第26話 よろしい! ならば戦争だ!
クソビッチにラリアットをかましてから三日。
朝早くから城への召集令状が届けられました。
女性に手を上げたことを怒られるのかな?
『俺の』ゾーエに危害を加えようとしたんだから絶対ゆずらんぞ!
小言を右から左に流して終わらせよう。
右から左に流せませんでした。
クソビッチのことはこれっぽっちも出ませんでしたが、とんでもない案件が発生。
白鳳騎士団団長として許容できない事態です。
学院に帰ってくるとロマリア王国の暗部をとりまとめるアイン伯爵家の次男、マティカ=アインが待っていてくれた。
膝をつき、頭を下げて俺を迎えてくれる。
「申し訳ございません。内々に済ませようとしたのですが・・・」
イヤイヤイヤ・・・。
あいつを相手に内々で済ませるなんて不可能だから。
あれは一種の英雄だから。
とりあえず演習の時に使われる作戦立案室の一部屋を無期限で押さえておいてくれ。
ついでに王都の詳細な地図も。
情報も逐一入れてくれ。
「かしこまりました」
そう言ってマティカは去って行く。
やれやれ、これから忙しくなるなぁ・・・。
教室に入ると仲良くなったお隣さん、アジェラ嬢がニヤニヤしながら声をかけてくる。
「お帰り~。朝早くに呼ばれて夕方近くまでかかるなんてアンタ何やらかしたの?」
・・・・・・。
本人は冗談のつもりなんだろうがなぁ。
アジェラ嬢の耳元に口を近づけてボソリとつぶやく。
「失態を犯した」
そう言ってやるとアジェラ嬢が目をパチパチさせる。
眉根を寄せ始める。
冗談を冗談で返されたと思っているのだろうが生憎マジだ。
表情を崩さない俺からそれが伝わったのだろう。
俺を指さしながら口をパクパクし始める。
「え?ウソ?マジ?え?」
本当にマジで真実ウソなしに失態を犯した。
って言うか!
お前の中で俺はどんだけ凄い完璧超人なんだよ!
「だって・・・。えー・・・? ちょっと本気で信じらんないんだけど・・・?」
俺をまじまじと見るアジェラ嬢。
・・・なんでこんなに高評価なんだ?
「だってアンタ何やらせても他の追従を許さないぐらいブッチギリじゃん・・・」
・・・アジェラ嬢、覚えておけ。
机上でいくら好成績を残しても実技でそれを生かせなければ意味がない。
ましてやそれが『実戦』となれば失敗が死につながる場合もある。
『学院』で優秀でも『実戦』で優秀とは限らんよ。
「・・・・・・」
俺の言葉を聞いて黙考するアジェラ嬢。
「・・・それでも」
そして口を開く。
「数多の字で呼ばれる実戦経験豊富な英雄フレデリックに失態を犯させる化け物って何者なのよ・・・」
どうやら彼女の琴線に触れたらしい。
それと同時に教室の扉が開かれてマティカ=アインが入室してきた。
「フレデリック様、作戦立案室の用意ができました。それとゾーエ様やファルネリア様など御身内の方々や幕僚達も作戦立案室に待機中です」
うん、了解。
行こうか。
マティカは脇によけて俺の後ろをついてくる。
その後ろにさらにアジェラ嬢が付いてくる。
・・・・・・。
おい、なんで付いてくる?
「え? いや、あの、だめ?」
上目遣いでお願いしてくるアジェラ嬢。
・・・・・・理由次第だな。
「フレデリック様!」
マティカが非難の声を上げる。
アジェラ嬢は大きく深呼吸するとまっすぐ俺を見る。
「アーレン男爵家は代々騎士の家系です。ですが貧乏です。あまりに貧乏すぎてどこの派閥からも声がかかりません。寄親ですら避けます。豪商や豪農に嫁いだ姉さん達が少なくない金額をアーレン男爵家に入れてくれてるからなんとか生活ができます。兄は病弱でとても騎士団の仕事はこなせません。文官として王家に仕えています。そんな中、三女として生まれた末っ子の私に武の才覚がありました。勉学に、鍛錬に励みました。一日でも早く騎士になれるように。ですが常に一段も二段も低く見られました。・・・女だからという理由で! 年を追うごとに女として成熟していく自分の体が憎くてたまらなかった! 無駄に大きくなっていくこの二つの乳房を何度切り落とそうと思ったことか! ・・・そうして騎士になるために学院に入りフレデリック様と出会うことができました」
俺?
「そうです! 貴方です! 十五年生きてきてフレデリック様だけが私の才覚を見てくれました! そして夢想してしまった! フレデリック様が率いる白鳳騎士団で騎士として生きる自分を!」
そうしてズカズカとアジェラ嬢は俺に近づいてくる。
「私の中の野望を大きく燃え上がらせたのはフレデリック様! 貴方です! もう一介の騎士では終われない! ロマリア王国最強の騎士団に入団して生家を盛り立てこの戦国乱世に名を刻むこと! 貴方の側ならそれも叶う!」
しばしアジェラ嬢とにらみ合う。
止めに入ったのは側に控えていたマティカだった。
「これだけの覚悟を示したのです。とりあえず警護役の側廻衆としてしばらく配置しましょう。そこで入団の可否をお決めになったらどうでしょう?」
・・・お前、さっき止めたよな?
