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プロローグ

 世間では戦争になる、戦争になると言い続けているけど。実際には本当の戦争にはならない。少なくとも日本とはそういう国だ。内戦とも無縁の平和で穏やかな国で生活する弥勒浩介は平凡に高校生として過ごしていた。

 そんな彼は今はすこぶる機嫌が悪い、生徒会選挙で会長に立候補したものの見事に落選を果たし、家へと帰還する途中である。

 家へと帰り、テレビを付けるとニュースでは内戦や戦争の事について報道していた。FTという兵器が一般にも広く知られるようになってからどれくらい経つのだろうかと考えた。技術の進歩とは本当に凄いもので、人間は次々と新しい物を生み出していく。

 制服から私服へと着替える終えると郵便受けに入っている手紙を取る為に外へと出て、手紙を何枚か取り、家の中へと戻っていく。ほとんどが請求書だったが、一つだけ父親からの手紙があった。手紙には一言だけ書いてあった。

「あ〜、忙しい」 読んでからコンマ一秒でガスコンロの中に直球でぶちこんだ。たまに手紙をよこしたと思ったら実にくだらない事で浩介の不機嫌さに拍車が掛かったのは言うまでも無い。

 浩介の両親は仕事の関係で滅多に家に帰ってくる事も無い。軍関係の仕事らしいが浩介も詳しいことは何一つとして知らなかった。

 一通りチャンネルを回し、面白そうな番組がやっていなかったため、少し前に話題になった、宇宙人が地球を侵略しに来る「デットバイ・インヴェーダー」というDVDをセットする。典型的なSF映画だが、浩介はこういった手のもの、つまりはUFOとかエイリアンとかに興味があるのだ。無論FTにも興味はある。そんな浩介の愛読本はFTの情報が掲載されている雑誌である。

 さて「デットバイ・インヴェーダー」のストーリーは地球侵略を企む宇宙人が偵察目的で主人公の家の近所に引っ越してきて、住み始める。

 それから色々とあり、FTが出現する。全く映画の世界にまでFTを出現させるなと言いたい展開だ。でもって最後には主人公の乗るFTが敵艦、ここはUFOというべきだろう。そのUFOに突っ込んでめでたし、めでたし。

 そんなわけの分からない映画なのに人気があるのだから、世も末だなと浩介は思う。思いながらも何度も見てしまうのは何故だろう。

 インターフォンが鳴り、玄関の前まで行き用件を尋ねる。こういう場合は無闇にドアを開けてはいけない。

「ちわー。お届けものです」

「分かりました」

 玄関を開けると、宅配業者の格好をした20代中盤の男が立っていた。男は事務的に荷物を渡し、事務的に判子を求めてくる。判子を取りに戻るのが面倒なので、サインを書こうとペンを借りた。

