十九作
「直孝様、家康様よりお手紙が来ております。」
内山太左衛門が手紙を持って来た。
直孝は手紙を受け取り少し目を通してから
「政武を呼んでくれるか。
至急、相談したい事があると伝えよ。」
「はっ!」
太左衛門が出ていく。直孝は首をかしげて頭をかかえた。数分後、内山政武が息を切らせて駆け込んできた。
「悪いな、少々面倒な事になりそうでな。」
「家康様からお手紙が来たと聞いております。いかがされたしたか?」
「うん、九男の義直様のご婚儀を名古屋で行うから盛大な行列を率いて祝いに来いと仰せだ。
それも武具の整備も怠るなと最後に付け加えられている。」
「それは……大阪に動きが?」
「京都所司代の板倉様からも、大阪の浪人達の悪行や堀や塀の修繕の動きがあるため戦の準備をとの知らせが来ていた。家康様が駿府から出てもおかしくない理由としてはまっとうだろう。
おそらく井伊家が婚儀を祝うために正反対の名古屋に向かう事で大阪の油断を誘う事と家康様の護衛を増やす事も織り込まれているのだろう。」
「なるほど、では、戦の準備をした上で名古屋に向かうのですな。」
「ああ。しかも義直様のお祝いを乗せた荷台の下にでも武具を隠していかないとな。
護衛の者達、足軽達には申し訳ないが鎧等をつけて貰い家臣は着物で向かうとしよう。」
「確かに婚儀を祝うのに大名や家臣が武装しているのはおかしいですな。
では、至急婚儀のお祝いの品を集めさせます。」
「よろしく頼む。」
直孝が言った所に太左衛門が駆け込んできて、
「直孝様、京都所司代の板倉様より火急の知らせでございます。」
「どうした?」
「大阪城におられた織田有楽斎様が大阪城を出られたそうです。」
「親家康様派閥のあの方が大阪城を出たと言う事は豊臣は開戦派が主流になったと言う事だな。
あまり猶予はないな。
政武、急ぎ支度を整え明日にも出るぞ。
太左衛門、板倉様にこちらからも手紙を頼む。
内容は家康様からのお声掛けで義直様のご婚儀をお祝いしに行くと伝えよ。盛大な行列で義直様のご婚儀をお祝いし家康様の周囲も驚かせて見せましょうとな。」
「えっ、あ、承知しました。」
太左衛門は急いで出ていった。
「真意は……伝わったのでしょうか?」
政武が不安そうに言った。
「太左衛門にはまだ何も言っていないからわからないんじゃないか?」
「板倉様ならお察しくださるでしょう。」
「別の者に少し時間をずらして正式な物は送らせよう。
相手方もこちらの動きに目を光らせているだろうからな。」
「そうですな。準備を急いで参ります。」
政武も部屋を出ていった。
新年があけてもうすぐ4ヶ月。和睦を成立してからまだ3ヶ月と少ししか経っていない。
戦に向けて準備するのには十分な時間があったとは言えない。そんななかでなぜ開戦しようと思えたのか、直孝にはわからなかった。




