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三国志  作者: 大田牛二
第二章 群雄割拠

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似ているようで似ていない願い

投稿できた

 192年


 董卓とうたく牛輔ぎゅうほを派遣し、兵を率いて陝に駐屯させた。


 牛輔は校尉・李傕りかく、張掖の人・郭汜かくし、武威の人・張済ちょうせいに歩騎数万を指揮させ、分派して中牟にいる朱儁しゅしゅんを撃たせた。


 朱儁は奇策を弄する将ではないため、力と力のぶつかり合いである真正面からの戦いになった。しかしながら兵の強さだけで言うのであれば、涼州の兵で構成されている董卓軍の前に朱儁は破れた。


 李傕らはその機に陳留・潁川の諸県を侵し、通った場所でことごとく殺虜(殺すか捕えること)して一人も残さなかった。


 潁川が攻略されている中、その地にいた荀彧じゅんいくが父老に言った。


「潁川は四戦の地です(潁川は平地なので四面から攻撃を受ける土地だという意味)。速やかに避難するべきです」


 しかし郷里の人は多くが郷土を懐かしんで去ることができなかった。そのため荀彧は宗族だけを率いて韓馥かんぷくを頼りに行った。


 韓馥を頼ったのは彼が軍事に関しては三流であったが、内政手腕は中々にあり、冀州の地はこの乱世の中で裕福であったためであったことと、弟の荀諶じゅんしんがいるということもあった。


 しかし荀彧が冀州に入った時、既に袁紹えんしょうが韓馥の位を奪っていた。袁紹は荀諶の兄であり、かつて何顒かぎょうに王佐の才と称された荀彧のことを知っていたため、袁紹は彼を上賓の礼で待遇した。


 袁紹は名族意識の強い男であるが、こういう風に相手を尊重することはできる。


 しかし荀彧は袁紹の冀州の取り方が好きになれなかった。


 そのようなやり方をとっては大業を成し遂げることはできないと思ったのである。


「ふむ……」


 袁紹以外の者に向かうとなると誰の元に行くのか。


「何顒殿は曹操そうそう殿を評価していたな」


 かつて何顒は曹操を見た時、こう称した。


「漢王朝はまさに滅びようとしている。天下を安んじるのは必ずやこの人であろう」


 荀彧は自分を評価してくれた人である何顒がそこまでの評価を与えた曹操に興味を覚え、荀彧は曹操の元に向かった。


 曹操は荀彧が来たと聞くや否や自ら彼をもてなし、話をした。そして、荀彧の才能の凄まじさに驚嘆し、


「彼は私の子房となる人だ」


 と言って荀彧を奮武司馬に任命した。


 子房とは高祖・劉邦に仕えた張良の字である。


(この人は高祖になりたいのか)


 荀彧は曹操と話してみて、その才覚が常人のものでは無いと思い、高い評価をもった。しかしその言葉を聞いて、複雑な思いをもった。


 曹操が劉邦になりたいということは後漢王朝を滅ぼし、新たな王朝を立てたいということになる。


 荀彧は後漢王朝をまだ見捨ててはいない。袁紹が明らかに後漢王朝を蔑ろにしようとしているところがあったことも袁紹から離れた理由でもある。


『あなたは優しすぎる』


 かつて荀攸じゅんゆうに言われた言葉を思い出す。


『あなたは目の前の死に逝く者に哀れみを覚え、一緒に死ぬことを優しさだと思っている』


 荀攸は自分にそう言い放って最後にこう言った。


『王佐の才と讃えられた張良は優しさの化身ではなく、復讐の鬼であったことを忘れてはいけません。あの者の冷酷さを高祖は愛し、尊重したからことを忘れてはなりません。王佐の才とは冷酷な者の代名詞であったことを忘れてはなりません』


 荀彧はその言葉の真意を未だにわからない。だが、


(恐らく、彼は漢王朝への思いを切り捨てろということなのかもしれない)


 荀攸は確実に漢王朝が滅びることになると思っている。そのことが彼と自分の違いだろう。


(そう簡単に漢王朝を捨てることが正しいことなのか?)


 しかしながら荀彧はどうしてもそう思ってしまう。


(周王朝は統一王朝としての力を持てなくなっても長く続いたではないか)


 そう今は春秋戦国の世のような時代なのである。周王朝のように斉の桓公や晋の文公の支えの元で長生きすることもできるのではないか。


(曹操殿はそれを成し遂げることのできる才覚がある)


 ならば、それを支えそのように誘導することが自分のやるべきことではないか?


「曹操殿の元で、王朝を守る」


 荀彧は曹操の元にいることにした。








 それを見ている二つの影があった。


「王朝に緩やかな死を望んだ男がいた。その男の孫はその願いを託された」


 その影の一つである黄色い服の男が呟く。


「一方、王朝をかつての古代王朝のように延命させようとしている男……」


 その言葉を聞いてもう一つの影が笑う。


「ふふふ、あははは、面白いですねぇ。その似ているようで似ていない願いがすれ違うことになるとは、ああ、面白いですねぇ」


 影は三日月型に笑みを浮かべる。


「ああ、楽しみだあ、そうでございましょう。黄石公様?」


 黄色い服の男はその影を見つつも答えようとしない。


「私はあなたに憧れて、降りてきたのです。ですので、どうか今後ともこの于吉うきつめをお見知りおきを」


 影はそう言って、何処かへと消えていった。


「于吉か……」


 黄色い服の男は小さく呟く。


「あれはどこまで関わることになるのか……」


 彼もまた、何処かへと消えていった。



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