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27 .婚約報告

「それで、カディス。これでヴェルディグリ公爵令嬢の話をしてくれるんだな?」


「はい、もちろんです。僕と公女は婚約しますので、父上がヴェルディグリ公爵家を嫌っていないか確認したかっただけです」


「……お前、今なんて言ったんだ?」


「実は、去年お忍びで遊びに出かけた時に、可愛らしい町娘に恋をしたんです。身分の関係上諦めていたのですが、それがヴェルディグリ公爵令嬢だったんです。ヴェルディグリ領で再会をしまして、彼女も私を好いてくれていたそうです。晴れて恋人になり、師団長からも婚約の許可をいただきました。こちらが書類になります」


カディスは横に置いていた書類をルクソールに差し出すが、ルクソールは口を半開きにしたまま受け取ってくれない。


「父上」


カディスの呼びかけに体を揺らしたルクソールは、片手を前に突き出し、片手で頭を抱えた。


「待て待て待て。情報が多い」


「ですから、私はアイビー・ヴェルディグリ公爵令嬢と婚約をします。ヴェルディグリ公爵の許可はいただきましたので、後は父上である陛下が認可してくださればいいだけです」


「相手は公爵家だから反対する理由はないが……そもそもお前、女に興味があったのか?」


「ありませんが、アイビーだけは別だったようです」


「そ、そうか」


困惑しながらもルクソールは、カディスから受け取った書類に目を通している。


カディスは、刺すように見てくるスクワルの視線を無視しながら、静かにお茶を飲んだ。


「分かった。お前の婚約は認めよう。書類に署名をして、1枚は公爵邸に送っておく。しかし、なんだ、その、アイビー公爵令嬢は本当にティールとクローム公爵の子なのか?」


「僕はティール公爵夫人を知りませんが、髪の色以外はそっくりだそうです。髪の色は師団長と同じ色でした。それに、可愛いあまり隠して育てていただけのようです。疑いようがありませんよ」


「なるほどなぁ。隣国の件もあるし、誘拐を恐れているのか」


「そのようです。ですが、僕と婚約をするために表舞台に出てきてくれるそうです。愛されていて嬉しい限りです」


ルクソールから生温かい瞳を向けられると、顔を能面にして本当のことをぶちまけたい気持ちになる。


というか、カディスは、ルクソールにだけは契約のことを伝えようと思っていた。


だが、スクワルの反応を見て考えが変わった。

アイビーを狙うかもしれないのは、隣国だけではない。

ルクソールの右腕であるスクワルの可能性もあると思ったからだ。


「婚約発表は、令嬢の誕生日である1月21日に王宮で行います」


「噂になるだろうからな。準備期間は短いが早い方がいいだろう。カメリアに言えば嬉々として協力すると思うぞ」


「僕が伝えるんですか?」


「私は恋愛話に付き合いたくないからな。それに、お前の婚約パーティーのことだろう?」


「……そうですね。頑張ります」


肩を落とすカディスを笑うルクソールの面持ちは穏やかだ。


アイビーとのことを茶化されながらヴェルディグリ領や立ち寄った他領の話をして、カディスはフィルンをつれて執務室を後にした。

フィルンが用意した茶器たちは、スクワルが片付けてくれるそうだ。


自室に戻ると、顔をパンパンに膨らませている妹がソファに座っていた。

兄が帰ってきたというのに、サファイアブルーの瞳はカディスに向かないでいる。


「レガッタ、僕の部屋で何をしているの?」


「ケーキを食べていますわ」


頬まであるラベンダー色の前髪は左右に分かれていて、普段はレガッタの頬を隠している。

レガッタは、その髪の毛からはみ出すほどに頬を膨らませながら食べているのだ。

ロングヘアの髪は、今日も裾だけ内側に巻かれている。


「自分の部屋で食べなよ」


「私は、お兄様が寂しくないように、ここで食べているんです」


「レガッタが寂しかったんだよね」という言葉は、もちろん飲み込んだ。

久しぶりに会った、可愛い妹と言い合うつもりはない。


カディスはかすかに微笑み、レガッタの隣に腰を下ろした。


すぐさま、レガッタの侍女のバーミが、カディスにお茶を淹れてくれる。


カディスは、アンティックゴールドの髪をうなじ上でお団子にしているバーミを見て、アイビーの侍女であるマラガを思い出していた。

マラガに興味があるというわけではなく、「侍女って似たような髪型をしているよな」と思っただけだ。


バーミのチョコレート色の瞳と目が合い、軽く微笑み合った。


「レガッタには、先に話しておくよ」


「またどこかに出かけられるのですか?」


「違うよ。僕に婚約者ができたんだよ」


大きく開けた口にケーキを入れようとしていたレガッタが、ネジ巻き人形のように首を動かしてカディスを見てきた。


「嘘は止めてくださいまし」


「本当だよ」


「本当に本当なのですか?」


「うん、嘘偽りないよ」


衝撃を受けたらしく、顔も体も伸ばしたレガッタの手から、フォークとフォークに刺していたケーキの欠片が落ちた。


「ええ!? どうして今になってですの? お兄様が婚約されないから私がしたのですよ! 私だって婚約したくなかったのですよ! それなのにお母様が進めてしまって……はぁ、破棄できないのかしら……」


カディスは、レガッタの早口に耳を傾けながらも、カーペットの上に落ちてしまったケーキに気持ちを沈ませていた。

「僕のお気に入りのカーペットが……」と悲しんでいる。


泣きそうな気持ちになっているのは、カディスだけではない。


レガッタがフォークに刺して持っていたケーキは、カーペットの上に落ちる前にレガッタのドレスにぶつかっている。


「久しぶりにカディス殿下に会われるからと、豪華なお召し物を選ばれましたのに」と、侍女のバーミも王宮の洗濯係に対して申し訳なくて肩を落としていた。






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