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20 .カディスからの提案

晩餐が終わり、アイビーとローヌが席を外し、公爵家の1室では紳士だけの社交場が開かれている。


提案をしたのは王子殿下であるカディスで、カディスを避けようとして1度断りをいれたのはクロームだった。


「分かった。王子としてラシャンに命令するよ。何もかも話せと」


そう言われてしまえば、クロームが折れるしかない。

アイビーの話になるのは目に見えているのだから、ラシャンを生贄にするわけにはいかない。


部屋にはビリヤードやチェスが置かれているが、遊ぶような雰囲気ではない4人は、お茶を片手にソファに座っている。

向かい合わせのソファで、カディスが1人で座っているのに対して、ポルネオ・クローム・ラシャンの横並びでヴェルディグリ公爵家は腰を落としている。


「前置きは必要ないよね。アイビー・ヴェルディグリについて、何もかも話してほしいんだ」


観念したように息を吐き出したクロームが、苦々しく答えた。


「カディス殿下は、11年前の出来事をご存知ですか? 隣国と戦争直前までの緊張状態になり、私が王族や大半の貴族を酷く嫌うようになった事件です」


面と向かって嫌いと言われたカディスは、目を伏せながら緩く首を横に振っている。


クロームは、義父であるポルネオに柔らかく肩を叩かれ、唇を噛んだ。


「殿下は関係ありませんのに、失礼いたしました」


「いや、こちらこそ知識不足ですまない」


「私が説明いたしましょう」


力なく肩を落としたクロームを気遣ってだろう。

ポルネオがクロームに代わり、ティールが隣国の王太子に見染められたこと、執拗に追いかけまわされたこと、戦争が起こりそうだったこと、ティールを差し出せば解決するという動きがあったことを話し始めた。


話が進むにつれてラシャンの顔は俯いていき、クロームの握りしめた両手は震えている。


ポルネオとてクロームと同じ想いを抱えているが、子供の、ましてや事件が起こった当時赤ん坊だったカディスに強く当たれないだけだ。


瞳を閉じて聞いていたカディスが、ポルネオが話し終わると小さく息を吐き出した。


「そんなことがあったんだね……隣国とは今も仲がいいとは言えない。父上が嫌悪を隠さない理由を初めて知ったよ」


「陛下は、当時唯一、我が娘ティールを守ろうとしてくださった人物ですからな」


ポルネオの言葉に、クロームがゆるく頷く。


「ええ、ルクソール殿下が王にならなければ、私はラシャンをつれてこの国から出ていましたよ」


「そうなのですね。初めて聞きました」


目を丸めたラシャンの頬を、クロームは微笑みながら撫でた。


「王妃であるカメリア様はティールと仲が良くてね。ティールが逃げる手伝いをしてくれたんだよ。泣きながら何度も謝っていたそうだ」


「今度、両陛下とお会いした時はお礼を伝えます。でも、お祖父様、父様……両陛下が優しい方ならば、アイビーを守る協力をしてもらえないのでしょうか?」


「どういうこと? 実は隠して育てていたかとじゃ……そっか……問題が解決したとかじゃなくて、問題が起こったから隠しきれないと判断したんだね」


クロームは、カディスの疑問よりも先にラシャンの質問に答えるようで、ラシャンに向かって眉尻を下げた顔で微笑みかけている。


「お二方とも立場は変わってしまったからね。それに、どんなに権力があろうと、大勢の議員から反対されてしまえば庇えないものなんだよ」


「……そうなのですね」


できるだけアイビーの味方が欲しいのは、クロームやポルネオとて同じだ。

ラシャンの気持ちはよく分かる。

誰も彼も味方になってくれるなら、独立などという面倒なこともしなくて済むのだから。


クロームは、落ち込むラシャンを柔らかく抱き寄せてから、カディスに顔を向けた。

アイビーがどう過ごしてきたか、どうして戻ってきたかを、カディスに説明をした。


「バイオレット・メイフェイアか……はぁ……あの女がここでも出てくるとは……」


困ったように右手を頭に添えるカディスに、公爵家の面々は顔を見合わせている。

バイオレット・メイフェイアという名前に、強い反応が返ってくるとは予想していなかった。

「ああ、聖女かもって言われている子だね」くらいだと思っていたのだ。


口火を切ったのは、ポルネオだ。

頭を抱えているカディスに問いかけたのだ。


「バイオレット・メイフェイアと何かありましたか?」


悩んだように目を伏せたカディスは、気合いを入れるようにゆっくりと瞬きをし、真っ直ぐにヴェルディグリ公爵家の3人を見据えた。


「提案があるんだけど、アイビー・ヴェルディグリを僕の婚約者にしてもらいたい」


「「ダメです!」」


「全く何を言い出すかと思ったら」


「アイビーが可愛いのは分かりますが、いくら殿下でも許せません」


「バイオレット・メイフェイアの話は、どこに消えたんですか」


「君たちが異議を申し立てるのは分かるよ。でも、きちんと最後まで聞いてほしいんだ」


公爵家の3人から刺すような視線で睨まれているが、口を閉ざしてもらえたのは有り難い。

カディスは、話を進めることができる。


「あくまで仮の婚約者。契約を基にした期間限定の婚約者だよ」


言いたいことはたくさん有りそうな顔をされているが、話し終わるまで口を挟まないつもりなのだろう。

ただ、ラシャンの頬だけが怒りで膨らんでいっている。


カディスは、初めて感情豊かな幼馴染を見て、笑みを溢しそうだった。

知らなかった一面を知られて、もっと仲良くなれた気がしたのだ。

深刻だろう話し合いの途中なのに、胸を弾ませそうだったのだ。


「婚約の期間は、アイビー・ヴェルディグリが成人をする18歳まで。理由は、我が国では成人をしないと成婚できないから。それまで僕が他の男からの雨除けになるよ。その代わり、僕の雨除けになってもらう。

あくまで仕事としてだから、僕かアイビーに好きな人ができれば契約は解除する。そこまで縛るつもりはないよ。どういう形であれ、婚約破棄の理由は僕が浮気をしたでいい。泥は僕が被る。報酬として、僕が叶えられることなら何でも叶えるよ」


「どんなことでもですか?」


「ああ、叶えるよ。ラシャンに王位を譲れと言うなら譲ろう」


ポルネオの質問に対して迷いなく頷くカディスに、クロームは訝しげに尋ねた。


「よろしいのですか?」


「あいにく、僕がなりたいのは王じゃないんだよね。そんな我儘は言えないから王様を目指してはいるけどね。それに、僕の婚約者になれば、切り捨てられるなんてほぼないよ。いや、切り捨てさせないよ」


考え込んでいるポルネオとクロームを、カディスは射抜くように見つめている。


不安そうにしているラシャンもまた、ポルネオとクロームを窺うように視線を向けている。






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