 サインを書き終え、顔を上げると同時に目の前の宅配便の青年は左方向に吹っ飛んだ。5メートル程転がり止った。

「だ、大丈夫ですか!?」

 慌てて宅配便の青年に駆け寄るが、返事は無い。浩介は急いで携帯電話を取り出し救急車を呼んだ。

 丁度その頃、浩介の家から四件隣で距離にすれば100メートルほど離れている家の庭で一人の少女がライフルを構えていた。

「任務完了」

「アホっ! 何でお前はいつも、いつもそうやって! あぁ、あの人死んでないよなぁ」

 少女の後ろで金髪の青年がしきりにうろたえながら望遠鏡で事の様子を眺めている。

「使ったのは実弾じゃない。死ぬはず無い」

 不機嫌そうな口調だった。

 浩介は病院に付き添った後に、警察で事情を詳しく聞かれた。その為、家に帰り着いたのは夜の11時を回っていた。

 家に入るなりリビングのソファに寝そべる。すぐに睡魔が襲ってきて、ここで寝てしまおうかと思う。そう思っているときに本日二度目のインターフォンが鳴った。

 無視を決め込もうとも思ったが、ソファから起き上がり、玄関に向かう。今度は確認もせずに玄関を開ける。

 玄関先には金髪で少し長めの髪をした二十代前半の青年と浩介と同い年くらいの長い黒髪をした少女が立っていた。

「夜分遅くにすみません。僕は浅本幸一。こっちは妹の浅本花菜です」

「はぁ」

「実は今日この近所に引っ越してきまして、ご近所の方にご挨拶をと、これはほんの前住んでいた所のお土産です」

 白い紙袋を手渡される。紙袋にはアメリカンセンべーと書かれており、かなり怪しげな食べ物だと浩介は思った。

「ご丁寧にありがとうございます。それでは」

「良い夢を」

 玄関を閉め、リビングのテーブルにアメリカンセンベーを放り投げるようにして置き、浩介は寝室へと向かい眠った。

 次の日の朝、いつも通りの時間に起きて朝食を食べ、いつも通りの時間に家を出た。通い慣れた通学路を行き、公立”朝陽ヶ丘高等学校”二年二組の教室に入り自分の席の横にバックを置き、よく話をする、岡本一徳といつものようにとりとめのない話をしていると他のクラスメイトも教室に入ってくる。

 チャイムが鳴るとそれぞれが自分の席に着いて、朝の読書の時間に読む本を取り出している。浩介の通うこの高校では朝のHRまでの少しの時間の間に何か本を読む決まりになっている。漫画では駄目で小説を読むしかない。

 ちなみに浩介が今読んでいる本は「名も無き宇宙人」と言う題名の本だ。ストーリーはかなりどうしようもないとだけ言っておこう。

 本来なら朝の読書の時間に来る先生は担任ではないはずだが、何故か担任が教室に入ってきた。担任に続いて入ってくるのは、見覚えの無い少女だった。

 クラスメイトが囁きあう中で、浩介は昨日の夜に会った少女の事を眺めていた。そして、納得した。

 昨日引っ越してきて、同じような歳で、家の近所だから同じ学校に通うこともあるわけだな。だったら昨日もう少し話しておけば良かったかな。などと浩介は考えていた。

 担任が黒板に名前を書き、少女に自己紹介をするように言う。少女は一歩前に出て自己紹介をした。

「浅本花菜です」

 軽くお辞儀をすると、担任が座る席を指示する。だが、花菜はその指示に従わずに、担任向かって、いや、クラス全体に向かって爆弾を投下した。

「このクラスに、弥勒浩介と言う少年が居るはずです。私の席は彼の後ろか横、最低でも彼の席の前にしてくださいませんか?」

 沈黙。担任は花菜を凝視しており、それは他のクラスメイトも同じ事だった。

「それ、デットバイ・インヴェーダー?」

 空気を読めたい男ブッチギリ1位の浩介が教室の沈黙を破った。映画「デットバイ・インヴェーダー」のシーンの中で転入してくる宇宙人が似たような事を言うのがある。

 花菜が視線を浩介に向け、何かを言おうとした。だが、それは言葉にはならなかった。突如として鳴り響いた空襲警報に掻き消されてしまう。

 全員が窓の外を一斉に見る。外には戦闘機などは飛んでいなかったしFTの姿も確認できない。不思議に思っていると校内放送のスピーカーにノイズが入り、声が聞こえてくる。

「軍から通達がありました。今の警報は間違いだそうです」

 学校全体に安堵の空気が流れ、誰もが胸をなでおろしながらこう言いあった。

 本当に戦争になることなんかないよな。

 窓から視線を戻した岡本一徳は窓に視線を移す前と今の教室は何処か違っていると感じた。間違い探しの要領で教室全体を見回し、その出来事に気づいた。

「ちょっと待て、あの転校生と浩介何処行った!?」

 クラスメイトが全員教室内を見渡す。花菜と浩介、二人の姿は教室の中には無かった。

 教室内が混乱に陥っている一方で、花菜は浩介の腕を引きながら裏山を懸命に登っていた。舗装されていない道の上に急斜面で息が絶え絶えになっている浩介は、それでもどうにか声を出す。

