プロローグ
――ゴーン、ゴーン、ゴーン……。
重々しい余韻を残して、鐘が鳴る。
その音と木霊するように、頭がぐわんぐわんと揺れた。
熱い風が頬を掠める。
国を覆い尽くす炎。剣がぶつかり合う音と、誰かの叫び声。
先程まで星が輝いていた夜空は、煙で包まれている。昨日まであんなに賑わっていた街は、もうどこにもなかった。
霞む視界、揺れる炎の向こう。
石畳の上に、一人の人影が倒れている。
あれは――僕の大切な友達だ。
「……っ」
名前を呼ぼうと口を開く。
けれど、喉が焼けるように痛くて、声にならない。吸い込んだ煙が苦しくて、咳き込む。
縋るように手を伸ばしても、その手が彼に届くことは無かった。
――違う。
きっと違う。彼は、少し休んでいるだけなんだ。
怪我をしただけ。そうだ、きっとそう。
あんなに強い彼が、負けるなんて、そんなことがあるはず…。
――行かなきゃ。
手にしていた杖を強く握りしめて、足に力を入れる。立ち上がろうとして、ふらついた。
瓦礫に足を取られる。それでも、一歩。また一歩。ゆっくりと歩を進める。
一秒でも早く。一歩でも近く。彼の元へ。
そこに辿り着くまでに、どれだけの時間がかかっただろう。やけに長く、遠く感じた。
崩れ落ちるように膝をついて、震える手で彼の頬へ触れる。
……冷たい。
なにを間違えた? なにが駄目だった? どうしてこうなってしまった?
……分からない。今の僕には、なにも…。
彼の頬に流れる赤い雫が、静かに石畳を濡らしていく。一滴、また一滴と。
彼の身体を支え、抱き寄せる。僕の熱を冷ますように、彼の身体は冷たいまま。
彼はもう動かない。
もう話してくれない。
もう、僕のそばにはいてくれない。
目の奥が焼けるように熱い。鼻がツーンとして、痛い。
「…っ……!」
ただ縋るように、彼を抱きしめた。ぼろぼろと溢れてくる涙が頬を伝う。
――嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!
戻りたい。あの頃に。
皆が幸せに暮らしていた、綺麗な青空が広がっていた、あの頃の王国に。
「…戻り、たいっ……!」
杖を強く握りしめる。すぐ近くで、また鐘の音が鳴った。
――ゴーン。
風が吹く。
――ゴーン。
世界が揺れる。
――ゴーン。
もう一度、あの頃に。
景色が、水面のようにゆらりと歪む。
目の前が、次第に暗くなっていく。
最後に見あげた空。
月は、その姿を隠していた。
《これは、とある王国のお話》




