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15 .悪者を釣る作戦

翌日レガッタに相談すると、レガッタは「根回しがすごいですわ」と苦々しい面持ちをした後、気合いをいれるように手を握り締めた。


「目的をはっきりさせないといけませんわね」


「目的ですか?」


「そうですわ。何のためにルージュを利用する必要があったのかですわ。分からないことには対策が取れませんもの」


——それって、これからも何かしてくるかもってことよね。私は、モヤモヤする気持ちを解決したくて調べただけだけど、確かにこれ以上貶められないためには、どうしてそんなことをされたのか知っておく必要があるわ。


「やる事は簡単な事ですわ。アイビーがお兄様との仲をもっと見せつけますのよ」


「構いませんけど、どうしてですか?」


レガッタは人差し指を立てて、アイビーの目の前に押し出してきた。


「マーリーとレネットという令嬢はラシャン様目当てですから、2人が仲がいいのは不思議かもしれません。でも、大きな派閥は人数が多いですから、好みが被ることもありますわ。ですから、一旦置いておきましょう。次の動きを待つのですわ。今回の事件で注目すべきは、ルージュの地位が落ち、ダフニが好感度を上げたことですわ。そのために事件をでっちあげたのだとしたら、立場を固めたダフニが目指すのはお兄様との婚約ですわ」


「ダフニさんが立場を固めたくらいで、私とカディス様の婚約が破棄されることはないですのに」


「まぁ! 本当にアイビーとお兄様は信頼し合っていて素敵ですわ」


「ありがとうございます」


照れたように微笑むと、レガッタは口元を手で隠しながら「キャー」と漏らしている。


——レガッタ様の予想が当たっているとしたら、ルージュ様は利用されたってことよね? 酷い話だわ。そんなんだから、カディス様に冷たくされるのよ。


「でも、どうしてカディス様との仲を見せつけるんですか?」


「私の推測が当たっていれば、ダフニはまた何かをしでかそうとしますわ。今はルージュがいませんから、次はアイビーに虐められたと言うかもしれませんわ。もしダフニに動きがなければ、私の考えが外れたことになりますから、ダフニが落ちたのを見たというレネットに絞って考え直すことができますわ」


——なるほど。1つ1つ可能性を潰していくのね。さすがレガッタ様。素晴らしい考えだわ。明るくて可愛いいだけじゃないなんて素敵。それにしても、たくさんの井戸端会議を聞いていたのに、こんな狡賢い手法を思いつかないなんて、私はまだまだだわ。もっと勉強しないといけないわ。


心に活を入れたアイビーは、カディスとの仲を見せつけるべく、次の休憩時間に3年生の教室がある階に足早に向かった。

ラシャンとカディスはDクラスだと教えてもらっている。


一目散にDクラスに向かっていると、3年生の廊下をアイビーが歩くという光景が珍しいのか、ワラワラと男性陣が集まりはじめた。

声を掛けてみるかどうかの話し合いも聞こえてくる。


「あ! カディス様!」


もうすぐDクラスに到着するというところで、どこかに行っていたらしいラシャンとカディスが反対側から歩いてきた。


「え? アイビー?」


素っ頓狂な声を上げたのはラシャンで、速度を上げて近づくアイビーに駆け寄ってくる。


が、アイビーはラシャンを素通りして、カディスに飛び込んだ。

軽々受け止めてくれたカディスに微笑みかけると、笑顔を返してくれたが目が笑っていない。


「へへ」


照れたように笑ってみるが、目の垂れ具合を変えないカディスの瞳が「説明を」と言ってくる。


「会いたくて来ちゃいました」


「僕も会いたかったから嬉しいよ」


「本当の理由は?」と副音声が聞こえてきたが、アイビーは気にせず可愛らしく小首を傾げた。


呻くような落ち込むようなため息が、何重にもなって聞こえてくる。

でも、それよりも耳に届くのはラシャンの泣き声だ。

「僕、何をしたんだろう? アイビーに嫌われた?」という呟きは、悲壮感に満ちている。


小さく息を吐き出したカディスの唇が、耳元に寄せられた。


「ラシャンをどうにかしてから戻ってよ」


「泣くとは思いませんでした」


顔を寄せ合って囁き合う姿に、ラシャン同様に他の泣き声も大きくなっている。

「殿下相手に勝てねぇ」や「2番目でもいい」と悲しむ男性たちを、カディスは瞳だけを動かして確認していた。


カディスに背中を柔らかく叩かれたので、離れる合図だと分かり、アイビーは恥ずかしそうに微笑みながら離れた。

わざとカディスと数秒見つめ合ってから、肩を落としているラシャンの腕の抱きつく。


「お兄様、大好きですよ」


「アイビー、本当に? 僕のこと嫌いになったわけじゃない?」


「もちろんです。お兄様を嫌いになることなんてありません」


「本当に?」


こんなにもラシャンが傷付くとは思っていなかったので、どう機嫌を取ればいいのか分からなくなる。

今だって愛らしく微笑んでいるのに、ラシャンの瞳には悲哀が満ちたままだ。


——あ! チャイブ秘伝の必殺技を使ってみよう! 「強力だから、ここぞという時に使うんだぞ」って何度も注意されたアレなら、きっと機嫌を治してくれるわ。


「はい。お兄様が誰より好きですよ」


アイビーは、背伸びをしてラシャンの頬にキスをした。

声無き声が響き渡る中、ラシャンは震える手でアイビーにキスされた頬を触っている。


「アイビーが、僕にキス……キスしてくれた……」


そして、大量に涙を流しながら、アイビーの頬にキスをし返してきた。

アイビーも、頬を差し出すようにして受け入れる。

幸せそうに「ふふ」とラシャンと笑い合っていると、白けた顔をしたカディスに肩を叩かれた。


「アイビー、休憩時間終わりそうだよ」


「急いで戻ります。また会いに来ますね」


「大変でしょ? お昼休みを楽しみにしているよ」


「いっぱい会いたいんですよ」


アイビーは最後にもう1度カディスに抱きついてから、駆け足にならない程度の速度でその場を離れていく。


小さくなっていく背中を見ながら、カディスが呆れたように息を吐き出した。


「ラシャン、泣き止みなよ」


「殿下には、この喜びが分からないんですよ」


「あっそ」


ラシャンとカディスがDクラスに消えると、廊下にいた野次馬も散っていった。






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