表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイツがある日、突然嫁を連れて帰ってきた  作者: 川平直
家族に会いに行く▢

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/19

第18話

 翌日俊介からこっちに着くという連絡を受けてから二十分。


 時刻がそろそろ夕方、と言ってもいい頃合いになった頃、外から車の気配がする。


 おっ来たかな? と思っていると玄関のとがガラリと開く音がした、インターフォンなんてものは無いのが田舎のデフォルトだ。


 玄関には俊介と、そのお嫁さんであろう女性が一人。


 最初に危惧していたようなギャルっぽいギラギラした感じでは無く、至って真面目そうな好青年っぽい印象の子だ。


「お帰り。それからいらっしゃい」


 お帰りは俊介に向けて、いらっしゃいは少し緊張した様子のお嫁さんに向けてだ。


 そうするとお嫁さんはすぐ「お邪魔します」と会釈を返してきた。


 その横で俊介が目だけで辺りを窺う。


 まるで誰かを探すような素振り。誰を探しているのかは、聞くまでもない。


「父さんなら、さっき散歩って言って出てったきり帰ってきてない。俊介が帰ってくるってことは一応伝えておいたんだけど」


 伝えると俊介「そう」とさして興味もなさそうに一言。その反応はいつぞやの父に似ていて、友恵は思わず苦笑いを浮かべた。


 指摘したところで絶対に認めようとしないが、俊介も俊介で妙なところで頑固な所があり、そしてそれは完全に父親譲りの性格であると友恵は睨んでいる。


 結局、似たもの同士だから反発しあって上手く折り合いが付けられないのだろうな、と友恵はそう思った。


 挨拶もそこそこに、さっさと二人を家に上げて居間へと案内する。


 俊介は居間に入るなりまっすぐに仏壇へと向かい、静かに線香を上げて鈴をならし手を合わせた。


 俊介がこっちに帰ってくるのは母の葬式以来で、こうして手を合わせるのもそれ以来と言うことになる。


「……あの」


 窺うような声が聞こえて、そちらを見てみれば俊介の連れてきた例のあの娘だ。


「私も御線香上げさせていただいても、よろしいですか?」


 声は緊張していたが、お参りをしてもいいかをわざわざ友恵に確認してくる辺り、彼女の生真面目な性格が窺える。


「そうしてあげて、多分母さんも喜ぶかから」


 そう言うと彼女は「ありがとうございます」と頭を下げ、お参りを終えた俊介と入れ替わりで仏壇の前に座った。


 線香を上げて鈴をならし、背筋が伸びた綺麗な姿勢で手を合わせる。


 母に一体何を話していたのかたっぷり一分ほどそうしていたかと思うと、お参りを終えるなり今度は友恵の前で正座で座り、ご丁寧に三つ指を着いて頭を下げた。


「ご挨拶が遅くなりましたが、私、久野空真奈美と言います。この度は俊介さんと入籍することになりましたので、その御挨拶にうかが――」


 真奈美が挨拶をしている途中で、俊介が堪えかねたように吹き出した。


 苦しそうに忍び笑う俊介に、真奈実が不満そうな視線を向ける。


「何でここで笑うのよ」


「だってカッタいんだもん。高級旅館の女将か何かみたい」


「だ、だって失礼があっちゃいけないから」


「にしたってそれはやり過ぎだって。ムリして猫被んなくてもいいよ、普通にしてればいいんだよ、普通にしてれば」


「猫! 言うに事欠いて猫って何よ、猫って!」


「ゴメン、冗談だよ」


「だったら、まず笑うのをヤメロ!」


 本格的にツボにハマってしまったのか、俊介はいよいよ腹を押さえて笑いだし、そんな俊介を目を怒らせて文句を言う真奈美。


 そんな様子が微笑ましいやら、可愛らしいやらで、失礼なのは分かっていたが友恵も思わず俊介に釣られて笑い出してしまった。


 真奈美としては、旦那の姉に怒鳴る訳にもいかないらしく、笑う俊介と友恵を交互にみておろおろしている。


 ちょっと可哀想かなとも思ったが、その様子がまたなんだか可愛らしい。


「ごめんね、なんだか可笑しくなっちゃって。でも俊介の言うとおり、そんなに堅くなんなくたって大丈夫よ」


 いい娘だなぁ。自然とそう思えた。


 真面目が行き過ぎて若干、空回っている節はあるが、そこは彼女のチャームポイントなのだろう。


 我が弟ながら、女を見る目は悪くなかったらしい。


