20 .何かの暗号?
ルージュの学園復帰後、すぐに祖母であるローヌの誕生日会があり、アイビーとラシャンは学園を休んだ。
家族で過ごす1日は、楽しくてとても幸せだった。
アイビーのプレゼントの手作りお菓子は、ローヌに待ち望まれていて嬉しかった。
でも、翌日登校中の馬車の中では、またルージュに何かあったらどうしようと不安だった。
ラシャンに「大丈夫だよ」と言われても、心配なものは心配だ。
馬車を降りたアイビーは足早に教室に向かい、席に着いているルージュを見て安堵の息を吐き出したのだった。
それから、1週間2週間と過ぎたが何も起こらない。
穏やかで平和な毎日だ。
長期休暇前に試験があるため勉強会と称して、レガッタとルージュと3人でヴェルディグリ公爵家で勉強をしている。
ルージュは1度ヴェルディグリ公爵家を訪れてからは、レガッタが来る時は一緒に出向いてくれている。
仲良くなれているようで、本当に嬉しい。
友達と呼べるレガッタとルージュの存在に、心が潤っている。
ルージュと距離をとっていたクラスメートたちも、転落事件以前のようにルージュと会話をするようになった。
ダフニとレネットをマーリーの軍団の中にいるのを見かけるが、アイビーたちに接触してくる気配はない。
気合いを入れていたのに肩透かし感が強いなぁと気を緩ませていると、バイオレットから手紙と小包みが届いた。
小包みはチャイブたちの手によって隅々まで精査するそうで、手紙だけ手元にやってきた。
他にも手紙はあるが、バイオレットの手紙から読みはじめる。
「ねぇ、ルアン。バイオレットさんがデザインしたドレスを贈ってくれたそうなんだけどね。会ったことないのに、どうして私の瞳の色を知っているんだと思う? 緑色の瞳にきっと似合うと思いますって書かれているの」
——カフィーの色も知ってたのよね。やっぱり同一人物と分かっていて、仲良くなろうとしているんだよね? まだ2回目の手紙だし、目的に触れたりしないだろうなぁ。
「お嬢様は可愛いですし、殿下の婚約者ですから、知ろうと思えばすぐに知ることができますよ」
「それもそっか。ルアンはドレスを見たの?」
「いいえ。しかし、見たことがない形をしたドレスだと聞きました」
「そうなんだ。問題なかったら見せてもらおう」
「見られるだけでしたら大丈夫だと思いますよ」
アイビーは、クッキーに伸ばそうとしていた手を止めた。
盛大に首を傾げる。
「リアじゅう? てへぺろ? 最……何の図だろ……高? 顔の絵だよね?」
「お嬢様、どうされました?」
「バイオレットさんの文章が不思議なの。『このドレスを着て、カディス殿下とのリアじゅうデートを楽しんでください。爆発しろなんて思ってないですよ。嫉妬しているわけでもないですからね、てへぺろ。2人は最……高にお似合いですので憧れているんです。私も早く私だけの王子様に出逢いたい気持ちでいっぱいです(^_^)』だって」
「こちらでは使わない言葉ですね。アムブロジア王国では普通なのでしょうか?」
「バイオレットさんが書いているってことは、そうなのかも。伝えたいだろうことは何となく分かるから返事は書けるけど、これが続くとなると分からない言葉も増えてきそうだよね」
「分からない時は、素直にお伝えすればよろしいと思いますよ。国が違うんですから理解してくださいます」
「うん、そうする」
続きの文章にも視線を走らせ、早速返す言葉を考える。
返信の手紙は、ラシャンが書き上げてチャイブたちの確認の後、カディスや陛下も目を通してからアムブロジア王国に送られることになる。
なので、発送するまでに約3週間近くかかってしまう。
今回もカディスとの仲睦まじい出来事を書き綴り、カディスと兄のラシャンが親友だということも付け加えておいた。
——お兄様を狙っているのなら、何かしら反応を見せるんじゃないかな?
そんな思惑があってのことだ。
「私だけの王子様に出逢いたい」という言葉があったので、理想の男性を尋ねてもみている。
カディスからは「アイビーの手紙はこれでいいとして、バイオレットの頭が悪そうな文章は何なの? 何かを試されていると勘繰ってしまいそうだよ」と溢された。
後から知った話だが、チャイブとシュヴァイは暗号が隠されているのかもと数日徹夜してまで調べたそうだ。
「何も分からなかった」と肩を落とす姿を見て、気の毒だと思い、2人を労った。
バイオレットから贈られたドレスは、怪我をするような針や、肌に触れてはいけない毒類等は見当たらず、縫合もきちんとされているという結果が出たので、見せてもらえることになった。
ラシャンも同席している。
「サラサラの布を体に巻くドレス? ですか?」
「ドレスじゃなくて夏用のワンピースみたいだよ。着付けの仕方の絵も一緒に入っていたんだって」
「不思議なワンピースですね」
「洋装店に問い合わせたら、アムブロジア王国のお茶会で流行りはじめている衣装らしくて、まだセルリアン王国には入ってくるほどの数が販売されていないんだって。店主も噂には聞いていたけど見たのは初めてだって興奮してたらしいよ。さすがヴェルディグリ公爵家ですねってね」
「ということは、本当に親切で贈ってくださったんですね」
「そうなのかな?」
「きっとそうですよ」
「アイビーがそう言うならそうだね」
ここにカディスがいれば白い目を向けそうな言葉を言ってのけるラシャンに、アイビーは幸せそうにクスクス笑ったのだった。
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