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路地裏の「心の染み抜き屋さん」 ~追放された俺と、エルフの師匠が遺した秘密~  作者: もりも理幽
第十一章:工房「星見草」とミーナの(ちょっぴり)危険な恋心 ~パンとハーブと謎の影~
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パン生地まみれのヒーロー(?)と、意外な結末

「ミーナさん!!」


 街はずれの薄暗い路地で、息を切らせて走るミーナとシロップの姿を、ついにルカたちが捉えた。背後からは、ガラの悪そうな二人組の男たちが、しつこく追いかけてきている。


「ルカさん! フィリアンネさん! ゴードンさんも!」

 ミーナは、助けが来たことに気づき、涙目で駆け寄ってきた。

「大変なんです! あの人たち、フィリアンネさんを狙ってる悪い人たちで! きっと、『星々の歌』の秘密が書かれた『例のブツ』を盗もうとしてるんです!」

 ミーナは、息も絶え絶えに、しかし真剣な表情で、自分の(壮大な)勘違いを訴えた。


「……は?」

 ルカは、ミーナのあまりに突飛な話に、一瞬、思考が停止した。フィリアンネも、隣で不思議そうな顔をしている。


 しかし、説明している間にも、追いついてきた二人組の男たちが、ルカたちの前に立ちはだかった。

「ちっ、仲間がいたのか!」

「面倒なことになったな……。だが、見られたからには、このまま帰すわけにはいかねぇ!」

 男たちは、懐から武器を取り出した。……といっても、それは錆びて刃こぼれした古いナイフと、どこかで拾ってきたような、ただの木の棒だった。どう見ても、手練れの暗殺者や、ましてや『影』の手先には見えない。小物感が漂っている。


 ルカが【ハート・スコープ】で彼らの心の染みを見ると、そこにあるのは、フィリアンネや星々の歌への悪意ではなく、単純な金目の物への欲望(濁った茶色)と、事が大きくなってしまったことへの焦り(チリチリとした赤色)、そして、目の前のゴードンやフィリアンネ(特にエルフであるフィリアンネ)から発せられる、ただならぬ雰囲気への恐怖(黒く震える染み)だった。


(……あれ? もしかして、ミーナさんの勘違い……?)

 ルカは、状況を察し始めたが、男たちはすでに臨戦態勢だ。


「うおおっ!」

 木の棒を持った男が、やけくそ気味に襲いかかってきた!


「させるか!」

 ゴードンが一歩前に出て、その無骨な斧槍を構える。その威圧感だけで、男の動きが一瞬止まる。


「……愚かな」

 フィリアンネが、冷ややかに呟き、男たちを静かに睨みつけた。エルフの持つ、人間には抗いがたいような、神秘的で強い意志のこもった眼差し。男たちは、まるで金縛りにあったかのように、体が動かなくなった!(ように見えた。実際は、ただ単にビビッていただけかもしれないが)


 しかし、その時、ナイフを持ったもう一人の男が、混乱に乗じて、一番弱そうに見えたミーナ(あるいは、そばにいたシロップ)に襲いかかろうとした!


「危ない!」

 ルカが叫んだ、まさにその瞬間!


「えいっ!」

 パニック状態ながらも、とっさに身を守ろうとしたミーナが、昼間、新作パンのためにこねて、偶然持ち歩いていたパン生地(月見草の蜜がたっぷり練り込まれている)の塊を、男の顔面に向かって投げつけた!


 ベチャッ!!


 ねばつくパン生地が、見事に男の顔面にクリーンヒット!

「ぐわっ!? な、なんだこりゃ!? 甘い! ベタベタする! 前が見えねぇ!」

 男は、予期せぬ攻撃(?)に悲鳴を上げ、その場でのたうち回る。あまりにも締まらない光景だ。


「ワンワン!」

 シロップも、ここぞとばかりに、もう一人の男(棒を持った方)の足元にまとわりつき、キャンキャンと吠えながら邪魔をする。男は、足元の犬に気を取られ、体勢を崩した。


「……もう、いいでしょう」

 ルカは、ため息をつきながら、男たちに向かって言った。

「あなたたちが探しているのは、フィリアンネでも、『星々の歌』でもないはずです。正直に話してください。一体、何を探していたんですか?」

 ルカの、静かだが全てを見透かすような瞳と、フィリアンネの冷たい視線、そしてゴードンの無言の圧力(と、顔面パン生地まみれの仲間)に、男たちは完全に戦意を喪失したようだった。


 観念したように、彼らは正直に白状し始めた。やはり、彼らはただのチンピラで、以前仲間が盗んでこの辺りに隠したという装飾品(結局、たいした価値のないガラクタだったらしい)を探しに来ただけだったこと。「エルフ」云々は、最近街で囁かれている噂を聞きかじっただけで、フィリアンネのことだとは知らなかったこと……。


「……つまり、全部、私の勘違い……?」

 真相を知ったミーナは、顔から火が出るほど恥ずかしくなり、その場にへなへなと座り込んでしまった。


「まあ、怪我がなくて何よりだ」

 ゴードンが、呆れたように言う。


「ふふ、ミーナ。あなたの勇気(?)は認めますが、少し早とちりが過ぎましたわね」

 フィリアンネは、くすくすと笑いをこらえている。


 結局、チンピラたちは、何も見つけられず、パン生地まみれになった仲間を抱え、「もう二度と来ません……」と捨て台詞を残して、ほうほうの体で逃げていった。(あるいは、騒ぎを聞きつけた衛兵がやってきて、御用となったかもしれない)


 後に残されたのは、夜風に揺れる月見草と、顔を真っ赤にして落ち込んでいるミーナと、そんな彼女を慰めるルカと、やれやれといった表情のフィリアンネとゴードン、そして、なんだかよく分からないけど、悪い奴らを追い払ったぞ!と満足げに尻尾を振るシロップだった。

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