーで作るカレーなんて、そう大して変わんないだろって思ってたけど、これは美味すぎる!」
「嬉しいんだけどさー。駒井、ジャイアンに見えるよ。」
私がそういうと、夏乃さんが本当だ!って、大笑いした。
「祝ちゃん、やめてよ、また吹き出しそうー。」
そう言って笑う夏乃さんも子供みたいだ。
リコちゃんもおかわりして、駒井のプリンも堪能し、全員のお腹が満たされる頃に、春吉さんから連絡が来た。
「お、食事中?」
「大丈夫です。片付ける所だから。」
「ハルさん。祝ちゃんのカレー、食べたことあります?めっちゃ美味いですよ!もービックリ!」
駒井が大きい声でそう言うと、
「あー、祝。また俺のコーヒー牛乳使ったのか?」
「今日は、リコちゃん仕様で、牛乳です。ってか、ハルさんのコーヒー牛乳古くなるから、飲んじゃいますよ。」
「えー。」
「また買ってあげるから。」
春吉さんの電話にリコちゃんは少し警戒したようだけど、コーヒー牛乳で子供みたいに駄々をこねる春吉さんとのやり取りを聞いて安心できたようだ。
まさか、リコちゃんの事を考えて、駒井がわざと大きい声で話した?
マコトさんが、私を見て合図を送ってきた。駒井や春吉さんの話を聞かせたく無い事は、私でもわかる。
「リコちゃん。リコちゃんがここにいる間使うお部屋に案内するね。」
「え。リコのお部屋。」
「そうだよ。行こう。上の階よ。」
リコちゃんは、マコトさんが連れてきたウサギのぬいぐるみを
「この子も一緒で良い?」
と尋ねた。幼いリコちゃんがこんなことまで聞くなんて、どれだけ自由の無い暮らしを強いられていたのか。
「もちろん。さあ、行こう。」
リコちゃんの手を引いて三階に上がり、以前、大村奏が使った、部屋にリコちゃんを案内した。
「ここがリコちゃん自由に使って良いお部屋だよ。このクローゼットにパジャマとか、タオル、歯ブラシがあるからね。お風呂はないんだけど、シャワーがここにあるから、、、。うん?どうした?」
リコちゃんは入口に立ったまま入ってこない。
「遠慮しないで。入っておいで。」
立ったまま動こうとしないリコちゃんに近づくと、小さな声で、
「、、、怖い。」
「え?」
「うんん、な、なんでもない、、、。ここで良いです、、、。」
小さな声だったけど、確かに怖いって聞こえたと思ったが、ここで良いと。
「あ、ごめん。ここ嫌なんだね。」
「、、、。」
「私が、え?なんて言っちゃったから。ごめんね。えっと、、。このお部屋が、怖いのかな?」
リコちゃんはここに来た最初のように小さく頷いた。
「そっか。リコちゃんには怖いんだね。わ、私もさ、ここに来てまだ何日も経ってないんだけど、、、。えっと、私はね、自分の部屋を初めて見た時にすごく気に入ったの。桜が窓から見えるし、今までいた部屋より広いし。だから、リコちゃんも嬉しいかなーって、かってにそう思っちゃった。リコちゃんの気持ち聞かないで、ごめんなさい。」
「、、桜?」
「そう、桜。」
リコちゃんはグルリと見渡して、
「見えないよ。」
私は、ハッとして、
「そ、そうだね。この部屋からは見えないね。」
「祝ちゃんの部屋からは、桜が見えるの?」
「うん。見える。」
「リコも見たい。祝ちゃんの部屋に連れてって!」
「う、うん、、、。」
私は、千花ちゃんの事を思い出した。
千花ちゃんの家の庭を観察する為、3階の廊下にモニターをセットする時、私は咄嗟に身を隠した。外から自分の姿が見られてしまうと思ったから。
でも、廊下の窓ガラスはマジックミラーになっていて、外からは見えない。おそらく、シェルターとして使われるこの部屋の窓ガラスも同じだろう。
クローゼットをどかすと繋がっているマコトさんの部屋の窓もそうかもしれない。
だが、繋がっていない私の部屋の窓は、普通のガラス窓かも。
「リコちゃん。ここの窓はね、お外からリコちゃんが見えないようになってるんだけど、私の窓は違うの。桜が見えるけど、お外からリコちゃんの姿も見えちゃうと思うんだ。ここにリコちゃんが居る事がわかっちゃう。」
「え、、、。」
「そうなったら怖いっよね。」
「、、、うん。」
「だから、えっと、、。私もここに一緒にいるから。そしたら怖く無いかな?どう?一緒にベッドで寝ても良いかな?」
「うん。祝ちゃんがいてくれるなら、ここで良い。リコ、いつも暗いお部屋で一人なの。ショウコさんが寝る時来てくれる事もあるんだけど、、。内緒だから。」
「そうか。一人でいるの怖いもんね。」
自由も奪われ、叩かれる恐怖にいるんだ。知らない部屋に一人にされるのは怖いに決まってる。
桜が満開になる前に必ず解決して、部屋から桜を見せてあげると心に誓った。