 それに比べて……。


「異性を見る目って言うのは、姉弟で似ないもんなのかしらねぇ」


 なんのきなし独りごちると、それを聞いた真奈美が少し気まずそうな顔をした、しまったと思ったがもう遅い。


「あーごめん。気にしないで、ただの独り言だから」


「……はい」


 真奈美は笑顔でそう言ってくれたが、その笑みはやはり僅かに堅い。


 友恵に対して、真奈実がそう言ったリアクションをしてしまうのは、しょうがないことだろう。 


 なんせ友恵は夫と離婚してからまだ、一年程しか経っていない身の上なのだ。


 こっちで働き始めてから知り合った相手、交際期間が二年、結婚してから三年で計五年の付き合いだった。


 離婚の切っ掛けは旦那の浮気というなんのひねりも面白みもない理由で、幸いと言うべきかどうかは分からないが二人の間に子供はおらず。離婚協定はコレと言って問題なく進んだ。


 元旦那に正直、未練はない。


 離婚する半年前には友恵は実家に戻って別居状態だったし、慰謝料だって取れるだけふんだくってやったからこっちとしては何の不満もない。それにあっちも離婚してすぐに浮気相手の女とくっ付いたらしいと風のうわさで聞いた。


 だからもう、コレは友恵にとっては終わった出来事だった。


 それだけに、この問題で彼女に気を遣わせてしまうのは何だか申し訳なかった。


「……あたしのことについては、別に気にしなくていいよ。て言っても、難しいかもだけど」


 気にするなと言われても、これから結婚しようという人からしたらこれ以上気まずい相手もいまい。


「でもホラ、気にされたところでお互い疲れちゃうしさ」


「そうそう、姉さんの言うとおり、あんま気にしなくても良いよ」


 ようやく笑い上戸から復活した俊介が、横から口を挟む。


「だいたい姉さんも、いい加減、そういう人はいないの?」


 あんたは逆に、もう少し色々気にしろ。


 俊介の無遠慮きわまりない発言に、キッと睨み付けてやるが俊介はどこ吹く風で、気にした様子はない。


 からかっているつもりか、離婚をして以来俊介はこう言ったことを言ってくることが増えた気がする。


 ひょっとすれば、俊介なりに姉のことを心配してくれているのかもしれないが。友恵からすれば、やたらお見合いを勧めてくるお節介な親戚のおばちゃんかお前は。とツッコミを入れたい気分だ。


「おあいにく様、そういう相手は今いないわよ」


「ほんとに? 本当にそういう人いないわけ?」


 今日はやけにしつこいなと思った。


 この手の事を聞いてくることは何度かあったが、ここまで粘ってくることはあまりなかったと思う。


 しかし、幾ら言われたところで、そんな相手今はいないし、そうなりたいと思えるような相手もいない。


 ほんの一瞬、懐かしい丸い顔が、頭を過ぎった気がしたがそんなものは気のせいだ。


「なにを期待してるのか知らないけど。こういうのは、どうこうしようとして、なんとかなるもんでも無いでしょうが」


「まぁ、そうなんだけどさ、でも」


「これ以上しつこく言うなら、あんたの目鼻抜くよ」


 ギロリと睨み付けてやると、俊介はスッと友恵から視線を外して。


「あーそうだそうだ。そんなことよりも」


 分かりやすく話題を逸らしながら、俊介は紙袋を一つ差し出してきた。


「ほらこれ。こっち来る前に真奈美と選んで買ってきた」


 そう言って差し出されたのは、少し小洒落た感じのする紙袋だった。


 受け取って中身を覗いて見ると、贈り物用のラッピングがされた箱が一つ入っている、きっと焼き菓子か何かだろう。


「あと、ついでにこれも」


 言いつつ今度は豪奢な封筒を二通、俊介は荷物の中から引っ張り出した。


「結婚式の招待状、今渡しとく」


「あら、わざわざ自分で持ってきたわけ? 律儀なことね」


 いいながら、差し出された二通のうち片方だけを受け取る。


 俊介は残された一通と友恵を交互に見て、何か言いたげな表情をするが。


「気まずいんでしょうけど、父さんの分はあんたが自分で渡しな、甘えんじゃない」


「手厳しいなぁ」


 ぴしゃりとそう言ってやると、俊介は苦笑を浮かべて残った一通を引っ込めた、その時だった。


「ただいま」


 噂をすれば影とはこのことか、ガラリと扉の開く音が玄関の方から響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