9 .マーリー侯爵令嬢の突撃
「失礼、アイビー・ヴェルディグリ公爵令嬢。今、お時間よろしいかしら?」
休憩時間に、お手洗い前で声をかけられた。
顔を向けると、婚約パーティーでラシャンとカディスに冷たくあしらわれていたマーリー・バーチメント侯爵令嬢がいた。
その両脇に婚約パーティーでもマーリーの隣にいた女の子たちと、3人に隠れるように後ろにいるダフニと、3人の隙間から睨むように見てくるレネットがいる。
どうして話しかけられたのか分からなくて、キョトンとしながらマーリーを見つめた。
「何でしょうか?」
「あなた、ダフニさんを突き放したそうね。どうしてそのような酷いことができるの?」
ダフニとは関わっていないのに、そんな意味不明なことでキツく睨まれても困る。
「えっと、何の話ですか?」
本当に思い当たることがなくて問いかけると、マーリーは少しだけ目元を和らげた。
「ダフニさんからの相談を断ったのでしょ。同じ公爵令嬢だから助けを求めたのに協力をしなかったそうじゃない」
「あ、手紙が送られてきたことですね。突き放したというより、私ではスペクトラム公爵家のことは解決できませんので、大人の方に相談することをお勧めしたんです」
「どういうこと?」
マーリーの後ろで体を震わせているダフニに首を傾げながら、手紙の内容を伝えることにした。
ダフニのことを考えてアイビーに文句を言ってくるのだから、きっとダフニの力になってくれるだろうからと。
「ダフニ公爵令嬢がルージュ様に虐められているそうです。それを助けてほしいと言われたんです」
「そのことね。私も相談されたからルージュ公爵令嬢には注意したわ。でも、虐めはなくならないそうなのよ。どうも精霊魔法を僻んでいるそうなのよね」
困ったように視線を下げるマーリーの横から、マーリーの取り巻きに声をかけられる。
「アイビー公爵令嬢は、ルージュ公爵令嬢とよく一緒にいますよね? ダフニさんの話を聞いて離れないということは、あなたも虐められていたりするんですか?」
「そうなの? 大丈夫?」
眉尻を下げたマーリーに本気で心配されるが、瞳を瞬かせるしかできない。
どうしてそういう話になるんだろうと、不思議で仕方がない。
「あら? アイビー、囲まれてどうしたのですか?」
お手洗いに続くドアが開いて、レガッタが出てきた。
休憩時間になり、レガッタと共にお手洗いに来ていたのだ。
レガッタを待っている間に、マーリーに声をかけられたということだ。
「ちょっとした勘違いで声をかけられました」
「勘違いですか?」
「はい。ダフニ公爵令嬢からルージュ様に虐められているという相談をされたんですが、私では力になれないと返したのを突き放したと思われたようです」
「ふーん、そうですのね。話は終わりましたの?」
「質問に答えたら終わります」
アイビーは、視線をレガッタからマーリーたちに戻した。
もちろん可愛らしい笑顔付きだ。
「私は虐められていませんのでご安心ください。ルージュ様は仲のいいお友達ですわ」
マーリーたちに非難するように眉根を寄せられたが、レガッタが「戻りましょう」とアイビーの手をとって歩きだしたからか、批判されることはなかった。
ただ嫌悪感剥き出しで見つめられていた。
少し離れると、レガッタが雑談するように軽く話しかけてきた。
「アイビー。いつ、ダフニに相談されましたの?」
「先週かな? 手紙が送られてきたんです。大人に相談した方がいいと返しました」
「あの子のことだから、大人にも言っていると思いますわ。それに、ルージュが虐めていることは有名ですもの」
「そうなんですか? それでも解決しないって、何かあるんでしょうか?」
「んー、分かりませんわ。でも、私はルージュがダフニごときに、そんなことをするのかしらと思うんですよね。ルージュを見ていても精霊魔法に固執しているように思えませんしね」
「私も同じ気持ちです。ただのすれ違いなのかなって思っています」
教室に戻ると、ルージュは1人で窓の外を眺めていた。
そういえば、アイビーやレガッタがいる時はクラスメートから声をかけられたりお喋りしたりするが、ルージュはアイビーかレガッタが話をふらなければ輪に加わろうとしない。
話に加わったとしても、クラスメートたちは時々怯えたような瞳をしている。
公爵令嬢という立場で微笑まないから怖いのかと思っていたが、虐めの話を知っていて反応していたのかもしれない。
だとしても、何もされていないのに恐がりすぎな気がする。
「ルージュ様、何を見ているんですか?」
「鳥が枝の上で追いかけっこしているのよ」
「本当だ。可愛いですね」
「そうね」
穏やかな瞳をしているルージュを見て、アイビーの疑問は深くなったのだった。




