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PHASE2:家族

 授業が終わり休み時間になったにも関わらず、浩介は席に座り、真っ白なノートにシャーペンを構えがら黒板だけを見つめていた。

 昨日の夜に出会った少女の転入。別に驚くことでもない、こういうこともあるだろう。だが、浩介は何かに引っかかっていた。その何かが分からないから悩んでいるわけでもあるが。

「どうしたい? ぼけっとしてさぁ、もしかして」

「転校生に一目惚れか?」

 まったく、どうしてこの二人はそういうことについてしか考えないのかと言いたげな表情を浩介がすると、森長はすかさず浩介の首に手を回しヘッドロックを決める。

「でもさ、結構可愛くねぇ?」

「ランクで言うとSランクくらいだな」

 森長のヘッドロックから脱出し、浩介は今日新たに出現した席に視線を移す。窓際の列の三番目の浩介の列から右に二列、後ろに三つの所に新しい机が置かれており、河嶋詩音がその席に座っていた。他者との交流を避けるかのように誰とも喋ろうともせずに、決して人を近づけない雰囲気があった。

 女子も話す機会を窺っている生徒は居ても近寄る者はいなかった。ただ遠巻きに眺めているだけだ。

「普通転校生なら、もっとこう周りの奴が騒ぐんじゃねぇか?」

「可愛いからな」

「何か近付きがたい感じだよな。あの転校生」

「可愛いからな」

「誰とも話してないからチャンスだぞ、行け馬鹿二人」

 口々にあほな事を言っている岡本と森長の会話に口を挟んだ浩介はまたも森長にヘッドロックを決められ、岡本には団扇で叩かれた。

 そんな時、クラスの中に小さなざわめきが起こった。浩介はそっちの方向に視線を走らせると、浅本花菜が単身、敵艦に突っ込む所だった。

「私は浅本花菜。実は私も少し前に転校してきたばかりなんだけど、よろしくね」

 無言。

「あ、帰国子女だから日本語苦手なのかな? 英語の方が得意とか?」

 そういえばと、浩介は担任の石橋の言っていた事を思い出す。確か、河嶋詩音君は幼い時から外国に住んでいて、つい先日日本に帰国したばかりだとか言っていた。

 それなら日本語が得意ではなくいまいちどうしていいのか分からないのかもしれない。そんな風に浩介やクラスメイト全員が捕らえようとしたときに、詩音は鋭く氷のように冷たい瞳で冷たい口調で実に片言ではない日本語を口にした。

