↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
瑠璃の奮闘記  作者: 蜂矢ミツ
3/4

水に沈んだ、小さな手(上)

「ああ、見つかったのだね」


 瑠璃が見つけた花をその根っこごと持ち帰り、キリに差し出したところ、そんな感想を漏らした。

 その声はどこか、安堵が滲んでいるかのようだった。


 その花が何なのか、瑠璃にはまだよく分かっていなかったが――。

 キリと並べてみると、それが何であるのか、分かったような気がした。


「貴方と、とてもよく似ているわ。少し違うけれど」

「そうかもしれないね。きみと僕は、もう長いこと一緒に過ごしてきたから……。

 そういうことも、あるのだろうね」


 この花が、とても珍しく貴重なものであるらしいことは、なんとなく分かる。

 でも、だからといって、何ができるというのだろう?


「これから、どうしたらいいのかしら」


 瑠璃が、途方に暮れたように、ポツリと漏らす。


「それは、僕にも分からない。

 きみの他には、誰も分からないことだよ」


 キリはそれに、静かに応えた。


「瑠璃。きみは、どうしたい?」


 瑠璃はしばらく、口を閉ざした。

 何もかもが枯れ、荒れ果てた土地を眺めながら、考える。

 わたしは、どうしたいのだろうか。






 ---






 新しい花が咲いた、花飾りを眺めていると。

 ロウは、これまで知り得なかったさまざまなことを、知ることができるようになった。


 瑠璃がもう、何も覚えていない、分かっていないこと。

 ひどく傷ついているらしいこと。

 そして――やっと、立ち直り始めたところであること。


 ロウは、泣き出したい気持ちでいっぱいになった。

 瑠璃がおれのことまで忘れてしまったなんて。

 側にいるのに、気づいてもらうことすらできないなんて!


 どうしたらいいのか。

 そんな事、分かりようもない。

 それでも。


 思い出してほしいこと。

 気づいてほしいこと。

 今も、ずっと好きでいること。


 その一つ一つを、美しい旋律にのせて。

 ロウは、歌い始めた。


 いつかまた、出会えるようにと、祈りを込めて。






 ---






「……広すぎぃ……」


 瑠璃は、耕していた。

 文明の利器などない中、拾い集めたものでこしらえた原始的な鍬で、この荒廃した土地を、ただ一人黙々と。


 暗く荒れ果てた土地で何をするか。

 考えてみたところで、選択肢はそう多くはない。

 何もできずに呆然と過ごすか、望みなどみえずとも、がむしゃらに何かを試し続けるか。


 それならば。

 再び、花を、木々を、この地に取り戻したい。

 そのために、土を起こす。肥料となりそうなものを探す。


 痛みや疲れで、始めの内は遅々として進まなかったが――。

 まるで業を煮やしたかのように、瑠璃のランプが火を噴きだして追いかけまわしてきたものだから、存外早く仕事が進んだ。


 そうして忙しなく過ごしている内に、日々は過ぎてゆく。

 気づけば、千日過ぎていた。


「土が死んでる……」


 それだけ時間をかけただけのことはあり、広大な土地の、そのほとんどを耕し終えていた。


 しかし、いくら耕したところで、あるのは乾涸びた砂ばかり。

 少なくとも、どこかから水を引いてこないことには始まらないだろう。


 そこでようやく思い至る。

 もう、千日過ぎているのだから、外に出られるのだと。


 思い立ったら行動は早かった。

 出たいとキリに声をかけると、すんなりと囲いの一部を開いてくれた。


 一歩、足を踏み出した。

 根っこの壁の外へ。


 何も覚えていないはずなのに、わずかに既視感があった。

 予感、と呼べるものもあったかもしれない。


 大きな恐れと、少しの期待とを抱えながら。

 囲いの外の林を進んでいく。


 すると、光のあまり差さない、水の溜まった場所に出た。

 覚悟を決めて、覗き込む。そこで見たものは、かつての。


 水面に映った、自分の死に様。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。