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神獣の調力師  作者: サンショウオ
第4章 バキラ
113/114

113 合流

 

 私とイザイア少年を乗せた荷馬車が下船地点に到着すると、そこには待機姿勢の砂流船があった。


 私達を乗せた荷馬車が止まると、砂流船の手前の大地にあるテントから人が出て来た。


 荷馬車から降りたイザイア少年は、その人物に博士の手紙を渡すと、2言、3言言葉を交わしてから私を手招きした。


「アリソン殿、乗船許可が出ました。どうぞ乗船してください」


 私はイザイア少年に礼を言ってから、テントから出て来た船員の後ろに従って乗船した。


 彼とは14歳になったら神眼の発現に協力するという条件で、とりあえず仲直りしていた。


 まあ、彼がギーザ様のお世話をしてくれるようになれば、私の負担も減るしね。


 砂流船に乗るとそのまま指令室に案内され、そこでは船長のイーヴォが待っていた。


「学者先生からお前さんをチャンピに送り届けるように言われたよ」

「はい、王都に用事が出来てしまいましたので」

「遭難者がようやく自分の居場所を見つけたのか。まあ、チャンピまで往復しても調査終了前に戻って来られるから問題はないがね」


 船長の言葉が嫌味なのかどうかは分からなかった。


「おい、航海具にチャンピの魔力波を合わせろ」

「はい」


 その言葉を聞いて、指令室に航海図が無い事を思い出した。


「船長、砂流船に航路図が無いのはどうしてなのですか?」

「航路図? 船は目的地の魔力ポールから送られてくる魔力波を受信して、方向と距離を知るんだ。そんな物は必要ない」


 そう言ってもう用は無いとばかりに手をひらひらしたので、私は司令室から出て行く事にした。


 砂流船は直ぐに起動すると、チャンピに向かって動き出した。



 船員は私が一応はお客さんだという事で、個室に案内してくれた。


 砂流船は問題なくチャンピの港に到着した。


 前回は船から降りたところで近衛隊に捕まったが、今回は乗合船ではなく国立環境研究所の所属船ということもあり、桟橋で邪魔されることも無くすんなり降りる事ができた。


 チャンピの貴族地区までやって来ると私以外道を歩く者は居なくなったが、それでも行く手を遮られることは無かった。


 始めて見るアルドリット公爵家の館は大きく、門の傍には門番が立っていた。


 私はその門番に挨拶すると、博士から貰った手紙を差し出した。


「私はアリソンと言います。王立環境研究所のダヴィアーニ博士から紹介状を持ってきました。公爵様への面会を希望します」


 門番は私の顔、服装を見て、そして手に持った手紙に視線を移した。


 そして手紙の裏に書かれてある署名を確かめてから口を開いた。


「館に問い合わせるからここで待つように」

「はい、お願いします」


 暫く待っていると、門番が執事を連れて戻って来た。


 皺の無い執事服を着た白髪の執事が私に恭しく頭を下げた。


「旦那様がお会いするそうです。どうぞ、こちらに」

「はい、ありがとうございます」


 私は白髪の執事の後を付いて行くと、向かった部屋にはやや茶色かかった髪を綺麗に撫でつけた中年男性が座っていた。


 そして私を見ると、にこやかに微笑んだ。


「良く来てくれたね。歓迎しよう」

「ありがとうございます」


 公爵は私をソファに座るように勧めてきたので、そちらに座ると直ぐにメイドがお茶を置いてくれた。


 私が一口飲むと、公爵が口を開いた。


「環境が悪化してお茶の質が落ちていてね。余裕があればアンスリウムから購入したいと思っているんだがね」

「私はただの平民なので、そこまで味の違いは分かりません」

「ほう、ただの平民、ねぇ」


 その言い回しで私の事を知っているようだと思われた。


「私はシリル・アルドリット様にこの国の環境を改善して欲しいと請われて、この国に来ました」

「ああ、私もそれを期待しているよ」


 この反応ならイーゼル要塞で行動を妨害されずに、ギーザ様の神域に行けるかもしれないわね。


「バキラの環境を元に戻すためイーゼル平原に行く必要があるのですが、そこに行くにはイーゼル要塞から向かう必要があるようです。この要塞は私が拘束されて送り込まれる場所だったので、すんなり通過させてもらえるとは思えません。公爵様のお力で何とかしてもらえませんか?」

