第31話 崖ダイブ(補助付)
高い所とか無理、観覧車も無理
「あのさ・・・マジでやるのか?」
次の日、俺はあの崖の前に来ている。
今日はセリと二人だけだ、他のメンツは諸事情により家に残って貰った。
『当たり前や!そうせんと先進まれへんし。ちゃんと補助したる』
「いや、でもさぁ・・・」
さっさと行けと言わんばかりのセリと、なかなか前に進めない俺。
だって一歩歩いたら崖から落ちる位置にいるからだ。・・・ものすごく帰りたい。
なんでこんな事になってるかは状況から大体想像できるが、内容を話すと昨日セリが飛べるとの話まで戻る。
セリが飛べる(浮ける)と分かった後、3人でどうするかを話し合う事になった。
と言っても飛べるセリと一緒に降りると言う事しかないのだが。
ただセリ自体が飛ぶには問題ないが、俺たちを運べるかは不明だそうだ。なので庭に出て試してみた所、一人までなら何とか滞空を維持することができたが、流石に移動は出来ないみたいだ。
そもそもセリは誰かを運ぶなんて事をした事が無いので仕方ない。
なので崖沿いをゆっくり降下する方向で決まった。
そして降りるのはもちろん俺。
何故なら俺一人が降りれば、家にいるみんなは全員降りた事にできる。門を崖下に出せばそこから出られる。
一番の理想を言えば、家にいる時に門を崖下に出せればいいのだが、それは出来ないので諦める。
色々考えて俺が降りなくてもいい方法を探したが、みんなが持ってる特異性では不可能だった。
結局飛ぶしかなくなり、そのあとがすごく憂鬱だった。寝ることすら出来なかったよ。
おかげでちょっと気分が悪い。
でもやらないと終わらないので、なんとかここまで来て今に至る。
だがいざとなると中々飛べない。
練習はしてたので大丈夫だと思うが、セリがミスれば即死は確定だ。
せめて命綱でもあれば良いのだが、家にあったロープでは100mが最大だった。崖下までの距離も分からないが100m以上はあるだろう。
『ほら、さっさと降りんかい!』
「おいやめっ・・」
とうとうセリがシビレを切らした。同時に後方から突風が吹き、俺を崖から押し出す。一瞬の浮遊感を感じた後、俺の体は急速に落下する。
「のぅああああああ!!」
真下を向いてるため、地面がものすごいスピードで迫ってくる感じがする。
て言うかセリのやつ早く助けてくれ!! まじで死ぬ!
『待ちぃ、今やるさかい』
そう聞こえた直後、下からの風が強くなり、俺の落下速度が徐々に遅くなる。
数秒後には落下が完全に停止した。
「ゲホッ、ゲホッ・・ハァハァ、・・と、止まった?」
むせてるのは急速に止まったためGがかかったせいである。
でもひとまず助かったので安堵する。正直走馬灯が見え始めてた。
『ほれ大丈夫やったやろ?』
セリが自信満々に言ってくる。見えないが背中でドヤ顔してるに違いない。
「もっと早くからやってくれ・・・。死ぬかと思った・・」
『早うからやったら時間かかるやん。ある程度落下してからの方が時間短縮できるし』
そうかもしれないけど、そうするなら先に言っといてくれ。
『言うてもススム嫌や言うやろ?言うだけ無駄やん』
ぐぅ・・・、確かに嫌だけどさ。
もし落ちてる最中崖にぶつかったらどうするんだ。
『ちゃんと障壁張ってたし大丈夫やで。その辺は抜かりはないわぁ』
それも先に、って言っても無駄か。
もう半分以上降りている状況だし、文句は降りてからにしよう。
足がつかないので物凄く不安だ。さっさと降りて家で寝たい。
「頼むから急降下だけはやめてくれよ?」
『せぇへんて。このまま降りるし安心してや』
今は徐々に降下している。スピード的には歩くのと同じくらいだ。
慣れてくると徐々に不安が減ってきて、遠くを見るくらいの余裕は出来てきた。
前方の方角にまだ先ではあるが森と草原?の境目が見える。
その先には街のような何かの建物が見える。森からは離れてないし、森を出てからはまずそこに向かってみよう。
川も建物と同じ方角に流れていっているので、このまま川沿いを歩けば森からは出られそうだ。アマゾン川みたいに曲がりくねってるから、かなり遠回りする事になりそうだけど。
『ススムはあの街に行くつもりなんか?』
「ん? そのつもりだけどダメか?」
いったらまずいのかな? 確かにこちらの世界の人間についてはよく知らない。フレンドリーに迎えてくれとも限らないし。
誰彼構わず「〇〇村へようこそ」と言うことはないだろう。あれは仕様なのだから。
と思ってたけど、セリの考えてることは違った。
『街に行くんはええんやけど・・・。その前にあっちに寄ってくれんか?』
そう言って街より右、森の一箇所を見続ける。崖を伝っていけばセリの見ている箇所には行けそうだが何かあるのか?
