【SM-14 ヴィギル】
【ヴィギルってなに?】
宇宙船がたくさん飛んでいる宇宙には、「道」があります。
もちろん、宇宙に道路が浮かんでいるわけではありません。
宇宙港から出発した船が安全に通るための航路を決め、ほかの宇宙船やデブリとぶつからないように管理しているのです。
その航路を巡回しながら、宇宙船やデブリを見張っているのが、SM-14《VIGIL/ヴィギル》です。
メリディアン軌道工業が作った、航路監視・支援宇宙機です。
【ヴィギルのスペック】
正式名称:SM-14 ヴィギル
分類:航路監視・支援宇宙機
開発・製造:メリディアン軌道工業
全長:約11m
通常質量:約24t
乗員:1~2名
主推進器:固定式反動推進器
主推進器推力:約96kN
姿勢制御器総推力:約15kN
最大MMR作動率:約40%
MMR非作動時最大加速度:約0.41G
MMR最大作動時加速度:約0.68G
通常牽引力:約50~60kN
短時間最大牽引力:約80~90kN
主な装備:航路監視センサー、光学観測装置、レーダー、通信装置、デブリ観測装置、牽引索、船舶識別装置
主な仕事:航路の巡回、宇宙船の監視、デブリの発見、航路管制への情報送信、故障船の追跡、事故時の牽引支援
【クアドリガじゃないの?】
ちがいます。
ヴィギルは、クアドリガではありません。
四本の推進脚もありません。
機体中央に細長い胴体があり、後方へ向いた主推進器と、機体の向きを変えるための姿勢制御器を使って飛びます。
昔から使われている、とても普通の宇宙機の形です。
【古い形なのに、まだ使うの?】
もちろんです!
航路を監視する仕事のほとんどは、何時間も飛びながら宇宙船を見て、デブリを探し、航路から外れた船がいないか調べることです。
毎日、巨大な構造物を持ち上げるわけではありません。
宇宙船の外板を切ることも、ほとんどありません。
事故船へ直接取りついて、人を助けることもありません。
だったら、そのための大きな装置を積まなくてもよいのです。
ヴィギルは、航路を見張るために必要なものだけを積んだ宇宙機です。
【ここがすごい!】
ヴィギルのすごいところは、少ない推進剤で、たくさんの場所を見回れることです。
航路監視機は、一度の仕事の中で、何度も速度や進路を変えます。
監視対象へ近づく。
速度を合わせる。
少し離れる。
別の航路へ移る。
デブリを避ける。
こうした小さな加速と減速を何度も行うと、そのたびに推進剤を使います。
そこで大切になるのが――
燃費です。
【宇宙船にも燃費があるの?】
あります!
宇宙には空気抵抗がほとんどありません。
ですから、一度加速した宇宙船は、そのまま進み続けます。
けれどもヴィギルは、ただ真っすぐ飛んでいるだけでは仕事になりません。
いろいろな場所へ移動し、さまざまな船へ近づきながら監視するため、何度も速度を変える必要があります。
だからこそ、少ない推進剤で何度も速度を変えられることが、とても大切なのです。
【そこでMMR!】
ヴィギルには、MMR――マスリデューサーが搭載されています。
でも、ヴィギルはとても速く飛ぶためにMMRを使っているわけではありません。
主な目的は、推進剤を節約することです。
【火星工学メモ①】
ヴィギルの通常質量を24tとします。
MMRを使わず、96kNの主推進器を使うと、
96,000N ÷ 24,000kg
= 4m/s²。
つまり、約0.41Gです。
でも、航路監視では、いつも最大出力で飛ぶ必要はありません。
必要なのは、少ない推進剤で、必要なだけ速度を変えることです。
【軽くすると、燃料が減る!】
MMRで機体の実効慣性を小さくすると、同じ推進器でも、少ない噴射で大きく速度を変えられます。
つまり、必要な速度変更をするために使う推進剤を減らせるのです。
ヴィギルでは、通常の巡回中に20~30%程度のMMRを使うことがあります。
最大まで軽くする必要はありません。
燃費がよくなるところまで使えば、それでよいのです。
【MMRは速く飛ぶためだけじゃない!】
救難機のサルースは、事故現場へ急いで向かうためにもMMRを使います。
でもヴィギルでは、同じ装置を、長く働くために使います。
同じ技術でも、使い方は機体によってちがうのです。
【大きな船を引っぱれるの?】
ヴィギルには、牽引索があります。
故障した小型船を移動させたり、動けなくなった宇宙船の姿勢を少し直したりするときに使います。
でも、ヴィギルは曳船ではありません。
巨大貨物船を一機で引っぱって運ぶような力はありません。
【それでも、できることはある!】
宇宙では、大きな船を動かすために、いつも大きな力が必要とは限りません。
たとえば、ゆっくり回転している船へ、回転する向きと反対へ少しずつ力を加え続ければ、一度ではほとんど変わらなくても、何度もくり返すことで回転を小さくできます。
ヴィギルの牽引装置は、こうした「少しだけ助ける仕事」にも使えるのです。
【火星工学メモ②】
大きな船を引っぱるとき、MMRはたくさん使えばよいのでしょうか?
