水に沈んだ、小さな手(上)
「ああ、見つかったのだね」
瑠璃が見つけた花をその根っこごと持ち帰り、キリに差し出したところ、そんな感想を漏らした。
その声はどこか、安堵が滲んでいるかのようだった。
その花が何なのか、瑠璃にはまだよく分かっていなかったが――。
キリと並べてみると、それが何であるのか、分かったような気がした。
「貴方と、とてもよく似ているわ。少し違うけれど」
「そうかもしれないね。きみと僕は、もう長いこと一緒に過ごしてきたから……。
そういうことも、あるのだろうね」
この花が、とても珍しく貴重なものであるらしいことは、なんとなく分かる。
でも、だからといって、何ができるというのだろう?
「これから、どうしたらいいのかしら」
瑠璃が、途方に暮れたように、ポツリと漏らす。
「それは、僕にも分からない。
きみの他には、誰も分からないことだよ」
キリはそれに、静かに応えた。
「瑠璃。きみは、どうしたい?」
瑠璃はしばらく、口を閉ざした。
何もかもが枯れ、荒れ果てた土地を眺めながら、考える。
わたしは、どうしたいのだろうか。
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新しい花が咲いた、花飾りを眺めていると。
ロウは、これまで知り得なかったさまざまなことを、知ることができるようになった。
瑠璃がもう、何も覚えていない、分かっていないこと。
ひどく傷ついているらしいこと。
そして――やっと、立ち直り始めたところであること。
ロウは、泣き出したい気持ちでいっぱいになった。
瑠璃がおれのことまで忘れてしまったなんて。
側にいるのに、気づいてもらうことすらできないなんて!
どうしたらいいのか。
そんな事、分かりようもない。
それでも。
思い出してほしいこと。
気づいてほしいこと。
今も、ずっと好きでいること。
その一つ一つを、美しい旋律にのせて。
ロウは、歌い始めた。
いつかまた、出会えるようにと、祈りを込めて。
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「……広すぎぃ……」
瑠璃は、耕していた。
文明の利器などない中、拾い集めたものでこしらえた原始的な鍬で、この荒廃した土地を、ただ一人黙々と。
暗く荒れ果てた土地で何をするか。
考えてみたところで、選択肢はそう多くはない。
何もできずに呆然と過ごすか、望みなどみえずとも、がむしゃらに何かを試し続けるか。
それならば。
再び、花を、木々を、この地に取り戻したい。
そのために、土を起こす。肥料となりそうなものを探す。
痛みや疲れで、始めの内は遅々として進まなかったが――。
まるで業を煮やしたかのように、瑠璃のランプが火を噴きだして追いかけまわしてきたものだから、存外早く仕事が進んだ。
そうして忙しなく過ごしている内に、日々は過ぎてゆく。
気づけば、千日過ぎていた。
「土が死んでる……」
それだけ時間をかけただけのことはあり、広大な土地の、そのほとんどを耕し終えていた。
しかし、いくら耕したところで、あるのは乾涸びた砂ばかり。
少なくとも、どこかから水を引いてこないことには始まらないだろう。
そこでようやく思い至る。
もう、千日過ぎているのだから、外に出られるのだと。
思い立ったら行動は早かった。
出たいとキリに声をかけると、すんなりと囲いの一部を開いてくれた。
一歩、足を踏み出した。
根っこの壁の外へ。
何も覚えていないはずなのに、わずかに既視感があった。
予感、と呼べるものもあったかもしれない。
大きな恐れと、少しの期待とを抱えながら。
囲いの外の林を進んでいく。
すると、光のあまり差さない、水の溜まった場所に出た。
覚悟を決めて、覗き込む。そこで見たものは、かつての。
水面に映った、自分の死に様。