「消えろ」

 その言葉は光通信よりも早くクラス内に繋がった。一秒前とは詩音を見るクラスメイトの視線が変わっている。

 なにあいつ。クラスにいるほとんどの生徒はそう思った。だが、当の言われた本人の花菜は別段気にもしていないようで、というか聞こえなかったとでもいうように話を続ける。

「日本語は話せるんだ。あ、でも英語得意だよね? テストの時・・・」

「うるさい。黙れ」

「ほら! そこのお馬鹿トリオ!! うるさいから黙りなさい」

 ぴしゃりと浩介達を指差して花菜が言う。森長と岡本は何かを反論したが花菜はまともに取り合わず一人で話を続ける。

「日本の文化知ってる? お茶とかさ、日本人ならコーヒーより・・・」

「黙れ、うるさい。消えろ」

「ちょっとあんた!! 一体何様のつもり!? せっかくかなかなが・・・」

 かなかなとは花菜の仇名である。その花菜が詩音の態度に腹を立てたクラスメイトを制し、ゆっくりと深呼吸をして、いきなり詩音の手を掴みずかずかと歩き出す。

「暗い!! 暗すぎる!! その性格私が直してあげる!!」

「お、おい何処行くんだよ!?」

「浩介君! 私と詩音さんの早退届出しといてね」

「何で俺が・・・ってもういねぇし!」

 律儀にも浩介は花菜と詩音の分の早退届を書き、担任に提出した。早退理由を一身上の都合によりと書いたために担任から睨まれたが別に気にしない事にした。

 そんな慌しい一日も無事に過ぎて、浩介は新しい家への帰路に着いていた。遠くに見える住宅街は凄まじい惨状で、あの事件を鮮明に蘇らせてくる。浩介は瞳を背け歩き始める。

 新しい家の玄関の前に立ったときに、初めて鍵が掛かっていない事に気がついた浩介は不安になった。朝鍵をかけ忘れたのか、それとも泥棒にでも入られたのだろうか。

 ゆっくりと玄関のドアを開け、家の中を覗き込むと、

 黒い煙が充満していた。

 多分それは、火事などで出るあの黒い煙の事だと分かるまで実に一二十秒の時間を浩介は所要した。

 浩介は玄関から一歩引いたところに立ち、家の中からもくもくと出ている煙を眺めていると家の中から二人の人影が這い出してくる。

「ごほっ! ごほっ!! 失敗したかなぁ?」

「・・・・だから、あれほど危険だと言った」

「なにやってんだよ!? あんた達は!」

 おもわず大声を上げてしまう。その大声に家の中から這い出してきた二人は浩介の方に振り返る。二人共顔が黒くなっていた。

「おぉ〜。浩介君学校終わった?」

「俺の家で一体なにをしてるんだよ!?」

「うやぁ、お昼ご飯を作ろうかと思ったんだけど・・・少し失敗しちゃって」

「これをか!? これをあんたは少しで済ませるのか!? 大体、何で俺の家で・・・」

 高らかに叫びながら、煙がもくもくと出ている家の中を指差す。その時に初めて気がついた。浩介の指差す方向には玄関があり、その横にはおびただしい数のダンボールが積まれており、そのすぐ横には旅行の時に使うダッフルバックが置かれていた。

 嫌な予感はした。だが、そんな事があるはずないと懸命に打ち消しながら、花菜に不満を叫ぶ。叫んでいる時にもやはりあのおびただしい数の荷物に視線が行ってしまい、その視線に花菜が気づいた。

「あ、あれ? 浩介君にはまだ言ってなかったけ? 私達今日からこの家で暮らすんだよ」

「帰ってまえ。てか帰れ!! ん? まてよ? 今、私達って言ったか?」

「そう。詩音も今日からここで暮らすの」

「なんでやねん!? なんでやねん! なんでやねーん!!!」

 煙が収まり、浩介は家のキッチンで二人分の遅いお昼ご飯を作り、リビングで待っている二人の前のテーブルに料理を置いてから、自分もキッチンの椅子に座る。座りながら浩介は恐らく今まで生きてきた人生の中で最大のため息を吐いた。

 いきなり河嶋さんを連れ出して何をやっているかと思えば、なにをどうしてこの家で暮らす事になるんだよ。などと考えながら浩介は父親に連絡を取る手段を考えていた。一刻も早く新しい家を用意してもらわねば死んでしまいそうだからだ。

 花菜の説明によれば、花菜と浩介の父親が昔からの知り合いで(学校ではそういう設定になっている)今回、花菜の父親が海外転勤になり、日本を離れ海外で暮らす事に抵抗があると言う花菜の意見を汲んで、旧知の親友の弥勒宅に置かせてもらう事になった。まぁ、ここまでは浩介も別に良いと考える。花菜がカウンターテロの第一人者であろうと何であろうと、きっとそっちの事情があるだろうと思うからだ。しかし、問題はこの先だ。そして今日。何故か詩音に家を聞き出し、保護者を小一時間ばかり説教を食らわしてやろうと思った花菜が、詩音の家に殴りこむとそこには誰もいなかった。詩音の話では両親が海外から日本の本社に転勤になり、一足先に日本に帰国したが、その転勤に話が無くなってしまい、花菜は日本で一人暮らしの生活になったと言う。どれほど無責任な親なのだかと浩介は思う。自分もそんな無責任街道まっしぐらな父親を持っているから余計そう思えてしまう。

 そんな家庭の事情を知った花菜が自分も引っ越しだからと言って、部屋にある荷物をまとめさせこの家に拉致よろしく連れ込んだと言うのだ。というか転校から一週間後に引っ越しって普通はおかしいと思わないのかなと浩介は思う。

「おおぉ!? 浩介君なかなかやるわね! 結構おいしいじゃない?」

「さぁな? 自分で作ったの食ってもおいしいとかいまいち分からなくて。まぁ、あんたよりかはおいしいだろうけどな」

「むっ。浩介君ねぇ、さっきからあんた、あんた、あんたって連呼してるけど私にはアマミヤ・・・じゃなくて浅本花菜っていう名前があるんだからね!」

 どうせ偽名に決まっているだろう。その証拠に違う名前を言いかけた。全く危なっかしい。そこで浩介は疑問に思った。花菜は背格好も見た目も自分と同じ歳に見えるが、本当は何歳なのだろうか。いや、それ以前にどうしてあんな危険極まりない仕事をしているのだろうか、傭兵なんて。

