【第五章 そして勇者が現れた】
とうとう辿り着いた。私たちの目指していた、魔王城だ。決して長い道のりではなかった。仲間たちの累々の屍を超えて、場内へとやっと足を踏み入れたのだ。
最上階へとたどり着くー目の前には巨大な玉座があり、城主の魔王は堂々と待ち構えているではないか。魔王の体は何十メートルと大きく、漆黒の翼を堂々と背中に掲げていた。また、蒸気のような熱をまといながら、鋭い牙をむいて大声で笑ってみせるではないか。
勇者が私たちの前に立つ。銀に輝かせる剣を構えると、大声を発し魔王へと突撃していく。隣のシスターが補助魔法を祈り始め、私はとっさに杖を構えた。呪文を唱えると、私の足元から爆炎が空を舞い、魔王へと向かっていく。シスターの補助魔法を受け、炎を受け入れる勇者。―紅く染まった剣を大きく振りかざす。だが、奴は、魔王は、大きな翼をばたり仰ぐと、真っ黒な靄を発して、私達パーティーの魔術や勇者を遠くまで弾き返した。
技を受け、私達は空中へと投げ飛ばされる。壁に背を撃たれ、骨が折れる音―意識が一瞬薄れ、戻るころには、口から血を吐き、地面へと膝をついていた。
一瞬で分かった。今までの魔物とは違う、圧倒的な強さを。
死を目前とした時、私の脳裏には奴によって滅ぼされた我が村や、絶命していった仲間たちの姿が思い浮かび始めていたーここで死ぬわけにはいかないのだーそのはずなのだが、私の手の震えは収まらず、がくがくと全身がうなり始めていた。手から滑り落ちた杖は、この場に似使わぬほどの小さな音をたて、転がっていく。
魔王が咆哮する。
勇者はあきらめずに剣を握り立ち上がった。
シスターが彼に向かって声を上げる。私は…賢者の私は…恐怖のあまり、目を伏せていた…
勇者の最後だけでも私は見届けなくてはならないーそう思い、顔を上げる…瞬時、目の前に白い雷が落下した。私はあまりの眩しさに目をくらませ、腕で顔を覆う。
世界が白から黒に戻ると…
「ここが異世界か…」
仲間の声色ではない言葉が聞こえた。視線を動かすと、目の前には見知らぬパーティーが揃っている。
「君たち!危ない、下がれ!」
混乱の一言に尽きるが、勇者が声を荒げ彼らの安全を心配した。が、内の若い男は気にも留めず、片手を空に捧げー…私たちには見えない何かを撫でるかのように腕を振ってみせたのだ。
「これがレベル99のスキル…」
また何かを呟いた。私たちの思考は追いついていない。魔王ですら、唖然とその様子を見ていたかのように思う。
再び、魔王が咆哮する。その口から、闇をまとった霧が飛び込んでくる。
今度こそ、ここまで。
しかし、その絶望は彼らパーティーにて一瞬にして砕かれた。
若い男が手を上げるーそこから雷が発生し、一気に霧をかき消した。パーティーの一人、オオカミのような男は自分の額を撫でると、気が付かぬ間に姿が変わっている、魔王そのものに。
同じように咆哮すると、魔王へと闇の霧がむかっていく。魔王は翼をひるがえす、その間に、緑のローブを羽織った男が、何かを操作するかのように空をまさぐると、彼はなにか太い猟銃に近いのものを手にして構えていた。その銃口からは我が国の技術では見たこともないようなサイズの弾が飛んで行った。翼に受けた魔王が吠えて苦痛を訴える。また、その魔王のうえに小さな少女がいた。彼女が一声呪文のようなものを唱えると、先ほどまで全くと言って聞いていなかった炎が彼を一瞬で包み込む。連投する彼らの技、派手な攻め…私たちパーティーはその異空間から取り残されていたかのようだった。
ゴゴゴ…まるで唸るようなその音、続いて爆撃音。そして一瞬の静けさ…
時間にして五分ほどしか経っていない。
魔王が、倒れていた。そして、あの見知らぬパーティーは全員生き残り、しかも無傷で、そこに立っていた。
全てを理解するのに時間はかかった。だが、勝利した、というのは、すぐに理解した。若い男が振り返る。そして、私たちにこう宣言した。
「俺たちは転生者だ」
転生者―初めて聞いた言葉であった。だが、彼らが魔王を討伐したのだ。
急に現れた謎のパーティー転生者たちは、このウィンランドという国を救ったのだ…!