『分からへんけど、なんか行かなあかん感じがすんねや』
「ふーん。なら行くか。崖沿い歩けば迷わず行けそうだからな」
『ほんまか?ならちょっと降りる所も移動してええか?少しでも近くに降りれるようにするし』
「別にかまわ、わ、ちょ、ちょっと待て、それは待て!」
俺の体の向きが急に変わり、後ろから突風を当てられて移動し始める。
宙に浮いてる俺は踏ん張ることもできず、風に流されセリの言う方向に動き出した。
ただ、スピードが速すぎる。せっかく現状に慣れてきたのに!
「待てセリ、もう少しスピードをだな!」
『大丈夫や。もうちょっとでつくさかい』
そうは言っても限度がある。何故空を車並みのスピードで移動しなければならないんだ。
ナギなら喜びそうだが、高いところがダメな俺にとっては嫌がらせにしか見えない。
あと地味に落下速度も上がってきてるし、地面ももうすぐそこまで迫ってる。
そろそろ止めないと、俺はもうダメかもしれない。
「セリ、止まらんと今日のおやつ抜きにするぞ!!」
『ふぁあ!?』
セリはおやつ抜きに即座に反応し、同時に突風が消えてスピードが下がる。
そして俺を支えていたであろう風も消えていた。あまりの衝撃に“風生成”を切ってしまったらしい。
「うわぁああ!、なう!、がっ!、あだ!」
ガサガサと枝と葉っぱを散らしながら俺は地面に落ちた。途中で何度か木に体をぶつけたので所々痛いが、おかげで助かった。木がクッションの代わりになってくれた。
それに、思った以上に地面に近付いてたみたいだったようだ。
落ち出した瞬間物凄く焦ったわ。
「あれ?セリは?」
落とした元凶はリュックに居ない。どこかに落としてしまったようだ。
『こ、ここやぁ・・・』
情けない声が聞こえる。声の方向を見るとセリが垂直に立って、いや刺さってた。
落ちた時の衝撃でリュックから投げ出されたセリは、そのまま地面に頭から突き刺さったようだ。
慌ててセリを引っこ抜いた。どうやらダメージは無いらしい。
聞くと、咄嗟に“鋼質化”で防御したらしいが、そのせいで勢いを殺せず地面に突き刺さったらしい。
垂直に刺さったので自力で抜けなかったようだ。
胴体の半分まで刺さってたしな・・・。そりゃ無理だろ。
しかし、なんとか無事ではないが、崖を降りることはできた。
けどあちこち痛い。一旦家に帰ってフウに治してもらおう。
「セリ、一度家に帰るぞ。」
しかしセリは動かない。どこか怪我でもしたんだろうか? よく見ると少し震えてるようにも見える。
「おいセリ、もしかして怪我でもしたのか!?」
『ウチのおやつ・・・』
・・・・・
おやつかい!!
どうやら体は無事なようだな、心配して損した。
セリは落ちた事でおやつ抜きになったと思ってるらしい。
その認識は間違ってないが崖を降りられたのはセリのおかげだし・・・。
さてどうしようか・・・
うーむ・・・
ま、いっか。
降りられたし、良しとしよう。
「セリ来ないのか?本当におやつ抜きになるぞ?」
そう言うと、セリは目を輝かせて寄ってきた。
可愛い奴め。
二人揃って門をくぐる。
同時に中で待ってたナギが悲鳴を上げた。聞くと刺さってるそうだ。
見ると俺の足に枝が突き刺さってた。
全身痛かったから気付かなかった。ははは・・・
心配させた分、二人とも物凄く怒られた。
セリはナギの権限で、おやつ抜きになって泣いた。




