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私は二度、三十キロ痩せた  作者: かゆると


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思い出した理由

次の日の朝——


目が覚めると

やはり身体は

昨日より、少し楽だった。


(やっぱり

 お酢、欠かせないな)


そう、改めて思った。


その日は仕事だった。


実家に関わらなくていい——


そう思っていた。


でも、仕事終わりにスマホを見ると

母からの着信。


(……げ…

 あー…仕事の時間言うんじゃなかったな…)


無視もできた。


でも——


いろいろ考えると

そうもいかない。


仕方なく、かけ直す。


電話口の向こうで

母は、泣いていた。


(……やれやれ

 長くなるな、これ)


車に乗り込み

エンジンをかける。


ナビのテレビを流しながら

母の話を、右から左へ流す。


気づけば、二時間。


ようやく満足したのか

電話は終わった。


話しぶりから


「行こうか?」と

言わせようとしているのは

分かっていた。


でも、気づかないふりをした。


(……あー、疲れた)


帰り道。


お腹が空く。


でも——


寄れば、同じことになるのが

分かっていた。


だから、そのまま帰宅して

我慢して、普通の量の

夜ご飯を食べた。


でも——


次の日。


仕事は休みだった。


昼頃

また母から電話が来た。


ソファに座り

テレビを見ながら

話を聞き流す。


テレビでは

ちょうど昼時のグルメ特集。


しかも——


大好きな…ラーメン。


(……あー……

 食べたいな……)


そんなことを思いながら

延々と続く話を聞く。


電話が終わると


今度は、買い物に行きたい衝動に

駆られた。


でも——


踏ん張る。


(ダメ……

 今行ったら、また買って食べちゃう)


家にあるもので

なんとか済ませようとする。


でも、足りない。


食べたい欲と

我慢したい気持ち。


(健康になるんでしょ……)


(ダメだって……)


そう自分に言い聞かせながら

夕飯の支度をする。


その日のメニューは

麻婆豆腐。


気づけば——


ご飯を

何杯も食べていた。

(……あー……もう

 なんで止まらないの……っ)


罪悪感に押し潰されながら

また、お酢を飲む。


そんな生活が

一ヶ月ほど、続いた。


でも——


お酢のおかげか


体重は

思ったほど増えなかった。


そんなある日。


『食ったら、動け』


そう言った友人と

ご飯に行くことになった。


会ってすぐ、言われた。


「……なんかあった?」


痩せたようにも見えるけど

顔がやつれている、と。


「いやー……実はさ」


最近のことを話す。


友人は

私の家庭のことも知っている。


「はー……相変わらずだね

 アンタんとこのおばさん…」


「でしょー……?

 いい加減、解放されたいけどさ」


そう言いながら

定食を頼もうとしたとき——


止められた。


「……は?」


「ちょっとアンタ、まだ食うの?」


「……え?」


そのとき、気づいた。


すでに

一人前の定食と


サイドメニューまで

食べ終えていたことに。


「あー……ありがと

 またやるとこだったわ」


「……どういうこと?」


過食が止まらないこと


自分でも止められないこと


全部、話した。


(……どうせ

 やめろよって言われるんだろうな)


そう思っていた。


でも——


「……そっか

 まあ、それがストレス発散なら

 食うなとは言わないけどさ」


メニューをこちらに押し出しながら

友人は続ける


「でもさ……

 アンタに何かあったら

 旦那と息子、どうすんの?」


その一言で——


ハッとした。


(……そうだった)


(だから私は

 健康になりたいって思ったんだ)


その瞬間

頭に浮かんだ言葉。


『ふーん。なんでまた?』


——なんで?


健康になりたいから。


そうだった。


母に振り回されてる場合じゃない。


私がやるべきことは…それだ。


その日、友人と別れた後

母から、また着信があった。


でも——


出なかった。


旦那には事情を話し


「何かあったらごめん」と伝えた。


旦那は


「もう若い時とは違うから

 大丈夫だよ」


そう、笑ってくれた。


次の日も

その次の日も


着信はあった。


でも……

出ることはなかった。


そうして——


母から距離を置いたことで


少しずつ

過食は、落ち着いていった。

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