しっちゃかめっちゃか・ハーレムの甘い罠
「しゃけ様、こっちですよぉ!」
「だめ、私の隣がいいの!」
夢の中の俺――『勇者しゃけ』は、現実の重力から解き放たれ、黄金の宮殿で三人の美女に揉みくちゃにされていた。
「ジュジュ、ヒトミ、落ち着けって。俺はどこにも行かないよ」
俺の腕に頬を寄せるジュジュの髪からは、甘い花の香りがする。ヒトミの指先が首筋をなぞり、現実の五十肩など嘘のように、全身に万能感が満ち溢れる。
そして、その光景を少し離れた場所から、慈愛に満ちた瞳で見つめているのは――サキちゃん(聖女Ver.)だ。
「……ふふ、しゃけ様。皆に愛されていて、素敵です。でも、今夜は私がお側でお守りしますから」
(最高だ。これだ。これがあるから、俺は生きていけるんだ……)
現実では宮川に「死ね」と言われ、無能扱いされるツチヤ。
だが、ここでは俺の言葉一つで彼女たちは一喜一憂し、俺の強さを称えてくれる。
しっちゃかめっちゃかな争奪戦。
俺は三人のヒロインを交互に抱き寄せ、甘い言葉を囁き、現実では絶対に味わえない「全肯定」の海に溺れていく。
「しゃけ様、大好きです!」「ずっと一緒ですよ、騎士様」
夢の幸せが絶頂に達しようとした、その時だった。
「……あ。……ツチヤさん、起きてください」
遠くで、サキちゃんの声が聞こえた。
夢の中の聖女サキちゃんではない。もっと現実的で、申し訳なさそうな、けれど確かな声だ。
「……ん、……え?」
パチリ、と目が開く。
視界に飛び込んできたのは、黄金の宮殿でも、ジュジュたちの笑顔でもない。
蛍光灯の光と、乱雑に積まれたサーバー、そして――心配そうに俺の顔を覗き込む、現実のサキちゃんの顔だった。
「……あ、……サ、サキ……さん?」
「ツチヤさん、デスクで寝ちゃってましたよ。もう、深夜の二時です……」
全身に走る、激痛。
デスクに突っ伏して寝ていたせいで、首は回らず、腰は固まり、五十肩は爆発しそうなほど熱を持っている。
夢の中の全能感はどこにもない。
あるのは、静まり返ったオフィスと、終わっていないデバッグの山。
そして、隣のデスクに残された宮川のメモ――『おい、寝てんじゃねえぞゴミが』という罵倒の文字。
「……す、すいません……。すぐに、やります……」
俺は震える手でマウスを握った。
夢の温もりを必死に思い出そうとするが、現実は無残に、冷たいコードの海へと俺を突き落とす。
(死ね。……宮川、お前が……死ね……)
否定の涙を、乾いた喉の奥に飲み込む。
俺の戦場は、まだ終わっていなかった。




