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16 .イエーナのいいところ?

お昼休みにカディスから尋問のように抱きついたことを問われ、アイビーは「悪者を釣る作戦です」と答えた。

カディスには大きなため息を吐き出され、ラシャンには頭を抱えられたが、絶対に引き下がらないという強い瞳で見つめると、渋々協力をしてくれることになった。


「危ないことしないでよ」


「分かっています」


「そもそも捕まえてどうするの?」


「どうもしませんが、私のせいでルージュ様を巻き込んだのなら許せません。やられっぱなしもムカつきます」


当初の目的とは、大分と変わってしまっている。

授業中に改めてレガッタの予想を考えていたアイビーは、もし本当にダフニの罠だとしたらルージュを巻き込んだことになると怒りを覚えていた。


だからといって、友達のルージュと離れる選択肢はない。

レガットとルージュと3人でいるのは、楽しいし心地いい。

となれば、もう巻き込まないように敵を叩きのめすのみだと気合いが入ったのだ。


「巻き込んだかもっていうけど、あの2人は元々仲が悪いんだし、遅かれ早かれこうなってたよ」


「それでもです」


つい拗ねるように顔を背けてしまい、カディスに肩をすくめられた。


「アイビー、本当の本当に危ないことはしないでね。今日のようなことも事前に教えておいてね。僕も一緒に色々考えるから、1人で行動しないでね」


ラシャンの面持ちや口調から、アイビーを止めたい気持ちと、好きなようにさせてあげたい気持ちがせめぎ合っているんだと気づいた。

心を配ってくれていると感じるから、素直に頷くことができる。


「心配かけるようなことはしません。きちんと相談します」


ラシャンに「絶対そうしてね」と優しく頭を撫でられ、もう1度深く頷いて約束した。


「とりあえず、仲の良さを広めたいのなら、僕とラシャンが1年の教室に行くよ。今日の様子を見る限り、アイビーは1人で動かない方がいいだろうからね」


「私、一緒に動きますわよ」


「ううん、レガッタと2人でも動き回るのはやめた方がいい。レガッタの相手がイエーナだからか、まだチャンスがあるって思っている奴は多いだろうからね」


「壊せるものなら壊してほしいですわ」


頬を膨らませるレガッタに、ラシャンとカディスは笑みに苦さを滲ませている。

たぶんどう足掻いても壊せないのだろう。

だから、何も返せず、苦笑いになってしまったんだろう。


「そういえば、お見かけしませんよね。私、殴ろうと心に決めているのに、タイミングがなくて残念です」


「それは、私とアイビーが一緒にいると知っているからですわ。私と会おうとしませんから」


「聞けば聞くほどクズなんですが、いいところはあるんですか?」


「ありませんわ」


言い切るレガッタに、ラシャンは大きく頷いている。

乾いた笑いを浮かべたカディスが、アイビーに教えてくれた。


「一応、成績は優秀だよ。上位3人には絶対に入っているからね」


「それだけですか?」


「後は、色々拗らせる前は動物好きの優しい奴だったよ。クレッセント公爵家の領地にはイエーナ専用の森があって、そこでたくさんの動物を飼うほどだからね」


「それはとても素敵ですね」


「「え?」」


——たくさんの動物って、何の動物がいるのかな? いいなぁ、私も動物と遊びたいなぁ。


瞳を輝かせながら可愛い動物たちを妄想しているアイビーの頬は緩んでいる。

問わなくても、イエーナを褒めたのではなく、動物が好きでイエーナを羨ましがっていると分かるほどニヤけているのだ。


「アイビー、お祖父様と父様に相談して、放し飼いできる森を用意してもらおう。すぐに動物が飼えるように準備してくれるよ」


「森ですよ? そんな簡単に用意できるんですか?」


「王都では難しいけど、領地にはたくさんあるからね。屋敷の裏の森ならすぐに行けるし、変化があれば対応できるしね」


「お兄様、本当に本当ですか? たっくさんの動物さんと過ごせるようになりますか?」


ラシャンの瞳が、優しく細められる。

カディスたち以外の生徒がいたのなら、全員目をやられて倒れたことだろう。


「僕はアイビーに嘘をつかないよ。夏の長期休暇までに用意してもらおう。領地のことだからジョイに頑張ってもらわないといけないけどね」


「では、お祖父様とお父様の許可がでましたら、私、ジョイにお願いの手紙を書きます」


「ジョイもアイビーからの手紙の方が喜びそうだね」


柔らかく笑っているラシャンを、カディスは冷めた瞳で見ている。

そんなカディスの腕を、レガッタが叩いた。


「お兄様。私、夏はヴェルディグリ公爵領に行きたいですわ」


「行ってきたらいいよ。僕はグルーミットに行くから」


「私もグルーミットに行きますわよ。お父様が仰っていましたから、もちろんアイビーもですわ。その後にヴェルディグリ公爵領に行きたいのです」


カディスが、眉根を寄せながらレガッタを見やった。


「行っておいでよ」


「絶対分かってて仰ってますよね? 私1人では許可が下りませんわ。お兄様、一緒に行ってくださいまし」


「嫌だよ。僕は王都に戻ったら、騎士団の遠征について行くんだから」


「あら? 申請が通りましたの?」


「まだだよ。でも、絶対に遠征に行くんだよ」


「分かりましたわ。ヴェルディグリ公爵領のことは、私からお父様にお願いしますわ」


「レガッタ。僕のことは数に含まないでよ」


「私からは『お兄様と一緒ならもっと楽しいと思う』くらいしか言いませんわ」


「レガッタ、それさえも言わないこと。いい?」


レガッタは、返事をせずに食後のお茶を優雅に飲んでいる。

もう1度強めに「レガッタ」と言うカディスに、アイビーとラシャンは顔を合わせて笑ったのだった。






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