 自分が疑問に思うことじゃないと浩介は考えるのを止めた。そして、うるさい花菜とは正反対で静かに料理を食べている詩音に会話を放る。

「どう? 味は?」

「・・・・さぁ?」

 会話終了。会話のキャッチボールがうまくなされない。浩介は静かに肩を落とした。

 それから、日が落ちるまで各自の部屋割りを決め、曜日ごとに家事の分担を決めた。月曜日は浩介がお風呂掃除で、花菜が洗濯と掃除。詩音がご飯と言った具合だ。浩介は明日から近くのコンビニのお世話になることを覚悟していた。詩音はともかく花菜にまともな料理が作れるはずがない。

 とりあえず、今日の夕食担当の詩音をキッチンにまで連れて行き、何処に何があるのかを教えた。そしてリビングに戻ろうと思いキッチンを出かけて、詩音の方を振り向くと、何故か包丁を兵士が戦場でナイフを逆手に持つようにして持っていた。

 前言撤回。今日からコンビニのお世話になることは間違いなし。

 それから一時間後。浩介は近くのコンビニで弁当を三つ買っていた。どうやら、浩介の予想通りにこれからはほぼこのコンビニのお世話になるようだ。

 夕食を食べ終え、お風呂にそれぞれ入り。リビングで三人揃ってソファに座っていると、詩音が一番早く舟を漕ぎ出しだ。時差ぼけの影響か、それとも元々夜は早く寝るほうなのか、時間はまだ九時だ。

「眠いの? 眠いんだったら、もう部屋に戻った方が・・・」

「甘い!! 甘いわ浩介君!! 夜はまだまだこれからよ。こんな時間に寝るなんて、人生の八割は損しているわ!!」

「そりゃ、凄い割合だな」

 眠そうに目を擦っている詩音に視線を向けた花菜は、まるで小さい子供に向けるように優しい表情になる。

「そうね、今日はいろいろあったから疲れたのね。もう眠ったほうがいいわ」

「・・・うん」

 ゆっくりと立ち上がり、リビングを出て行こうとする詩音の背中に花菜が声を掛ける。

「詩音。夜はおやすみなさいよ」

「・・・うん。おやすみなさい」

 昼間の様子とは打って変わって、無防備にそして素直に花菜の言う事を聞いていた。その事に浩介は驚いていた。

「きっと、根は優しい子なのね。今日は長い間外国にいたのに一人ぼっちで日本に迷い込んで、心細くてどうしていいのか分からなかったのよ。だから、あんな事を言っちゃたんだと思う」

 そう言ってソファに座った花菜はどこか嬉しそうに含み笑いをする。

「でも、なんかこういうの家族って気がしない? 手が掛かるけど素直な子供もいるし。温かな家庭ってこんな感じなのかな? って何言ってるんだろうね?」

「なぁ? 一つ聞いていいか?」

「なに?」

「どうして、浅本さんはこの家で暮らす事になったんだ? 浅本さんが転校してきたのは、俺の護衛をするためでしょ? でも、俺が狙われていた理由の機体はもう研究所にあるからその必要はないんじゃないか?」

「私って、昔から学校とか行ったこと無くて、どうしても行って見たい時があって。そんな時に護衛と言う理由からだけど、日本の学校に行ける事になって。不謹慎だけど嬉しかった。でも、その仕事もすぐ終わっちゃって、落ち込んでいた時に浩介君のお父さんが、どうせだからもう少しだけ通ってもらおうかって言ってくれて。それで、まだあの学校に通ってるんだ」

 少しだけ、本当に少しだけだけど、浩介には花菜の事が分かった気がきした。謎も多いし、変な行動ばっかだけど、せめて少しの間だけでも文句も言わずに付き合ってあげようと思う。

「でもさ、浅本さんがいなくてあの研究所大丈夫なのか? 浅本さんパイロットでしょう? そんな時に襲われたら」

「大丈夫大丈夫。あの研究所にはいっぱいパイロットもいるし機体もあるし警備は万全。カイトもいるしね」

「幸一さん?」

「そう。本名はカイト・ヘルズニルク。ドイツ人と日本人のクォータとか。私達の部隊の隊長さん」

 ―――本名はカイト・ヘルズニルク。ドイツ人と日本人のクォータとか。私達の部隊の隊長さん。

 自分の部屋のベットの中で毛布を被り丸くなっている詩音の耳のイヤホンから浩介と花菜の話している声が聞こえてくる。浩介の服に仕込んでおいた盗聴器からの流れてくる声だ。

 詩音はベットから起き出し、机の上に置いていた自分のノートパソコンを起動させる。パスワードを入力し、完全に起動させ、両手をキーボードに走らせる。暗闇に光るパソコンの光に映し出された詩音の顔は眠そうな印象など受けもしない。ただ、冷徹で氷のように冷たい印象しか残っていない。

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