十一作
「殿、我らの陣は少し後ろ過ぎませんか?」
「家康様が少し離れた所から戦場を見て学べと仰られたのだ。利常殿が篠山を攻める様子や兵の動かし方など学べる事は多いと私も思う。」
直孝は篠山に陣取る真田軍に向けて塹壕を築きながら進む前田軍を後方から見ていた。
「ですが、ここからでは戦功が………」
家臣が言いかけた所でその声を遮るように
「まぁ、そういってやるな。」
直孝が振り返るとそこには松平忠直がいた。
直孝は慌てて頭を下げた。忠直は松平姓の親藩大名で秀忠の兄の秀康の長男である。
家康様の孫にあたる方でもあるため譜代大名からも敬われる存在である。
「忠直様、わざわざお越しくださりありがとうございます。」
「堅いな。おぬしも直政殿のように堅物か?
その者、先程言っておった事だが直孝を後ろに置いているのは家康様なりの後悔があるからではないかと思うのだ。家康様は直政殿を大事にされていた。
信頼のおける男であり、その働きは各方面で秀でていた。その直政殿を関ヶ原で大ケガを負わした後悔があるのだろう。家康様の苦労して来られた時からの家臣でそれこそ子のように心配する間柄だったとも聞く。
その直政殿を関ヶ原で自分のそばに居させれば今も戦場を駆けていたやもしれぬとな。
だから、直政殿の子の直孝殿に過保護なのだろう。」
「なるほど、そうでしたか。
潜上な物言い申し訳ございませんでした。」
「気にするな。私も戦功を挙げねばと急いていたのを家康様に見透かされたのだろう。
忠直殿にもご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません。」
「まぁ、これも先達の役目と思えば何て事はない。
それに前田軍はこのまま行くと苦戦する。前線にいれば損害を受けるぞ。」
「どうしてですか?」
「火縄銃が普及する前から陣を上に取った者が優位なのは変わってない。篠山に陣取る真田は歴戦の猛者だ。
前田殿でも苦戦して然るべきだろう。」
「ということは、膠着状態になりますか?」
「いや、大阪城内でも意見が食い違っているらしい。徹底抗戦する側と力を示して停戦の譲歩を引き出させる側と籠城していれば大丈夫という側のように色んな意見が出てまとまっていないらしい。
真田は力を示す側だから前田に痛手を負わせたら早々に撤退する事もありえる。
それに大阪城内には南条元忠が内通している。
機を見て大阪城内部で何かしらの動きをするだろう。
それに合わせて我らも攻めこめば無傷のまま戦功にありつけるやもしれぬぞ。」
「なるほど、こちらは大阪城の様子を見てから攻めこめば良いのですね。」
「ああ、共に戦功を上げようぞ。」
忠直殿の強い言葉には自身と確信のような者を感じた。
ただ、忠直と直孝には埋めようのない経験という名の隔たりがあった事をこの時の直孝は失念していたのであった。




