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路地裏の「心の染み抜き屋さん」 ~追放された俺と、エルフの師匠が遺した秘密~  作者: もりも理幽
第十一章:工房「星見草」とミーナの(ちょっぴり)危険な恋心 ~パンとハーブと謎の影~
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エピローグ:月見草パンと、恋する乙女の教訓

 あの夜のドタバタ騒動から数日後。工房『星見草』には、いつもの穏やかな空気が戻っていた。とはいえ、ミーナはまだ、自分の勘違いと暴走(?)を思い出すたびに、顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。


「うぅ……本当に、私ったら、なんておっちょこちょいなんだろう……。ルカさんたちにも、あんな危険な目に遭わせちゃって……」

 工房で、淹れてもらったハーブティーを飲みながら、ミーナはしょんぼりと肩を落としていた。彼女の心には、反省を示す、少ししんなりとした水色の染みが見える。


「まあまあ、ミーナさん。結果的に、誰も怪我をしなかったんだから、よかったじゃないか」

 ルカは、苦笑しながらも優しく慰める。

「それに、僕たちを守ろうとしてくれた、君の勇気は本物だったよ。……パン生地を投げたのは、ちょっとびっくりしたけど」


「ふふ、あれは見事な一撃でしたわね。エルフの森の投擲術にも劣らないかもしれません」

 フィリアンネが、楽しそうに付け加える。その言葉に、ミーナはさらに顔を赤くして俯いてしまった。


「……まあ、怪我がなくてよかった、それだけだ」

 隣の工房から顔を出したゴードンも、ぶっきらぼうに、しかしどこか優しい口調で言った。


 皆の温かい言葉に、ミーナは少しだけ元気を取り戻したようだった。

「……ありがとうございます。でも、もう絶対に、あんな無茶はしません……。ちゃんと、ルカさんたちに相談します……」

 彼女は、今回の件で、大切なことを学んだのだろう。一人で突っ走るのではなく、仲間を信頼し、頼ることの大切さを。そして、恋する気持ちも、時には冷静さを見失わせてしまうという、ちょっぴり苦い教訓も。


 そんな反省(?)を胸に、ミーナはあの夜、苦労して採ってきた月見草の蜜を使って、ついに新作パンを完成させた。それは、見た目も美しい、三日月のような形をした小さなパンだった。表面には粉砂糖がかけられ、夜空に輝く星々を思わせる。そして、一口食べると、ほんのりとした優しい甘さと、夢見るような、ふわりとした独特の香りが口の中に広がる、まさに夜にぴったりのパンだった。


「わぁ……! 美味しい! すごく優しい味がする!」

 完成した月見草パンを試食したルカは、思わず声を上げた。

「まあ、これは……心が安らぐ、不思議な味わいですわね。良い夢が見られそうだわ」

 フィリアンネも、目を細めて味わっている。

「……ふん、悪くねぇ」

 ゴードンも、珍しく素直な感想(?)を漏らした。

「やったー!」

 ミーナは、皆の反応を見て、ようやくいつもの明るい笑顔を取り戻した。自分のパンが、皆を笑顔にできる。それこそが、彼女にとって何よりの喜びであり、原動力なのだ。彼女の心には、パン作りへの情熱と、皆への感謝を示す、温かく輝くオレンジ色の光が満ち溢れていた。


 ***


 その夜。

 工房の窓辺で、ルカとミーナは、二人で月明かりを浴びながら、完成したばかりの月見草パンを食べていた。昼間のドタバタが嘘のように、穏やかで、静かな時間が流れている。


「……あのね、ルカさん」

 ミーナが、少し恥ずかしそうに口を開いた。

「昨日は……その、勘違いしちゃったけど……。でも、ルカさんやフィリアンネさんを守りたいって思った気持ちは、本当だったんです。私、ルカさんのことが……皆さんのことが、本当に大切だから……」


 真っ直ぐな瞳で、自分の気持ちを伝えるミーナ。その姿に、ルカは胸が温かくなるのを感じた。

「……うん。分かってるよ、ミーナさん。ありがとう」

 ルカは、ミーナの手をそっと握った。

「僕も、ミーナさんのことが、大切だよ。君がそばにいてくれるだけで、僕はすごく心強いんだ」


 二人は、言葉少なに、しかし確かな想いを込めて、見つめ合った。月明かりの下、二人の間には、甘くて、少しだけ切なくて、そしてどこまでも温かい空気が流れていた。


 足元では、シロップが、安心しきった様子で、すやすやと寝息を立てている。彼もまた、この工房と、ここにいる大切な家族を、自分なりに守ろうとした、小さなヒーローだったのかもしれない。


 恋する乙女の(ちょっぴり危険な)勘違いから始まった騒動は、結果的に、彼らの絆を、ほんの少しだけ、深めることになったのかもしれない。まあ、しばらくは、ミーナが夜中に一人で出かけるのは禁止、ということになったのだが……それはまた、別のお話。


 工房『星見草』には、今日もまた、月見草パンの優しい甘い香りと、穏やかな時間が流れている。

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