閑話 バレンタイン
バレンタインに合わせて作ってみました。
「あら進さん。おはようございます」
「・・・・、おはようございます」
朝、リビングに入ると当然のようにフレイが居座っている。
突然居てももう驚きはしない。キッチンで朝ごはんを作っているナギも慣れたものでいつも通りに動いている。
さて、今日は何しに来たんだろうか?。
「ふふふ。進さん、今日は何の日か知っていますか?」
「さぁ?、何かあるのか?」
こっちの世界に来てからカレンダーなんて見なくなった。その日をその日の気分で生きている俺たちにとってはカレンダーなんて意味が無いからな。
フレイは大袈裟に手を広げて言い放った。
「なんと今日は2月14日、バレンタインですよ~!」
「へ~・・、そうなんだ」
そういえばそんなイベントも地球ではあったなぁ。俺は一度としてそのイベントに参加した事ないけどね。
彼女の居ない独身貴族には無縁のイベントトップ3に入る位だからな。
ちなみに後の2つはクリスマスと夏祭りだと思っている。
勿論俺が勝手に思っているだけだが・・・。
「ではそんな進さんに私からチョコレートを差し上げます」
「あ、どうも・・」
・・・・・
まさか人生初のチョコレートをこんな所で手に入れるとは・・・。
妙に手作り感満載のチョコレートだけど、フレイが手作りしているビジョンが浮かばない。
むしろ、何もない所からポンっと出しているビジョンしか浮かばない。
「本命なのでちゃんと1から作りました。材料はポンっと出しましたが」
「そうなんだ、ありがとう」
どこまで本気なんだろうか・・・。
でも貰えるとやっぱり嬉しいもんだな。自然と顔がニヤついてしまう。
「バレンタイン?、とは何ですか?」
「ふふふ、好きな男性にチョコレートを渡す日のことですよ」
「すっ!?。・・・ススムさん、それは本当ですか?」
「まぁ一応。国によって違うみたいだけど、俺が居た国では女性が好きな異性に送るのが一般的だったな。感謝している人とかに送っている人もいたけど」
今では友チョコとか自分チョコとかあるらしいけど・・・。
「ふふふ、ナギはあげないんですか?、よければ作り方を教えますが」
「え・・・、そ、そうですね。ススムさんには感謝していますし・・・。お願いします。あ、あくまで感謝、感謝しているからですよ!」
「ふふふ、そういうことにしておきましょう」
ということで、急遽朝ご飯がチョコレート作りに変わった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「これでいいの?」
「それで大丈夫です。あとは冷蔵庫で冷やして完成ですね」
「フレイちゃん、チョコレート溶けてきた!」
「まだ表面だけですね。もうちょっと待ってください」
チョコとフウがチョコレート作りに加わり、キッチンが賑やかだ。
聞こえてくる話からあとちょっとで出来そうだな。
フレイがくれたチョコレートを食べながらのんびりと待つ。
あのフレイがくれたので一口目はちょっと怖かったが、かなり美味しい。
ただ、手作りと言っていたのに見た目がまんま板チョコなのがすごく気になるけど・・・。
『なぁ・・美味いんか?、美味いんやろ!?』
あとセリが五月蠅い。
セリはフレイからチョコを貰えなかったので、ずっと欲しそうにしている。
一度あげようと思ったのが、初めてのチョコレートなので自分で全部食べることにした。
どうせナギたちがセリに渡すだろうし、今あげなくてもいいだろう。本人の我慢力も上がるし一石二鳥だ。
「もうちょっとでセリも貰えるだろうし我慢しろよ・・・」
『しとるわ。これ以上ないくらいにしとるわ!』
ならもうちょっと落ち着いてくれ、そう周りをウロチョロされると気になってしょうがない。
誰か早くセリに渡してやってくれ。
「ふふふ、出来ましたよ」
『ほんまか!?、どれがウチの分や!?』
セリがキッチンに跳んでいく。
ふぅ、やっと解放された。
「じゃあ私はシアに渡してくるね」
入れ替わりにキッチンからフウがバタバタと出て行った。なるほど、フウはアンダルシアに渡すのか。
「あ、あの・・・、ススムさん、これ、どうぞ・・」
「はいこれ、いつも住まわせてもらっているしあげる」
セリを追ってキッチンに移動すると、恥ずかしそうなナギと、いつもの調子のチョコがチョコレートを渡してくれた。
「ありがとう、食べてもいいか?」
二人の了承を貰って一口食べる。うん、美味しい。
初めてなのに流石だな。
ただ、二人とも形が板チョコなのはなぜなんだ。
「「だってその形がチョコレートだってフレイ(さん)が・・」」
後ろでフレイが笑っている。
揶揄いたかったのは分かったから、後でちゃんと教えておくように。
『なぁ、ウチのチョコレートは!?』
自分のチョコレートが見当たらないセリが半ば泣きそうな顔になっている。
「「え?」」
『え?』
二人の反応で察した。
セリも察したようで、プルプルし始めている。
あ、泣いた。
『ウチのは!、ウチのはぁ!!?』
泣き出したセリに困った二人がこっちを見る。
いや、見られても困るんだけど。
二人ともセリの分は考えていなかったらしい。
理由はセリが雌だから、だそうだ。
多分、フレイがそう言ってセリに渡さないようにしたんだろう。
だってさっきからずっと笑っているし。
「仕方ありませんね。セリには私があげますよ」
気が済んだのか、何処からか出したチョコレートをセリに渡した。
チョコレートの表面に大きく《苦》と書いてあるんだけど・・・。
すがるような目でセリがフレイを見る。
『え、ええんか?、食べてええんか?』
「ええ、もちろん」
「おい!、セーー」
止めようとしたが一足遅かった。
セリはチョコの半分以上を一口で喰らった。
「どうですか?、甘さを一切なくしてみたのですが・・・」
セリの動きが止まる。
そして・・・、
当分の間セリがチョコレートを食べることは無かった。




