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19 .パーティーでの様子

カディスの話はレガッタも初めて聞くようで、両手で口元を隠しているが、指の隙間から大きく開けた口が見えている。

顎に拳を添えて考え込んでいるルージュとは正反対の反応で、見ていたアイビーは小さく笑った。


「カディス殿下のことは何一つ聞かれませんでした。令嬢の話し振りから、ラシャン様に熱をあげているんだとばかり思いましたが」


「そんなに僕のことを聞かれたの?」


「はい。身長はどれくらいだとか、髪の毛はサラサラなのかとか、仲のいいご令嬢はいないのかとか、どのような女性が好きなのかとか」


ラシャンの顔が歪めば歪むほど、カディスは肩を揺らして笑っている。

レガッタに「性格悪いですよ、お兄様」と注意され、何とか笑いを収めていた。


「アイビーのことは何か言ってなかった?」


「ラシャン様と仲がいいというのは本当なのかくらいですね」


「堂々と聞くんだね。ルージュから漏れるとは思わなかったのかな?」


「先にヴェルディグリ公爵家と親交があるのかどうか尋ねられた時に、『ありません』と答えたからだと思います」


「え? ルージュ様、私たちお友達ですよね?」


目尻を下げながら瞳を潤ませてルージュを見ると、大袈裟に顔を背けられた。


「……そうね。友達よ」


耳を真っ赤にしているルージュに、アイビーはニマニマしてしまう顔を止まられない。

「可愛い」と呟くラシャンに、カディスは呆れた視線を送っていて、レガッタは同意するように頷いている。


咳払いしながら姿勢を正したルージュの視界にも、アイビーの緩んだ顔が入ってしまったのか、ルージュは頬を赤く染めた。


「あれですわね。ルージュは停学の件で、私やアイビーとは距離が空くと思ったのでしょう」


「いや、その、まぁ、ね」


「ルージュ様、私、不細工とは友達にならないって決めているんです。だから安心してください」


力強く言い切るアイビーに、誰もが目を点にした後お腹を抱えて笑いだした。


「あなた、それ他で言わない方がいいわよ」


「私はアイビーの気持ちが分かりますわ」


「論点ズレてるから」


「殿下、ズレていませんよ。アイビーの優しさです」


ルージュとはずっと友達だと言っただけで、ここまで笑われるなんて思わなかった。

首を傾げそうだったが、そんなことよりも初めてルージュが笑ってくれたことが嬉しくて、アイビーは顔を綻ばせながら笑っているみんなを眺めていた。


「話を戻すけど、バイオレット・メイフェイアの目的はラシャンになったって思っていいかもね」


「無駄なことですけどね。そもそも、どうしてセルリアン王国に拘るんでしょうか?」


「さぁね。ルージュ、他には何かない?」


「いいえ、令嬢はすぐに色んな人に囲まれてしまいましたから、少ししか話していないんです」


「そっか。じゃあ、フォンダント公爵家はどうだった?」


「穏やかな雰囲気の人たちでしたよ」


「ご令嬢はいた?」


「いました。パーティーに慣れていないのか、挨拶の間ずっと顔が強張っていたのが印象的でした」


「会話は?」


「いいえ、挨拶だけです。ただ、はとこが言うには、社交界の人気はバイオレット・メイフェイア公爵令嬢の方が高いようです。なんでも彼女が出席するかどうかで、パーティーが成功か失敗かになるそうです」


「随分と力があるんだね」


「最近はファッションブランドを立ち上げたそうでして、また人気が上がったそうです」


「そこまで特出していると、天才を通り越して奇才で怖いね」


「そうですね。未来視もできますしね」


難しい顔をして考え込んだカディスとラシャンを、不思議そうに見ているレガッタが軽く言い放った。


「何が怖いんですの? ただの抜けている人ですわよ」


「レガッタ、どういうこと?」


「バイオレットというご令嬢がお兄様からラシャン様に鞍替えしたのは、お兄様が婚約したからですわ。アイビーに接触したのは、確実にラシャン様と結ばれたいがため。それは、どうしてもセルリアン王国に移住したいということですわ。アムブロジア王国での地位も人気も独り占めしているのに、アムブロジア王国を捨てるということは、アムブロジア王国に何かあるんですのよ」


「移住しなければいけない何か、か」


「でも、殿下。アムブロジア王国で何かが起こるのなら、家族と一緒に引っ越そうと思いませんか? それならば、バイオレット・メイフェイア自身に何か起こるからの方がしっくりきます」


カディスが、真っ直ぐにアイビーを見てきた。

見つめられている理由が分からないが、可愛らしく微笑んでみる。

だって、どの顔も可愛いが、笑顔が1番愛らしいのだから。


すると、カディスが肩から力を抜くように息を吐き出した。


「レガッタのおかげで見方を変えることができたよ。ありがとう」


——本当にカディス様は、私を可愛いと思わないのよね。どこまでズレているのかしら。


アイビーは心の中で少し拗ねながら、冷めかけている紅茶で喉を潤した。

カディスの言葉に顎を上げて胸を張ったレガッタは、横でお茶のお代わりをチャイブに伝えている。


——バイオレットさんの目的かぁ。アムブロジア王国に何かあるなら戦争? セルリアン王国に移住したいなら、セルリアン王国との戦争じゃないよね。


バイオレットが起こしてきた行動の数々を思い返して、頭を悩ませる。


——どこに私が絡んでくるのかな? レガッタ様たちには言えていないけど、私を探しはじめたことが始まりだからなぁ。絶対にどこかに絡むと思うのよね。


ただ先ほどのラシャンの発言である「バイオレット・メイフェイア自身に何か起こるからの方がしっくりきます」に、会ったことがないアイビーがどう関わるかなんて何度考えても見当がつかない。


——やっぱりバイオレットさんの件は、判断材料が少ないわ。それに、今はバイオレットさんのことより、ルージュ様の方が気になるのよね。できるだけルージュ様と一緒に行動して、ダフニさんとレネットさんを注意しないといけないわ。


チャイブはレガッタだけではなく全員のお茶を新しい物に替えてくれたので、カップから立ち昇る匂いで気合いを入れた心が緩んだような気がした。






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