十二作
「伝令!」
忠直殿と共に戦場を眺めていただけで一日を終えた直孝の元に駆け込んで来た者がいた。
「いかがした?」
「前田利常様の軍に多数の損害。
塹壕を築きながらの進軍に対し、篠山に陣取った真田軍の火縄銃での攻撃で負傷者多数となっております。」
「利常殿にお怪我は?」
「前田様は前線には出ておられなかったのでお怪我はありません。ただ、先鋒を任されていた本多殿、山崎殿の両名の軍に損害が多かった事もありご不満がたまられておられる様子でした。」
「暴発しなければ良いな。」
忠直が言い、直孝が
「篠山を攻める戦略は決まっておるのか?」
「詳しくはわかりませんが夜陰に紛れて攻めこむ案が出されております。」
「承知。ご苦労だった。」
「はっ!それでは他の陣にもお伝えに上がりますのでこれにて失礼いたします。」
伝令が駆け去って行くのを見てから忠直が
「夜襲か。上手くいけば良いが………」
忠直の心配はより悪い方向に裏切られた。
それは作戦の実行日の12月4日の早朝に伝えられた。
「篠山に夜襲をしたら真田がいなかった?」
「はっ、おそらくこちらの塹壕を築くのを邪魔しながら、本隊は後退して火縄銃部隊を残す事で真田軍は篠山でこちらを討ち取ろうとしていると錯覚させるための作戦だったようです。」
「それで?」
「本多政重殿、山崎長徳殿が真田丸に向けて進軍。
井伊殿と松平様は八丁目口、谷町口の方にそれぞれ兵を進めて頂きたく。」
「なるほど、本多殿たちが突出させるのを防ぎ多方面から圧力をかける作戦か。」
「承知しました。全軍、進軍準備!」
直孝の号令と共に兵が移動を始めた。
「直孝殿、功を焦って飛び出すぎないようお気をつけ下さい。」
「はい!」
忠直の忠告の意味をこの時の直孝は本当の意味で理解していなかった。
走って言った直孝を見送ると忠直は伝令役の者に聞いた
「それで、これは誰の指示なんだ?」
「それは、その~………」
伝令役は言い淀んだ。
「なるほど秀忠様か。
直孝を捨て石にしたか、それとも直政殿のような活躍を期待したのか。
どちらにしても叔父上は考えが甘いな。」
「やはり戦場では家康様の方が説得力があると仰せで、どちらの指示かを明言するなと。」
「まぁ、直孝を死なせなければ良いな。
我らも出るぞ!
そちも次へ行け、ご苦労だった。」
忠直はそういい残して赤備えの若武者の後を追った。




