21 .隣国の聖女
「契約の話はひとまず置いておいて、バイオレット・メイフェイアがどう関わってくるのかおうかがいしてよろしいですか?」
ポルネオの言葉に、クロームも頷いている。
ラシャンも、カディスを見てきた。
「求婚書が送られてきた」
聞いた3人は、似たような顔をして固まった。
誰よりも早く復活したポルネオが、きちん確認するようにカディスに尋ねる。
「メイフェイア公爵家からですか?」
「驚くことにね。しかも、アムブロジア王家には秘密裏でね」
「しかし……バイオレット・メイフェイアは、ソレイユ殿下の婚約者ではないのですか?」
カディスが会話をしているポルネオから、ポルネオの向こう側を見るように視線を上げた。
「隣国で聖女が見つかった話は知っている?」
「魔女の国で聖女ですか?」
「そう、聖女。名前はエーリカ・フォンダント。彼女には、ブリスフル侯爵家の血が流れているそうだよ」
「ブリスフルといえば……忌まわしいあいつ、アムブロジア王の元婚約者の家ですね……」
「ブリスフル侯爵家は、12年前に婚約が破棄になった直後に爵位を剥奪されているんだ。横領の罪に問われてらしいけど、実際のところは違ったのかもね。と、さっきの話を聞いて思ったよ」
「あり得ますね。突然の婚約破棄ですから、侯爵家は抗議をしたでしょうね」
「鬱陶しくて罪をでっち上げたのかなぁって。まぁ、その子供が孤児院で見つかったんだよ。親は馬車の事故で亡くなっているらしい。それで、ブリスフル侯爵家と親交が深かったフォンダント公爵家が引き取ったんだって」
「その子が聖女だったと……」
「治癒の魔法が使えるらしいよ。すごいよね。でも、バイオレット・メイフェイアも聖女って言われはじめたんだよ。何でも未来が分かるんだって」
「……未来ですか?」
絶句しながらもどうにか言葉を発したポルネオに、カディスは心底どうでもいいというように息を吐き出している。
「聖女が現れたってエーリカ・フォンダントを見つけたのは、バイオレット・メイフェイアなんだよ。他にも水害を言い当てたりしたそうだよ」
「だから、アイビーのことも分かったんですね」
「バイオレット・メイフェイアの言うことが真実なら、そうだろうね。でも、僕、謎なんだよね。本当に未来が視えるとして、何をしたいんだろうって」
「どういう意味でしょうか?」
「今回、エーリカ・フォンダントが見つかって、ソレイユ・ジョオルズ・アムブロジアの婚約は振り出しに戻った。バイオレット・メイフェイアが『エーリカとソレイユが両陛下になる』と予言したからだそうだよ。でも、エーリカ・フォンダントには平民の血が流れている。父親が平民らしくてね。それに、ソレイユ殿下の血の半分も踊り子だ。だから、貴族たちからすれば、純粋な血を持つバイオレット・メイフェイアを是非とも王妃にしたい。というところで、揉めているらしい」
「忌まわしいあいつ1人せいで、周りに平和が訪れないのですね」
「僕としては、隣国なんてどうでもいいから苦労するならしなよって思うよ。でも、バイオレット・メイフェイアは、この国に手を出してきた。アイビーを探していたこともそうだ。本当に何がしたいんだろう」
「求婚書のことが気がかりなのですね」
「それもあるけど、水害を当てたように未来が分かるなら、別にエーリカ・フォンダントとソレイユ殿下をくっつける必要ないと思うんだよね。バイオレット・メイフェイアが王妃になって、全部防げばいいだけなんだから。もし王妃になりたくないのなら、僕に求婚書を送ってくるのはおかしくなるしね。しかも、ご丁寧にルクソール陛下、僕の父上を助けたいが何の関係もない自分だと周りの目があって救えないから婚約をしましょうってね。セルリアン王国の役に立てますだって」
「それって、普通に殿下を好きなだけなんじゃないですか?」
ポルネオとの会話に割り込んできたラシャンの素朴な質問に、カディスはあからさまに眉根を寄せた。
「僕を好きなら理由を並べずに、アムブロジア王家を経由して正式に申し込みするべきだよ」
「国同士の仲の修復を謳うなら、そちらの方がいいですね。それに、ルクソール陛下を救うなら、アムブロジア王国として優位に立てる。そんな提案を一個人がしてくるとは」
「アイビーを探していたのは、アムブロジア王家に差し出すつもりじゃなかったんですかね?」
クロームはずっと考え込んでいて、カディスとポルネオのやり取りに合いの手を入れているのはラシャンだ。
今もラシャンの疑問だ。