いいえ。
場合によっては、反対です。
MMRでヴィギル自身の慣性を小さくすると、牽引索から横方向へ力を受けたとき、ヴィギルのほうが大きく動かされてしまいます。
とても大きな船を相手にするときは、相手が少し動くより先に、自分が振り回されてしまうかもしれません。
そのため、強い牽引をするときには、MMRの作動率を下げたり、場合によっては停止したりします。
【軽いほうが、いつでも便利じゃない!】
MMRを使えば、少ない推進剤で機体を動かせます。
これは、とても便利です。
でも、ほかの物から力を受ける仕事では、機体が動きやすくなることが困る場合もあります。
だから、巡回中はMMRを使う。
牽引中はMMRを弱める。
ヴィギルは、仕事に合わせて使い分けています。
【どうしてクアドリガにしないの?】
クアドリガなら、四本の推進脚を別々《べつべつ》の方向へ向けられます。
細かい位置合わせも得意です。
では、航路監視機も全部クアドリガにすればよいのでしょうか?
いいえ。
ヴィギルの仕事では、ほとんどの時間、決められた航路を巡回しています。
だったら、複雑な四本の推進脚を持たなくても、固定式の主推進器と姿勢制御器で十分です。
部品が少なければ、機体も安くできます。
整備も簡単になります。
故障する場所も減ります。
航路監視機では、これも大切な性能です。
【ヴィギルは古いの?】
SM-14 ヴィギルは、新しい宇宙機ではありません。
でも、古いから使われているわけでもありません。
必要な仕事を、必要な費用で、長い時間続けられるから使われています。
もっと新しい監視機もあります。
もっと高性能なクアドリガもあります。
それでも、今日も宇宙港の外では、ヴィギルが航路を見張っています。
【もし事故が起きたら?】
ヴィギルは、救難機ではありません。
人を収容する設備も、事故船の外板を切り開く大きな工具もありません。
だから、本格的な救助はサルースのような救難機へ任せます。
でも、救難機が来るまで、何もできないわけではありません。
事故船を観測する。
位置や動きを管制へ送る。
周囲のデブリを監視する。
ほかの船を事故現場から遠ざける。
必要なら、牽引索を使って、ほんの少しだけ手伝う。
ヴィギルは、人を助けるために作られた機体ではありません。
それでも、目の前で事故が起きたとき、自分にできることはあります。
【くらべてみよう!】
サルース
→事故現場へ飛び込み、人を直接助ける救難機。
ファーベル
→宇宙施設を作り、直し、荷物を運ぶ作業機。
ヴィギル
→宇宙の航路を見張り、異常を最初に見つける監視機。
できることは、それぞれちがいます。
でも、宇宙で安全に暮らすためには、どれも必要です。
ヴィギルは、速さを競う機体ではありません。
大きな物を持ち上げる機体でもありません。
誰かが困ったとき、最初から最後まで、ずっと近くで見ている。
それが、SM-14《VIGIL/ヴィギル》の仕事なのです。