「よくよく考えればいずれ皆に知れ渡ることですので」
・・・それもそうか。
作戦立案室に向かうぞ、マティカ、アジェラ。
「「はい」」
作戦立案室に入り上座に座る。
部屋には愛しのゾーエにファム、秘書のストラにケルダ、ヘット公爵家の次男であるルシオ=ヘット、宰相の長男でシン侯爵家の跡継ぎであるウィルトー=シン、第一騎士団長の息子で長男のゾンバル=メム、そしてアイン伯爵家の次男であるマティカ=アインに騎士候補生のアジェラ=アーレン、俺の専属侍女であるマリアさんがそろっている。
さて、何から話すか・・・。
イヤ、順を追って話すか。
『白老』って言う盗賊を知っているか?
マリアさんの纏う気配が変わる。
事情を知っているマティカは黙して語らず。
他の面々は視線で話の続きを促してくる。
この盗賊は三十年も前から悪徳の極みにいるような商人や貴族からしか盗みをしねぇ。
しかも、女性は犯さず、人は殺めず、証拠隠滅や逃走のために火を放たず、って具合で世間じゃ義賊の中の義賊とまでもてはやされている。
この一味は全員が全員とも白塗りした老人の面をかむっていることから『白老』と呼ばれているんだよ。
この一味は国を転々としている。
ついこの間までは神聖帝国にいた。
そこで名だたる悪徳商人、悪徳貴族、生臭坊主から財を根こそぎ奪うなりして大暴れしたらしい。
その義賊『白老』がこのロマリア王都に現れた。
「はい! 質問!」
元気よくアジェラが手を上げる。
「話の流れからその『白老』がアンタの失態に関係してるんでしょうけど、どう考えても無関係に思えるんだけど? だって、白鳳騎士団は神聖帝国と隣接するレーシュ公爵領で防衛線を張り巡らせて忙しいでしょ? アンタはアンタで学院生活を送っている。・・・接点ないじゃん」
マティカ以外の全員が首を縦に振る。
作戦立案室に広げられている王都の地図を見ながら俺は告げる。
「ところが関係大ありなんだよ」
「は?」
「え?」
「フレデリック様?」
こう見えてな、俺は神聖帝国対策で国防の一翼を担っている自負がある。
レーシュ公爵領に設定している防衛線は鉄壁だという自信がある。
白鳳騎士団や俺自ら選定した傭兵団がそれを可能にしている。
ネズミ一匹通さんよ。
その防衛線を白老は突破してきたらしい。
白鳳騎士団が設置している防衛線がどれだけ強固なものなのか知っているゾーエやファム、マリアさんの顔色が変わる。
「一人二人ならさすがに見落とすのでは?」
そう思うだろ? ゾンバル。
でもな、神聖帝国で最後に押し入った日にちとロマリア王都での初仕事をした日にち、移動距離を考慮すると神聖帝国からロマリア王都までの最短距離を、レーシュ公爵領を突っ切ったとしか考えられねぇんだよなぁ、団体で。
活動規模から見て一味は百名を超えるはずだ。
そんな団体様を俺の白鳳騎士団が見落とすとは思えん。
傭兵団は義侠心にあふれる連中で構成している。
怠けたり買収などに応じない。
にもかかわらず突破された。
『国防をなんと心得る!』って具合にここぞとばかりにイフェリウス派が俺をつるし上げにしたのさ。
「白鳳騎士団の防衛線をいったいどうやって・・・」
ファム、それは俺にもわからん。
だから、白老一味を生け捕りにする。
彼らに方法を謳ってもらわにゃならん。
・・・マティカ、不服そうだな?
「『弱きを助け強きをくじく』、白老一味は庶民に人気があります。捕縛すれば当然処罰しなければなりません。その際に世間からフレデリック様がなんと言われるか・・・」
だからといって野放しにもできねぇよ。
陛下の治世に傷が付く。
誰かがやらにゃあならん!
それに俺にも腹案がある。
マティカ。
白老が悪党しか狙わないことを逆手にとる。
アイン伯爵家の総力を持って大事の悪事は小事に、小事の悪事は大事にして市井に情報を流せ。
情報の取得、その精査に時間がかかるように飽和状態にさせろ。
その間に前線から白鳳騎士団の精鋭一千を王都に入れる。
ルシオ。
ヘット公爵家の武威で白老一味が分散して逃げ出さないように王都の出入り、国境の出入りを厳重にしろ。
俺は白老を盗賊ごときなどと見くびったりはしない。
奴はこの乱世に現れた英雄の一人だ。
心を込めて、全力を持って、相対させてもらおう!




