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三国志  作者: 大田牛二
第一章 数多の戦旗

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風雲前夜

 182年


 霊帝れいていが公卿に詔を発し、謠言(政治を批判する歌謡)を根拠に、刺史・二千石で民の蠹害(危害)になっている者を検挙させた。


 しかし太尉・許彧きょいくや司空・張済ちょうさいは宦官に迎合して賄賂を受け取っていたため、宦官の子弟や賓客が貪汚・穢濁(汚濁。素行が悪くて法を守らないこと)であっても全く罪を問えなかった。


 逆に辺遠の小郡にいる清修で恵化(優れた実績と教化)がある者二十六人を偽って糾弾した。


 ところがこれに吏民が宮闕を訪ねて陳情した。


 司徒・陳耽ちんきが上書した。


「公卿が挙げたのは、およそ私党を庇う行為です。これは鴟梟(ふくろう。悪鳥)を放って鸞鳳を囚禁するようなものです」


 霊帝は許彧と張済を譴責し、謠言に坐して召還された者を全て議郎に任命した。


 当時、板楯蛮が巴郡で叛乱を起こしていた。


 朝廷は連年討伐したが、打ち破ることができなかった。


 そこで霊帝は大いに兵を徴発しようと欲し、益州計吏・程包ていほうに意見を求めた。


 程包が答えた。


「板楯の七姓(板楯七姓は羅、朴、督、鄂、度、夕、龔を指す)は秦の世から功を立てましたので、その租賦を免除されました。その板楯蛮の人々は勇猛で戦を善くします。昔、元初中に羌が漢川に入って郡県が破壊されましたが、板楯の救援を得たため、羌がほぼ全滅しました。その後、羌人が板楯蛮を神兵と号して種輩(同族の者)に伝え語ったため、再び南行することがなくなったのです。建和二年に至って羌がまた退去して侵入しましたが、実に板楯のおかげで連勝してこれを破ることができました。前車騎将軍・馮緄ふうこんが武陵を南征した時も、板楯に頼ってその功を成しました。最近では益州郡で乱がありましたが、太守・李顒も板楯によってこれを討ち、平定しました。板楯蛮の忠功はこのようであり、本来、悪心はありません」


 板楯蛮は今まで王朝と共に戦ってきた。


「ところが、長吏郷亭(地方政府)が更賦(「更賦」は兵役の代わりに納める税であるがここでは賦税全般を指す)を極めて重くし、労役・虐待が奴虜よりもひどく、彼らは生活が困難なため妻を別の男に嫁がせて子を売る者もおり、あるいは自ら頸を切る者までいましたが、州郡に冤罪を陳情しても牧守は彼らのために道理を通そうとせず、朝廷は悠遠で、自ら報告することもできず、怨みを抱いて天に叫ぶだけで訴える場所がありませんでした。だからこそ邑落が互いに集まって背反を為したのです。謀主がいて号を僭称し、叛逆を図っているのではありません。今はただ明能(賢明で能力があること)な牧守を選ぶだけで自然に安定することでしょう。征伐の必要はありません」


 霊帝はこの言葉に従って曹謙そうけんを太守に任命し、詔を宣布して巴郡の板楯蛮を赦した。


 板楯蛮は皆すぐに曹謙を訪ねて投降した。













「ありゃここにもいないや」


 大きな桑の木の下で丸い童顔の男がそう呟く。


「どこにいったのかなあ玄徳の旦那」


 彼の名は簡雍かんよう、字は憲和である。


「あ、憲和さん」


 そこに数人の男と仲間の田豫でんよたちがやってきた。


「玄徳さんが頼みがあるって」


「頼み?」


 簡雍は首を傾げながら田豫らの話しを聞いた。









「そこのお二人方、助けてくれませんか?」


 体を左右に揺らせながら男は長い髭の男と虎髭の男にそう言った。


 二人が声のする方を向くと男が右足を縄に取られて吊り下げられていた。


 その男は奇っ怪な風貌の持ち主であった。耳は振り返ると見えるほどに大きく。両腕は膝に届くようであった。そんな奇っ怪な風貌以上に何の感情の無い漆黒の瞳が長い髭の男は印象的であった。


「何をされている?」


 長い髭の男がそう問いかける。


「それよりも早く降ろしてもらえると嬉しいのですが」


 男は左右に揺れながらそういう。


「どうするよ?」


「まあ、降ろしてやろう」


 長い髭の男と虎髭の男は困惑しながらも男を降ろした。


「このようなところに猪を捉える罠があるとは思っていませんでした」


 男は何の感情も示さない無表情のままそういい、そのまま頭を下げる。


「感謝します」


「いや、お気になさらず……」


「まあまあそう言わず、関雲長殿、張益徳殿?」


 関羽かんう張飛ちょうひは一斉に腰の剣に手をかけた。


「剛勇のお二人に凄まれては中々に怖いですね」


 無表情のまま男は首を傾げる。


「貴様、何者だ」


「私は劉玄徳だ」


 張飛は関羽に言った。


「こいつが劉備りゅうびか。てめぇ仲間をやりやがって」


「仲間……ああ太平道の方々ですか」


 劉備は表情を変えないまま思い出したように手を叩く。


「いやあ、彼らは少々村の者に手荒な真似をしましたのでね……」


 彼はそう言うと張飛は叫ぶ。


「嘘つけ、連中は仲間集めを行っていただけのはずだ。それを突然、襲いかかったんだろ」


「嘘など言っていませんよ。どうやら知らなかったようですね」


 そこに三人を取り囲むように男たちが現れた。


「旦那、ご無事ですかい?」


 簡雍がそう言って叫ぶ。


「ああ、簡雍。大丈夫だよ。田豫もありがとう」


 劉備は少しだけ笑みを浮かべて答える。


「ちっどうする関羽」


 張飛は剣を抜きながらそういう。関羽は無言のまま剣を抜く。


「どうやらあなた方のお仲間が私たちの村に襲いかかったことは知らなかったようですね。みんな、包囲を解くんだ」


「旦那、いいんですかい?」


「構わないさ」


 劉備がそういうため簡雍は包囲を解くように指示を出した。田豫も困惑しつつも包囲を解く。


「良いのか?」


 関羽が剣を収めながら、問いかける。


「いいさ、悪人ではなく、私たちの村を襲うでも無ければ、戦う必要性は無いさ」


「そうか……行くぞ張飛」


「おいおい、こんぐらいの連中なんざ」


「いいから行くぞ」


 張飛は渋々剣を収める。


「一言言っておくよ」


 劉備は去ろうとする関羽に言った。


「果たして太平道は君の思う正義があるのかな?」


 関羽はそのことになんも答えず、そのまま去っていった。


「本当にいいんですかい?」


 簡雍は劉備に近づきながらそう言った。


「構わないさ。しかし、太平道は最近、動きが活発だね……」


 しかしながらその動き方が明らかに不穏である。


「まさに風雲が来ようとしている……」


 その風雲は多くの民を巻き込むだろう。


「さの風雲の中で私は何ができるだろうかね」


 劉備はそんなことを簡雍に言った。




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