彼氏さん…とお呼びしてもよろしいですか?
「もう少し、時間いい?」
そう聞かれたあと
ドライブに連れて行ってくれた。
夜の海辺を、車で走る。
窓の外は真っ暗で
波の音だけが、かすかに聞こえていた。
それから車は、私の家の方向へ向かい——
地元で有名な、大きな神社に着いた。
当時は夜でも参拝できて
境内へ続く灯籠の明かりが
静かに並んでいた。
二人で、その中をゆっくり歩く。
「暗いし危ないから」
そう言って、手を取られた。
(また手汗が……)
そう思ったけれど
握った彼の手も
少しだけ汗ばんでいた。
(……緊張してる?)
(いや、でも——)
(私ごときに、何を緊張することがある?)
(……ないない、ないって)
そんなことを思いながら
そのまま参拝して、車に戻った。
でも——
なかなか、車は発進せず
そのまま二人で、話し込む。
たわいない会話。
でも、どこか
期待してもいいんじゃないかと
思ってしまう言葉が、端々にあった。
(……聞いてみようか)
(でも、違ったらなぁ……)
迷った。
でも——
今までも
どうせろくな恋愛はしてきていない。
もし違っていたら
仕事が少しやりづらくなるだけ。
時間をずらせばいい。
だったら
聞くだけ、聞いてみよう。
「あの……」
躊躇いがちに切り出すと
「なに?」
柔らかい表情で
そう返してくれる。
一瞬、また迷った。
もし違っていたら
この温かい時間は、もう戻ってこない。
でも——
「彼氏さん……と
お呼びしても、よろしいですか?」
勇気を振り絞って、聞いた。
一瞬、間があった。
そして
「よろしくお願いします」
そう言いながら、手を握られた。
そのまま、ゆっくり家へ向かい
家に着くと
「また明日」
少し照れくさそうに
そう言って帰っていった。
——今までとは、違う恋愛になる気がした。
少し浮かれながら、部屋に入ると
真っ暗な部屋の中で、姉が座っていた。
「なにしてんの!? 電気つけなよ!」
驚いてそう言うと
あの、見覚えのあるニヤニヤ顔で。
「ふ、ふ、ふ……
で?で?どうだったの!?」
「服も靴も貸してやったろ?
さ、話せ!」
ものすごい勢いで迫ってきた。
(余韻に浸る暇はないのか……)
(トホホ……)
——ちなみに、靴はほぼ強制だった気もする。
結局、全部話すことになった。
あのニヤニヤ顔は
たぶん一生忘れられない。




