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28 .王妃カメリア

気を取り直したカディスが、レガッタに話しかける。


「あのね、レガッタの婚約に僕は関係ないんだよ。僕が婚約しているしていない関係なく、レガッタの相手は生まれた時から決まっていたんだから」


「そんなことありませんわ。侯爵家までなら選べたはずですもの」


母のカメリアが、公爵家以外を許すはずがないと思う。

先ほど父で陛下であるルクソールも「アイビーは公爵家だから問題ない」と言っていた。


そういう世界だ。

自分の気持ちなど、二の次が当たり前だ。


だが、11才の少女に、あえて口に出して言うことではない。


「そんなにイエーナが嫌なの?」


「嫌ですわ。女の子を口説いてばかりですもの。選べないのなら、ラシャン様がよかったですわ」


「そういえば、同じ公爵家なのに、どうしてラシャンはダメだったの?」


「ラシャン様は騎士を目指しているかららしいですわ」


「どういうこと?」


「騎士や魔術師は危険を伴う仕事だから文官の方がいい、というお母様の意見ですわ」


「ふーん。イエーナが文官になるかどうかなんて、今の時点じゃ分からないのにね」


「宰相に就かせるため英才教育中だと、お母様が話してましたわ」


「そうなんだ」


カディスは、「どうせ母上の指示だろうな」と心の中でため息を吐いていた。


イエーナは叩き込まれる勉学が嫌でレガッタと距離を置いているんじゃないか、と予想できたからだ。


レガッタと婚約をしなければ勉強する理由はないのだから、レガッタを嫌いじゃなくても鬱陶しく感じているんだろう。

だから、レガッタの婚約者という重責から逃れるため、嫌がられる行動をしている気がする。


2人の仲が悪くなっていっている原因は、大人が理想を押し付けたせいだ。


だとしても、2人とも理想を受け止めなければいけない立場にいる。

カディスが変えてあげられるわけじゃない。


「レガッタには悪いけど、レガッタの婚約者がラシャンじゃなくてよかったよ」


「どうしてですの?」


「僕の婚約者が、ヴェルディグリ公爵令嬢だからだよ。王子と王女の両方が、ヴェルディグリ公爵家だなんて絶対に無理な話だからね」


レガッタは、数回瞬きをしてから首を傾げた。


「お兄様、幽霊でも見てきましたの? ヴェルディグリ公爵家に令嬢はいらっしゃいませんよ」


「それがね、あまりの可愛さに隠して育てていたそうだよ」


「夢でも見られましたの?」


「見てないよ。それに父上も承認済みだよ」


ようやく信じてくれたようで、叫びかけたレガッタは両手で口を押さえてどうにか我慢したようだ。


「そんなに可愛らしいんですの?」


「可愛いよ」


思っていないが、感情を込めて簡単に口に出せる。


真実と嘘の境界線がない日常だ。

真面目に生きていきたくとも、嘘で戦うことを覚えなければ、すぐにボロボロになり立ち上がれなくなる。

自分や大切な人を守るためには強くなるしかない。


だからといって、嘘つきを肯定したくない。

嘘は大嫌いだ。


「お兄様、そのお話をお母様にはしないなんてこと無理ですわよね」


「無理だね。婚約パーティーのことも決めないといけないしね。何かあるの?」


「お母様、ヴェルディグリ公爵家をお嫌いだと思うのですよ」


「どうして?」


「イエーナが嫌で抗議した時にですが、ラシャン様が騎士を目指しているという理由よりも、瞳の色がお嫌いなような素振りでしたわ」


「そっか。でも、母上がどんなに嫌がっても、父上の決定には逆らえないからね」


「そうでしたわ。要らぬ心配でした」


カディスの中で、母のカメリアがティールのことを実は嫌っていた、という線が浮上をしてきた。


カメリアは、誰よりも愛されたい願望がある人だ。

社交界の華だったらしいティールを嫌うには、十分な理由になる。


だから、ティールを連想させるラシャンの瞳が嫌いなのかもしれない。


となれば、アイビーを好きになることはないだろう。


風当たりが強くなるかもしれないとアイビーへの申し訳なさが浮上したが、結婚はしないから問題ないかと罪悪感は消え去っていった。


「お兄様。私、お兄様の婚約者に会いたいですわ」


「明日から学園に復帰するから、ラシャンも家族と一緒に今日戻ってきてると思うよ。明日、手紙を出してみたらどうかな?」


「そうしてみますわ」


笑顔で頷くレガッタに、ラシャンも柔らかく微笑む。


会話が落ち着いたからだろう。

レガッタは食べかけのケーキを思い出し、新しいフォークをバーミから受け取っている。

どうやら最後まで、きちんと食べていくようだ。


「お兄様の婚約者がダフニじゃなくて、本当によかったですわ」


「いくらスペクトラム公爵家に近い傍系でも、男爵家の令嬢に僕の婚約者は無理だよ」


「お父様からおうかがいされませんでしたの? スペクトラム公爵家に養子入りされたのですよ」


「え!? 危なかったぁ。1歩遅ければ無理矢理あてがわれていたかもだね」


「お祖父様は何かと口うるさいですからね。でも、貴重な精霊魔法使い候補らしいですから、何か言ってきそうですわ」


カディスは対立してもらうしかないアイビーに、今度こそ心の中で謝罪をしておいたのだった。






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