「分かっている。協力は惜しまないよ。あの要塞にはこちらの味方をする将軍が居るので話を通しておこう」


 これで1つ問題は解決したが、次の問題はイーゼル要塞までの交通手段か。


「それで公爵様、イーゼル要塞に行くには補給船に乗るしかないのでしょうか?」


 私の質問に一瞬意味が理解できなかったようだが、直ぐに笑顔を見せた。


「ああ、近衛の連中か。連中が邪魔をするようなら公爵家にも船はあるから問題はない」


 それを聞いた私はこれで何とかなると安心した。


 だが、その安心は直ぐに懸念に変った。


 私達が居る部屋に突然、第3者の声が聞こえたのだ。


「公爵様、緊急です」


 突然の声に私がびっくりすると、公爵は何でもないとでもいうように手を振った。


「心配無い。公爵家の影だ」


 それって諜報員って事ですか?


 だが諜報員がその後を続けないので、直ぐに部外者である私が居るからだと気が付いた。


 私は気を使って中座しようと立ち上がると、公爵にそれを手で止められた。


「構わん。話せ」

「はい、イーゼル平原で獣王国と戦いが始まりました。現在イーゼル要塞が獣王国に包囲されているようです」


 ちょ、ちょっと待って、イーゼル要塞が戦場になっているの?


 っていうか、なんで獣王国と戦争になっているのよ。


 その疑問は公爵も同じだったようで、眉間に皺が寄っていた。


「奇襲されたのか?」

「いえ、戦端を開いたのはどうやらこちら側のようです」

「こちらから? 誰の指示だ?」

「正妃様から正式な王命です。イーゼル平原の獣王国側砦を攻め捕虜を得た上で、それを第3王子解放の手駒にしようとしたようです」

「それではイーゼル要塞には行けないのですか?」


 思わず私が口を差し挟んでしまうと、公爵が困った顔でこちらを見た。


「すまないが、戦場に女性を連れて行く事は出来ない。戦況が回復して要塞周辺が最前線で無くなるのを待つしかないな」

「王国軍が獣王国軍を押し戻す見込みはあるのですか?」


 私がそう聞くと、公爵は難しい顔をしていた。


 その顔を見れば、戦況が回復しそうもない事は簡単に分かった。



 それから数日、戦況を見守るという事で私は公爵家に厄介になっていた。


 世界が崩壊しているというのに何もできない日々を送っていると 公爵館に慌ただしく入って来た1台の馬車があった。


 何か動いたと直感した私は、そっと玄関の傍で見張る事にした。


 そして馬車から出てきたのは見知った顔だった。


「シリル、カーリー」


 私が声を上げると、公爵館に駆け込んできたシリル・アルドリットとカーリー・ブレナンがこちらを見た。


「やあアリソン、無事だったか。心配したぞ」

「ええ、そうです。無事でなによりです」


 2人は私の無事を喜んでくれた。


「ええ、色々ありましたが、今はどうやってイーゼル平原に行けるか考えております」

「イーゼル平原、あんなところに何かあるのか?」

「この国の未来があります」


 私の一言にシリルが目を見張ると、カーリーが期待を込めた瞳をむけてきた。


「それって、バキラもユッカやモステラのように環境が戻るって言う事ですか?」

「ええ、でも、そこに行くには戦場を通らないといけないので、困っているのです」

「戦場だって?」


 あれ、シリルはイーゼル要塞が戦場になっているのを知らないのかしら?


「今イーゼル要塞は獣王国軍に包囲されているようですよ」

「え、どうしてそんな事に」

「それは公爵様に聞いてください」

「それもそうだな。こちらも重要な情報を手に入れて来たんだ。アリソンも一緒にきてくれ」


 そしてみんなして公爵の執務室に行こうとしたところで、後ろから遠慮がちな声が聞こえて来た。


「あのう、俺はどうしたら?」


 私が振り返ると、そこには肩を丸めた男が手持無沙汰で立っていた。


「誰?」

「ああ、この男はアベーレといって、熱砂セーリングの選手だ」

「えっ、熱砂セーリング?」


 初めて聞く言葉に私が繰り返すと、シリルが熱流砂の上を帆を張って走る競技だと教えてくれた。


 私は危険な熱流砂の上で遊ぶという男を見て目を細めた。


「貴方、自殺願望でもあるのですか?」

「なっ」

「ぶふふ、確かに貴女から見ればそう見えるのでしょうねえ」


 私が言葉を投げた男は絶句し、シリルはおかしそうに笑っていた。


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