二十一 大ピンチ!
クレを出て、急足で千花ちゃんのお花屋さんに向かおうとしたら、
「待て待て、焦るなって言っただろ。」
「あ、そっか。」
「ちょっと待ってろ。」
春吉さんは、Pの一階の電気屋さんの作業場の様な部屋に入るとすぐに工具箱を手にして出てきた。
「三階に上がるぞ。」
「え、あ、はい。」
二人でエレベーターに乗る。三階に着くと千花ちゃんの家が見える、廊下の窓にたった。
「千花ちゃん家、よく見えますね。って事は向こうからも丸見え!」
私は、慌てて身を低くして壁に体を隠した。
「祝、いい心がげだな。」
「ハルさんも座らないと!」
「お前、そうならとっくに俺は身をかがめてるだろ。」
「あ、そうか。え、じゃあ?」
「マジックミラーだ。向こうからは見えてないの。」
「スゴ。」
「考えてみろよ。ここには、」
「避難場所!」
「だな。外から見えたら役してないだろ。」
「確かに。」
「わかれば、よろしい。」
春吉さんは、窓にスマホを二つ設置した。
「これは?」
「一つは監視カメラ、兼、録画用。もう一つは対人センサーだ。」
「対人センサー?」
「建物内や、木とかでハッキリとわからない所でも、人の熱や、心臓の鼓動で、何人いるか、どこにいるかがわかる。」
「めちゃすごいじゃないですか!」
「ハル様だぞ〜。こんなの朝飯前だな。ハハハハ。」
背だって、顔だって、平均ど真ん中の春吉さんが、どうしよう、ますますカッコ良く見えてくる。
「祝には、これやるよ。」
「え、こんなハイテクあるのに、望遠鏡ですか?」
春吉さんは、お得意のニヤつき顔を見せ、
「人の目には、見えてなくても、感じる時があるんだよ。さっき祝みたいにな。この望遠鏡で、ただ千花ちゃんを探すんじゃないぞ。それは俺のこのスペシャル技術が祝の目よりも確かだからな。お前は、機械にはできない、違和感を見つけるんだ。いいな。」
「違和感、、、。」
責任重大だ。だけど抽象的すぎて何を見つけて良いのかわからない。
「違和感、違和感、違和感。」
呪文のように唱えながら、千花ちゃんの家を見つめた。
(違和感って、いったい何よー。)
抽象的すぎてさっぱりわからない。ついこの間まで、こんな仕事に就くなんて予想もしていなかった。それなのに、さっきの祝みたいにって言われたって、わかるわけもない。
「ハルさん!違和感てなんですかね!何見たら良いんですかね!」
望遠鏡で千花ちゃんお家を見ながら、春吉さんに答えを求めた。焦る、めちゃめちゃ焦る。どうしたら良いんだ!でも、
「あ!」
「何か見つけたか!」
「違和感って言っていいかわかんないですけど、、、。」
「良い。言ってみろ!」
私は千花ちゃんの庭の一角を指差し、
「あそこ、えっと、窓の下の植え込みの下。鉢が倒れてます。」
5つ程積み重なった鉢が倒れていた。春吉さんも見て
「確かに倒れてるけど、、、。何も植ってない鉢なら、倒れてても、そんなに不思議じゃないだろ?」
「確かに。私だったらなんの問題もないです。でも千花ちゃんだから。千花ちゃんのお店って、すごく整理整頓されてるんですよ。」
「うん、そうだな。」
「倒れてる鉢の横、見てください。」
「横?」
「木ばこの中に、鉢が並んで入ってますよね!」
「本当だ。」
「なのに。あの5つだけ、箱から出て、しかも地面に倒れて。何かをこれから植えるにしても、売り物をあんな無造作に置かないと思うんです。」
「ん、だな。」
「箱から出した時に、誰かが訪問してきて、慌ててそこに放置した。そう思いませんか?」
「慌ててか。確かに、そう見える。祝、でかした。」
「はい!」
もう泣きそうだった。違和感らしきものが見つけられたかもしれない安堵感。合っていてほしいと思う気持ち。それから、千花ちゃんを助けたい。全部が入り混じって、泣きそうだ。
「祝。泣くなよー。まだ何も進んでないんだぞ。」
「はい。わかってます!」
自分の頬をパンパンと2回たたいて気合いを入れた。春吉さんは、人感センサーの先に何やら付けて
「もっとピンポイントに精度を上げるぞ。」
感度が上がった人感センサーから繋がるタブレットには赤くモヤモヤと動く物体が映し出された。春吉さんが私をまた、ニヤッと見て
「祝ー。ビンゴだ!見つけたぞ。」
「本当ですか!」
「ああ。お前の見つけた違和感。その上の窓付近だ。デカイ人物と、小柄な人物がいる。」
「小柄は千花ちゃん?」
「きっとそうだな。それに比べると、、、。もう一人はデカイ。多分190センチはあるな。」
「そんなに!男の人ですね。」
「しかも、ガタイも良さそうだ。」
「え、、、。そんなことまでわかっちゃうんですか、、、。」
「ビビったのか?」
「ビビりますよ!そんなのと千花ちゃんが一緒にいるなら早く助けないと。」
「確かにな、、、。でも、単に身内かもしれない。万が一、千花ちゃんが囚われの身でいるなら、いきなりカチコミかけると、かえって危険かもだしな。」
「えー。どうするんですか?どうしたら良いんですか!」
春吉さんは、スマホを取り出して
「やっぱ、こんな時はマコトさんだな。」
「そうですね、電話してください!」
春吉さんがスマホを耳にあてた瞬間だった。
ーガッシャン、ドンー
千花ちゃんの家から、大きな音がした。
タブレットに目をやると、赤い塊がすごい勢いで動いている。窓の外を見ると窓から何かが飛び出した。
「ハルさん!」
「ヤバイな。行くぞ!」
「はい!」
春吉さんは、階段を駆け降りて、『その先は何もないから、落ちるぞ』
と言っていたドアを開けた。
「えー。落ちますよーーー。」
「ちゃんと掴めば落ちないよ!」
そこには消防士が緊急で降る時に使うような、銀色のポールがあり、春吉さんはスルリと簡単に滑り落ちていった。
「内緒な。」
「えっ。」
「先、行ってるぞー。」
「え、、、。いきなりすぎる事ばっかり、、、。」
でものんびり階段を降りている時間はどう考えてもなさそうだ。内緒って何をだろう?とにかく行かないと、
「エイッ!」
思い切ってポールにしがみついたけど、やっぱり上手く掴めなっかた。思ったよりも速いスピード地面に叩き付けられた。
「イタタタ。」
ーダダーーンー
その時、さっきよりも大きな音と
「うーー、、、。」
その声は間違いなく、春吉さんの呻き声だ。
「痛がってる場合じゃない!立たなくちゃ。」
大きな物音にビビるよりも、助けに向かうことに自然と集中できていた。
千花ちゃん家の敷地に植え込みをかき分けてたどり着くと、目の前には、倒れた千花ちゃんを守るように春吉さんが覆い被さっている。
「ハルさん!」
二人の前には大男が棒のような物を振りかざして立って、今にもそれを振り下ろそうとしている。
「何すんのよーーーーー!」
人生で一番のピンチだけど、人生で一番頭に血が上った瞬間だった。