「い、いったい何処行くんだよ、えっと浅本さん」

 返事は無い。浩介がもう一度声を出そうとすると、急に花菜が脇道に反れた為に舌を噛みそうになった。

 花菜が立ち止まり、青葉はようやく休めるのかと安堵したが、花菜はリモコンらしきもので何かを操作すると、木々が生い茂っている目の前に一機のFTがその姿を現した。

「これは、FT? どうしてここにこんなものがあるんだ!?」

 FTとはFRONTIERの略称で近年、先進国を中心に配備が進められている人型兵器の事だ。その戦闘能力は高く、FTに勝てるのはFTだけだと言われている。最近では民族紛争や内戦でも使用されることも多いとニュースでやっていた。

 浩介もFTの情報誌などは読んでいたが、実物を見たのはこれが初めてだった。しかも目の前のFTは情報誌に載っていた機体とは完全に別物だと浩介にも分かった。

 滑らかな装甲のフォルムに厚そうな装甲、両肩には推進ブースターらしきものが付いており、機動性はかなり高そうだった。武器は腰につけているライフルがメインだろう。

 花菜に押し込められるように、浩介はFTのコクピット内に押し込まれる。シートの後ろに移動させられ、花菜がシートに座り、機体に火を入れていく。

 ボタンを何箇所か押しレバーを引いたりしていると、目の前のモニターに外の様子が映し出される。目の前と左右両方だ。

「CI1からHHFへ空襲警報が発令されたため、行動フェイズC21に移行させる」

 戦争映画で聞くような未知の言葉を当たり前のように花菜は通信で誰かに伝える。

「お、おま、まさか、弥勒をノーチェアスに乗せたりしてないよな?」

「乗せている。これからポイント地点へ向かう」

「あ、アホ! 絶対にやめろ、それをそこから動かすな。さっきの警報は間違いだ」

「カイト、まさか裏切った?」

「本当だって!」

 相手がかなり焦っている事が浩介にも良く分かった。しかし、花菜はそれでも通信の相手の言葉を信じられないように、FTを発進させるかどうか悩んでいる。

 そこに浩介の携帯に電話が掛かってきた。取り出して画面を見ると、岡本と表示されている。浩介は通話ボタンを押して電話に出る。

「浩介か、お前今何処にいるんだよ!?」

「うん、まぁ。そのあれだ、この地球上の何処かにいる」

 居場所を追求してくる岡本と担任、クラスメイトの質問から何とか逃れ、一つのかなり疑問に思っている事を聞いてみる事にした。

「さっきの空襲警報って?」

「あぁ。間違いらしい」

 学校が終わり、浩介は自分の家に帰り着いた。そして今。浩介はリビングでテーブルの椅子に座り、浅本幸一と浅本花菜と向かい合っていた。

「それで、あなたたちは一体何者なんですか?」

「ったく、護衛一日目で正体がばれたじゃ洒落にもならんよなぁ」

 質問に答える気は無いのかと思ったが、それは思い過ごしで浅本幸一は自分たちの正体を堂々と明かした。

「はっ?」

「だから、俺とこいつは有体に言えばテロリストだ。だが、普通のテロリストじゃない。俺たちの敵はテロリストだからな」

 何かの本で読んだ事があった。テロリストを取り締まる組織、確か名前は。

「カウンターテロリスト?」

「そうだ。それで君を護衛しようとしていた訳は、君がテログループに狙われていると分かったからだ」

 聞き捨てならなかった。テロリストに恨みを買う覚えは何も無いし、そもそも一高校生がどうしてテロリストになんか狙われなければいけないのだ。

 一つだけ狙われる理由が浮かび上がった気がした。

「君自身が狙われているわけじゃない。ただ君が持っている“デサピア”を奴らは狙っているんだ」

 浮かび上がった理由が確信に変わろうとしていた瞬間だった。親父のせいだ。浩介は断言しそうになる。

「FTですね」

「その通り。奴らはこの家の地下にある新型FT“デサピア”と呼ばれる機体を欲しがっている」

 想定外の返答が帰ってきた。どうせ親父の造ったFTだろうとは思っていたが、まさかこの家の地下にあるとは信じられなかった。それに新型と言っても浩介がこの家に住み始めたのは今から10年前だ。そんな時の機体が新型と言えるのだろうか。

