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8 .手紙

学園から帰ってくると、アイビー宛てに送られてきている手紙に目を通す。

チャイブが全て確認してくれていて、読んだ方がいいだろう手紙だけがアイビーの手元にくるのだ。


ラシャンは帰宅後稽古をしているので、この時間はいつも別々に行動している。


「ねぇ、ルアン。これ、どういうことかな?」


この時間の担当はルアンで、チャイブから「ルアンには聞きたいことを聞いていい」と学園に通いはじめてから言われていた。

なので、疑問に思ったことは、その場で遠慮なくルアンに尋ねている。


アイビーが手に持っているのは、先ほどまで読んでいた赤い封筒に入っていた便箋。

文字は丸文字で書かれていて、少し読みづらかった。


「ダフニ・スペクトラム公爵令嬢からですね。何かございましたか?」


「ルージュ様に虐められているから助けてほしいって書いているの。どうして私に送ってきたのか分からなくて」


「お嬢様は、ルージュ公爵令嬢とお友達でしたよね?」


「うん。ルージュ様って、とてもしっかりとしていて、よく助けてくれるの。優しい方よ。お友達になれて嬉しいの。だからね、どうしてルージュ様の友達の私に送ってきたのかが分からないの」


頬に指を当てながら首を傾げるアイビーに、ルアンも「うーん」と腕を組みながら頭を捻っている。


「お嬢様、1つ1つ解決していきましょう」


「なにを?」


「まずは、お嬢様はルージュ公爵令嬢がダフニ公爵令嬢を虐められていると思われますか?」


「ルージュ様なら『そんな面倒臭いことしないわ』って言うと思うの。でも、ダフニさんが虐められているって言うことは、そう思う何かがあるのかもしれないわ。2人には距離があるように思えるから」


「では、お嬢様は虐めに関しては『分からない』という意見でよろしいですか?」


「うん、そうね。片方が言うんだから何かあるんだろうけど、現場を見ていない私では判断できないわ」


アイビーが頷くと、ルアンもしっかりと頷いている。


「では次に、ダフニ公爵令嬢を助けたいかどうか考えましょう。どうですか?」


「ん? 別に助けたいとは思わないわ。友達でもないし、話したのは挨拶の時の1回しかないもの」


——だから、助けを求められるのが不思議なのよね。私じゃなくて友達に言えばいいと思うの。いつもたくさんの人といるんだから、誰か相談に乗ってくれるはずだよ。


「答えは出ましたね。『私では力になれそうにありません』と返すか、無視をしましょう。返信をされる場合は、『大人に助けを求められたらどうですか?』とも付け加えておきましょう」


「そうね、返信はするわ。問題解決には大人の力が必要かもしれないから」


「はい。それだけで十分ですよ。どのような意図があって送ってこられたのかは確かに重要ではありますが、お嬢様がどうされたいかが何よりも大切になります。それに、チャイブ様も読まれていますから、何か気になることがあれば調べられると思いますよ」


「ルアンの言う通りだわ。ありがとう」


「いいえ。一緒に考えますので、なんでも話してくださいね」


返信をする方の箱にダフニの手紙を入れて、まだ読んでいない手紙を手に取る。

次は爽やかな香りが漂う手紙で、匂いだけで誰からか分かった。

前回届いた時も同じ匂いをさせていた。


「バイオレット公爵令嬢からね」


手紙には、文通を了承したことへのお礼と、これから仲良くしてほしいことが書かれていた。

そして、カディスを褒めるような言葉と、どのように婚約が決まったのか教えてほしいと続けられていた。


——そういえば、カディス様は1度婚約を打診されたんだよね? 初めて手紙が届いたのを話した時に、そんな話を聞いたような気がする。うーん……もしかして、カディス様のことが知りたくて、私から情報を引き出そうとしているのかも。もしそうなら、思いっきり惚気ればいいのかな? バイオレット公爵令嬢ではダメだったってことだもんね。諦めてもらえるように振る舞った方がいいよね。


この手紙も返信する箱に入れ、残りの手紙を読んでいく。


洋装店から届いた手紙をルアンに相談すると、老舗ではなく最近できたお店だと教えてくれた。

アイビーが着用すれば宣伝になるため、着てほしくて送ってきたのだろうとのこと。


他にも、お茶会や趣味を共有するサロンの招待を確認し、処理をする。


中でも面白かったのは、「アイビー見守り隊」を正式に「アイビーのファンクラブとして設立させてほしい」という手紙だった。


ファンクラブとは? という疑問は、好きな人を応援したり支持したりする団体という説明と共に、隣国アムブロジア王国で流行っていると書かれていてすんなりと解決した。


邪魔にならないようにするので眺めさせてほしいことと、可能なら年1でいいのでお茶会に顔を出してほしい旨がしたためられていて、小さく笑ってしまう。

無茶な要望は記されていなかったので、面白くて了承することにした。


ほとんどの手紙を仕分けしてから返信をするため、大体夕食前に終わる。

休日に一気に片付けてもいいのだが、休日は訓練をし絵を描きたいので雑務に時間を取られたくないのだ。


手紙が少なかったり無い場合は、本邸から借りてきた歴代のヴェルディグリ公爵家の人たちの人生の本を読んで過ごしている。

これが中々面白くて、アイビーの中では今1番ハマっているものだ。

今日は、ダフニ公爵令嬢とバイオレット公爵令嬢への返信に時間をとられるので読む時間はないだろう。


書いた手紙はルアンに確かめてもらい、バイオレット公爵令嬢宛ての手紙は下書きのためラシャンに渡して清書をお願いする。

その後に、カディスにも目を通してもらうことになる。


惚気とカディスを褒めまくる下書きを確認してくれたルアンから「カディス殿下は喜ばれそうですが、ラシャン様は拗ねられそうですね」と言われ、アイビーは「あっ」とわずかに顔を伸ばしたのだった。






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