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三国志  作者: 大田牛二
第一章 数多の戦旗

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蓋勳

 黄巾の乱での中原が混乱している中、北地の先零羌と枹罕、河関の群盗である宋建そうけん王国おうこくが反乱を起こした。


 彼らは共に湟中の義従胡・北宮伯玉ほくきゅうはくぎょく李文侯りぶんこうを将軍に立て、護羌校尉・泠徵を殺害した。


「一体どういうつもりだ」


 酒を飲みながら男はそう言った。彼の周りには彼に向けて矛を構えている男たちが彼を囲んでいる。


「どうもこうもない。我らに従ってもらいたいのだ」


「ふん」


 男は酒を一気に飲んだ。男の名は韓遂かんすい、字は文約という男である。その男の前にいる男は辺章へんしょうという。彼らはかねてから西州で名が知られていた人物である。


 韓遂は計吏として洛陽に出向いた際、何進かしんに会った際、目をかけられたこともある。


「もはや王朝に力は無い。北宮伯玉らと共に立ち上がろうではないか」


 辺章はそのように言った。韓遂は悩んだ。


(ここで断れば、私は死ぬだろう……しかしながら反乱を起こしてどうなるというのか……)


 だが、目の前の男はそこまで質の良い男ではなく、その上の北宮伯玉らもたかが知れている。


(ならば私が手綱を引いた方が良いのではないか)


「よし、わかった。協力しよう」


「うむ、そうでなくてはな」


 二人は軍帥として北宮伯玉らの軍政を専任することにした。


「事は素早く進めていこう」


 韓遂はそう言って、すぐさま金城太守・陳懿ちんいを殺し、州郡を攻めて焼いた。


 その後、彼らは冀にいる涼州刺史・左昌さしょうを包囲した。左昌は民衆に嫌われているため、彼を助ける者はいないと思われていたが、援軍がやってきた。


「厄介なのが来た」


 辺章は韓遂に言った。来たのは蓋勳がいくんという男である。









 かつて武威太守が権貴にたよって貪暴を恣にしていた。


 涼州従事・蘇正和そせいわがその罪を調査して検挙しようとしたが、涼州刺史・梁鵠りょうこくが権貴を懼れ、逆に蘇正和を殺して負(負担、責任)から免れようとした。


 梁鵠はまず漢陽長史・蓋勳を訪ねて意見を求めた。


 蓋勳は以前から蘇正和と仇があったため、ある人が蓋勳に対してこの機に報復するように勧めた。


 しかし蓋勳はこう言った。


「刺史が事を謀った機会に良人を殺すのは忠ではない。人の危険に乗じるのは仁ではない」


 蓋勳は梁鵠を諫めた。


「鷹隼を繋いで飼うのは獲物を取ることを欲するためです。鷹隼が獲物を取ったのに煮殺してしまっては、今後、何を用いるのでしょうか?」


 梁鵠は考えを改めた。


 蘇正和が蓋勳を訪ねて謝辞を述べようとした。


 しかし蓋勳は蘇正和に会わず、


「私は梁使君(刺史)のために謀ったのだ。蘇正和のためではない」


 と言い、以前のように怨みを抱いて対立した。


 後任の涼州刺史・左昌が軍穀数万を盗んだ時、蓋勳は諫言した。


 左昌は逆に怒って蓋勳と従事・辛曾しんそう孔常こうじょうを派遣し、賊(辺境の少数民族や叛乱した民衆)を防ぐために別れて阿陽に駐屯させた。軍事を利用して罪に陥れるつもりである。しかしながら蓋勳には戦の才能があり、しばしば戦功を立てた。


 北宮伯玉が金城を攻めた時、蓋勳が左昌に進言して金城を救援するように勧めたが、左昌は従わなかった。


 その結果、金城太守・陳懿が死に、辺章らが進軍して冀で左昌を包囲すると、左昌は蓋勳らを招いて自分を助けさせようとま。しかし辛曾らは躊躇して赴こうとしなかった。


「この事態を作ったのはやつだ」


 そう言う思いがあったためである。しかしながら蓋勳が怒って言った。


「昔、荘賈が時間に遅れたので、司馬穰苴が剣を奮った。古の監軍でも期限に遅れれば、斬られたのだから、今の従事ならなおさらではないか」


 辛曾らは懼れて蓋勳に従い、軍を動かした。


 蓋勳は冀に着くと背叛の罪によって辺章らを譴責の書簡を出した。


「どうする?」


 辺章は韓遂に問うた。


「戦うのは止めた方が良い。あの人ほどここらで信望のある人はいない。そんな人で戦えば、ここらの者は我らを見捨てるだろう」


 韓遂はそう言って、蓋勳へこう伝えた。


「左使君がもし早く君の言に従い、兵を用いて我々に臨んでいれば、自ら改められたかもしれない。しかし今は罪が既に重くなったので、降ることはできない」


 と言い、包囲を解いて去った。


 叛羌が畜官(畜牧場)で校尉・夏育かいくを包囲していた。


 そのため蓋勳と州郡が兵を合わせて夏育を救い、狐槃に到ったが、羌に敗れた。


 蓋勳の余衆は百人にも及ばず、その身にも三カ所の傷を負った。蓋勳は久しく坐ったまま動かず、木表(木の標札)を指さして、


「私の屍をここに収めよ」


 と言った。


 句就種羌(羌の句就種族)の滇吾が武器を持って衆兵を制止し、こう述べた。


「蓋長史は賢人である。汝らがこれを殺せば、天に背くことになる」


 すると蓋勳は仰ぎ見て、


「汝に何が分かるか。速く私を殺しに来い」


 と罵った。


 羌人達は驚いて互いに顔を見合わせた。


 滇吾が馬を下りて蓋勳に与えようとしたが、蓋勳は乗ろうとせず、最後は羌人に捕えられた。


 しかし羌人はその義勇に心服したため、敢えて害を加えず、漢陽に送り還した。


 後に涼州刺史・楊雍が上書して蓋勳を推薦し、漢陽太守を兼任させることにした。








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