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否定の涙と、逆襲のコマンド

喉を焼く日本酒の熱さが、ツチヤ(49)の臆病な理性を焼き切っていた。


病棟の隅、ノートPCの青白い光に照らされたツチヤの顔は、もはや怯えるドブネズミではない。


「……踊り狂え。……そして宮川、お前が消えろ」


指先が、エンジニアとしての本能だけでキーボードを叩き出す。


病院のサーバーに潜り込み、宮川が仕掛けた「偽の不具合」の痕跡を次々と暴いていく。するとそこには、宮川と看護師の樹々(ジュジュ)がやり取りしていた生々しいチャットログが残っていた。


『ツチヤの野郎、またヒトミに3万突っ込みやがった。チョロすぎだろ』


『ジュジュも、現場で追い込んでやって。退職に追い込めば、あいつの持ってるストックオプションも会社に還元されるし、俺らで山分けだ』


ツチヤの目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。

それは悲しみではない。自分という人間を、金とバグの塊としてしか見ていない世界への、猛烈な拒絶だ。


「……否定してやる。……お前らの存在を、全部デバッグしてやる……!」


酔った頭で、ツチヤは「夢」の力を現実に召喚した。

彼は病院の不具合を直すふりをして、宮川のPCへ逆侵入バックドアを仕掛ける。そして、宮川のスマホと同期している『幻想のアルカディア』の管理者データを無理やり引きずり出した。


そこにあったのは、清楚な女神・ヒトミのガワを被り、ツチヤに愛を囁いていた宮川の無様な入力履歴だった。


「……あ、ああ……。やっぱり、そうだったのか……」


確信。吐き気を催すような真実。

だが、今のツチヤは笑っていた。

彼は勇者「しゃけ」として、最後のスキルを発動させる。


【コマンド:全データ一括公開パブリッシュ


宮川がヒトミとしてツチヤや他プレイヤーから金を騙し取っていた証拠。


看護師のジュジュがシステムを私物化し、宮川と共謀していた記録。

それらを、会社の全社員が見られる共有フォルダと、ゲーム内の全サーバー告知欄に同時に叩き込むスクリプトを組み上げた。


「……これでおしまいだ。……宮川……お前も、ヒトミも、全部消えろ」


送信キーを叩こうとしたその時、背後から声がした。


「……ツチヤさん? 何を、してるんですか……?」


サキちゃんだ。病院までツチヤの様子を見に来たのか、そこには現実の、震える声の彼女が立っていた。


「サキちゃん……。……俺、最低のおっさんだよな」


「ツチヤさん、顔が真っ赤です。お酒、飲んだんですか……? そんなことしたら、本当にクビに……」


「いいんだ。……現実は、俺がいなくても回る。でも、俺のプライドは……俺が守るしかないんだよ」


ツチヤは、泣きながら笑って、エンターキーを強く押し込んだ。


====================

【勇者しゃけ:ラスト・バースト発動】

【現実世界の「嘘」を、すべて強制終了シャットダウンします】

====================


直後、ツチヤのスマホに猛烈な勢いで通知が届き始める。


ゲーム内は大炎上。会社からの緊急着信。


そして、目の前でジュジュ(看護師)のスマホが、鳴り止まない警告音を上げ始めた。

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