表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/20

しっちゃかめっちゃか・ハーレムの甘い罠

「しゃけ様、こっちですよぉ!」

「だめ、私の隣がいいの!」


夢の中の俺――『勇者しゃけ』は、現実の重力から解き放たれ、黄金の宮殿で三人の美女に揉みくちゃにされていた。


「ジュジュ、ヒトミ、落ち着けって。俺はどこにも行かないよ」


俺の腕に頬を寄せるジュジュの髪からは、甘い花の香りがする。ヒトミの指先が首筋をなぞり、現実の五十肩など嘘のように、全身に万能感が満ち溢れる。


そして、その光景を少し離れた場所から、慈愛に満ちた瞳で見つめているのは――サキちゃん(聖女Ver.)だ。


「……ふふ、しゃけ様。皆に愛されていて、素敵です。でも、今夜は私がお側でお守りしますから」

(最高だ。これだ。これがあるから、俺は生きていけるんだ……)


現実では宮川に「死ね」と言われ、無能扱いされるツチヤ。


だが、ここでは俺の言葉一つで彼女たちは一喜一憂し、俺の強さを称えてくれる。

しっちゃかめっちゃかな争奪戦。

俺は三人のヒロインを交互に抱き寄せ、甘い言葉を囁き、現実では絶対に味わえない「全肯定」の海に溺れていく。


「しゃけ様、大好きです!」「ずっと一緒ですよ、騎士様」


夢の幸せが絶頂に達しようとした、その時だった。


「……あ。……ツチヤさん、起きてください」


遠くで、サキちゃんの声が聞こえた。

夢の中の聖女サキちゃんではない。もっと現実的で、申し訳なさそうな、けれど確かな声だ。


「……ん、……え?」


パチリ、と目が開く。

視界に飛び込んできたのは、黄金の宮殿でも、ジュジュたちの笑顔でもない。


蛍光灯の光と、乱雑に積まれたサーバー、そして――心配そうに俺の顔を覗き込む、現実のサキちゃんの顔だった。


「……あ、……サ、サキ……さん?」


「ツチヤさん、デスクで寝ちゃってましたよ。もう、深夜の二時です……」


全身に走る、激痛。

デスクに突っ伏して寝ていたせいで、首は回らず、腰は固まり、五十肩は爆発しそうなほど熱を持っている。


夢の中の全能感はどこにもない。

あるのは、静まり返ったオフィスと、終わっていないデバッグの山。


そして、隣のデスクに残された宮川のメモ――『おい、寝てんじゃねえぞゴミが』という罵倒の文字。


「……す、すいません……。すぐに、やります……」

俺は震える手でマウスを握った。


夢の温もりを必死に思い出そうとするが、現実は無残に、冷たいコードの海へと俺を突き落とす。

(死ね。……宮川、お前が……死ね……)


否定の涙を、乾いた喉の奥に飲み込む。


俺の戦場は、まだ終わっていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