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私は二度、三十キロ痩せた  作者: かゆると


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冷えてる感情、動かない心

実家に着くと——


父が、玄関で出迎えた。


しばらく会っていなかったせいか

それとも、母のことを心配してなのか


父は、ひどく老けたように見えた。


「おお……来たか」

 どうだ、お母さんから

 連絡はあったか?」


開口一番、そう聞かれる。


「……来てないよ

 叔母さんからは電話きたけど。

 見つかったら連絡くれって」


「……まったく

 何してくれてんだかなぁ」


ずっと探し回っていたのだろう

父は、スーツのままだった。


私が来たことで

少しは落ち着いたのか

ようやく気づいたように

着替えを始める。


「なぁ……

 警察に言ったほうがいいか?

 お前、どう思う?」


(……こんなことで

 忙しい警察の手を煩わせるのも

 正直、気が引けるんだけど)


「……もう一回

 行きそうなとこ探してみてさ

 それでもいなかったら

 連絡すればいいんじゃない?」


スマホに視線を落としたまま

そう答えた。


正直……

生きていようが、死んでいようが

どちらでもよかった。


いっそ、そのほうが


厄介事から解放されて

楽になるんじゃないかと


そんなことすら、思っていた。


「……そうだな

 よし、お父さんは

 もう一回探しに行ってくる」


「お母さんが

 帰ってくるかもしれないから

 お前は家にいろ」


矢継ぎ早に

それだけ言うと

父は慌てて、家を出ていった。


静まり返った部屋。


時計の音だけが

カチ、カチと響いている。


(……さて、どうなりますやら)


ソファに腰を下ろし

スマホを無音でいじりながら

外の音に、耳を澄ませる。


どれくらい経ったのか——


車の音がした。


戻ってきたのは、父だった。


「おいっ!」


「お母さん、見つかったぞ!

 警察署で保護されてるそうだ

 一緒に行くぞ!」


(……えー……マジかよ)


見つかったことよりも

警察が絡んだことのほうが


正直なところ

ため息しか、出なかった。


父と一緒に、警察署に着いた。


中に入ると、警察の方が

父に事情を説明し始めた。


どうやら

母は、亡くなった祖父の墓の前で

死のうと思い、家を出たらしい。


けれど——


そこまでの道のりは、遠い。


実家は田舎で

山を一つ越えるくらいの距離がある。


それを、スマホも財布も持たず

しかも徒歩で向かおうとして


当然のように

途中で、力尽きた。


普段から運動不足の母に

そんな距離を歩けるはずもない。


そして

色々思うところもあったのか


結局——


自分で警察に助けを求めたらしい。


……なんとも

情けない理由だった。


父は警察に促されて

母のいる部屋へと入っていく。


私は、その場から

動く気になれなかった。


(……はー……なっさけな。

 死ぬなら、川にでも飛び込めよ)


そんなことを思いながら

その場に立ち尽くす。


すると——


私の表情を読んだのか

年配の警察官が

穏やかに声をかけてきた。


「おばあちゃん

 すごく落ち込んでるし

 反省もしてるから

 今夜は、怒らないであげてね」


(……?)


(おばあちゃん?)


「……あ、はい

 母がご迷惑おかけして

 本当に申し訳ありませんでした」


「……え?娘さん?」


「……はい。あれ、母です」


父に支えられて出てきた母を

指さして答える。


「あ、そうなんだ

 ごめんね」


警察官は

頭をかきながら、軽く頭を下げた。


「……いえ

 こちらこそです

 本当にご迷惑おかけして

 申し訳ありませんでした」


母と、目が合う。


その瞬間——


母は、泣き出した。


「来てくれたの……?

 ごめんね……ごめん……」


抱きつこうとする母を

私は、すっとかわす。


「そういうの、いいから。

 とりあえず、車乗って。帰ろう」


それだけ言って

もう一度、警察の方々に頭を下げる。


そして、母を押し込むように

車に乗せた。

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