「10年も前の機体がどうして新型と呼ばれるのですか?」

 浅本幸一が驚いたような表情をする。今まで黙っていた花菜が初めて言葉を口を発する。

「君が造ったんでしょ? 君のお父さんが10年前造りかけのままほったらかしにしていた機体を。最近になって君のお父さんにメールが届いたの。“デサピア”が完成した。とね、その後にテロ組織が“デサピア”を奪取しようとしていると知って、私達が派遣されてきたの」

「普通の一高校生にFTを造る真似が出来ると思いますか? 俺は今初めてそんな物騒な物がこの家の地下に眠っていると知ったんですけどね」

 これには、花菜も世にも難しい顔になった。

「でも、お父さんは『俺の息子ならFTの一機や二機造るのは朝飯前よがはははは』って言ってましたけど?」

 普通に考えて不可能だと思う。常識的に考えれば分かることじゃないかと浩介は言いたかったが、やめておいた。この場合は絶対に常識など通用しないのだから。

「とりあえず、正体も知れてしまったことだし。“デサピア”を見せてもらってもいいかな?どんな機体なのか興味あるし。どうやって地下の格納庫に行くか分かるかい?」

「見当はつきます。この家には10年前から開かずの扉がありますからね」

 10年以上も開ける事が出来なかったトイレの脇のクローゼットの中にある思いっきり怪しい扉だ。今までは別に開ける必要も無かったために強引な手は使わなかったが、今日こそは爆破でも何でもして開けるつもりだった。

 開かずの扉は奮闘したが、最後はチェーンソウでこじ開けられる。その扉の向こうには案の定階段が続いていた。

 三人が階段を降り始めて10分程が経過した。いい加減長い階段にうんざりして来た頃に遂に大きな頑丈そうな扉が姿を現した。

 開けるかどうか不安だったが、近付くと自動ドアのように開いて行った。扉の中の部屋は真っ暗で何も見えなかった。

 突然にライトが光を放ち、一体のFTを映し出した。

 全身が黒に染色され、両肩には大型のミサイルポット。背中には大型の翼の形状をしたスラスターが装備されている。頑丈そうな装甲に包まれており、大きさは普通のFTよりも少しばかり大きかった。

 腰にはレールガンらしい砲台が設置されているのが確認でき、両腕の脇から大型のライフルと大きな剣が少しだけ姿を見せていた。

「まるで、動く要塞だな」

「これだけの装備を施した機体が、すごい」

 一通り機体を眺めていると、突然振動が起こる。

「地震?」

「だと良いんですけどね。カイト!」

「分かってる。くそっ! ノーチェアスは学校の裏山か」

 どうやらこの機体を奪取目的のテログループが本当に襲撃に来たらしい。振動は更に大きくなり、敵側にもFTがいることは明らかだった。

 花菜と浅本幸一が自分達の迂闊さを反省し、これからの取る行動を考えていた。浩介は”デサピア”と向き合い、まるで機体に吸い込まれるように歩き出した。

 花菜と浅本幸一が止めようとするが、振動で天井の照明が落下し浩介との間を塞ぐ。

 浩介は振り返る事もせずに機体に乗り込む。コクピットが閉まると勝手に機体に火が入っていく。

「デサピアの名が怖くは無いか?」

 機体が語りかけて来た。まるで自分の意志を持っているように。

「意味がわからないな。それより、誰だ?」

「私はこの機体を造った者。私はこの機体そのもの」

「やっぱり意味がわからない。戦えるのか」

 システムオールグリーン、戦闘モードノーマルで起動。とモニターに書かれた。どうやら行ける様だ。

「あんたの名前教えてくれるか?」

「デサピアだ。君を私のマスターだと認めよう」

 浩介が足元のペダルを踏み込むと、背中のスラスターが展開され光の粒子が舞う。デサピアの起動に呼応するように天井のハッチが開いて行く。デサピアは長き眠りから解き放たれた。

戦争とは悲しいものです彼等は身を持ってそれを教えてくれるはずです。

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