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低ポリ囚人の神グラ無双 ~特殊バグを喰らって解像度が限界突破した俺は、情報の暴力で階級社会を粉砕する~  作者: 星島新吾


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15/25

情報食い.5

「姫守……さん、ウッ……」


腕を抑える晴信。応急手当は出来ているようだが、腕を再生させるにはバスに乗るしかないだろう。逆にバスにさえ乗れれば、足の欠損だろうが腕の欠損だろうが、どういう理屈か全て修復される。


「最終便まで誰にも見つからない事を祈れ」


これから現れる敵は全て中型バグや大型バグ、それに特殊バグといった怪物たち。低ポリゴンの囚人がいていい場所ではなくなる。俺たち低ポリゴンの囚人が乗れるバスが来るのは、中ポリのバスと高ポリのバスが着た後の最終便だ。


そのバスに間に合わなければ、首輪が爆破して低ポリは全員死ぬ。

以前ワザと最終便に乗らず、脱獄を計ろうとした囚人が、爆散するのを見ていたことがあった。あんなマヌケな死に方は死んでも御免だ。


「お兄ちゃん助かるの?」


一般人の子供が聞いてくるが対応に困った。


「心配するな。静かにしていれば助かる」


俺はそう言って、子供という存在に沈黙を命じる。

何もしないのもそわそわしたので、家の中を漁ってアイスを見つけてくる。

カップのアイスでスプーンを持って食べようとすると、子供がジッと俺を見ていた。


「それ僕の」


カップのアイスを指さして子供がそう言う。


「オマエの家か」


「うん」


子供にそう言われ、俺はそっとアイスとスプーンを冷蔵庫に戻した。

それからすぐにここを出ようと準備を整える。

ココにいたらお通夜みたいな雰囲気で息苦しい。


「じゃ、晴信。最後のバスでまた会おう」


最後に晴信に一礼して去ろうとすると、何者かに長方形の腕を掴まれた。

温くて、ブヨブヨとしている。まるで水風船みたいな肉の腕。

俺よりも解像度の高い中ポリの子供の手だ。


「お外危ないから家に居た方がいいよ」


「何を言ってる?どういう意味だ」


状況判断をするに、どう考えても一人の方が生存率は高い。

集合することによる利点があるのだろうか。


「兄ちゃんが守ってくれるから。ココに居て!」


子供は晴信をみてそう言った。

この子供には晴信がとてつもなく強い存在に見えているらしい。


「そうか、じゃあ守って貰え。俺はまだすることがある」


ココの間取りは防衛に相応しくない。

逃げも隠れも出来ない袋小路。

長いすればそれだけ危険が高まる。


物資を取ることもできないし、この家に長いする必要は皆無だった。

リビングから玄関まで移動して、外の様子を確認する。


ペイルライダー以外の中型バグが複数体、空や通路を移動し、新しくやってくる中ポリの執行者たちを待っている。しばらくすれば、中型バグと中ポリゴンの執行者たちによる第二ラウンドが始まるだろう。


俺はその間、息を殺して逃げ続ければいい。

そうすればこの迷路のような商店街の裏路地が、敵との接敵を極力低くしてくれる。


視界右下に表示されるマップを指で広げて拡大し、ピンを打つ。すると現実世界にも対応した場所にピンのホログラムが浮き上がる。ピン通りに歩けば、最も安全に移動できるルート作成が完了した。


敵の気配が消えたら出発する、そう玄関に向かって歩き出す。

すると玄関に右腕を失った晴信が、失った腕を守るように庇いながら壁に持たれかかっていた。


「姫守さん……こんな状態で申し訳ないんですが……お願い聞いて貰えませんか」


「いや、無理だ」


低ポリだから浮かぶ油汗などはない。しかし顔色が悪いことぐらいは分かった。

よく言う死相だ。


「お願いします」


「断る」


直ぐに願い事を言わない辺り、後ろめたい願いなのだろう。

水を取ってくれ、程度のお願いならわざわざこのような頼み方はしない。


「この人達を守ってくれませんか」


「……は?」


晴信の言っていることを、俺は理解したくなかった。

バグが発生すれば、サーバー側から大なり小なり警報が鳴る。

それを聞いて逃げる事ができるのに、彼らはそうしなかったのだ。

見たところ足の悪い老人がいるから、それが原因で家族の一部が残ったのだろう。


子供と母親、そして老人。


リビングには食器が六皿並べてあったから六人家族。

半分が理性的に判断して出て行ったのに、残りの半分は残った。

玄関に3人の靴はあるのに残りの靴がないのがその証拠だ。


お皿に乗った食事の量から見て父親と兄妹は外に出ている。

三男坊と母親と老人だけ取り残したのは、おそらく様子を見に行ったと考えるべき。

警報を聞いて外に出たのだろう。そこで帰らぬ人となった。



そこに偶然、怪我を負った晴信が入ってきて今の状況になった……そう言う風にみえる。


「お前は守らないのか?」


「僕はこのありさまですから……姫守さんならと……」


晴信はやせ我慢をして笑顔を作る。

画質が低いせいで、作れる表情のバリエーションが限られてるから、とても彼の表情筋はニコニコ笑っている。絶対そんな笑顔じゃないことは俺にも分かった。


「えー……」


「姫守さんが納得いかないのは百も承知です。ですがどうか、この通り」


晴信は土下座して、俺にお願いしてきた。

これはもはや命令に近い。

もしもコレを後日ビットに話せばどんな顔をされるだろうか。


「うわッ、後輩に土下座させてますやん……うわっ。引くなぁ~……」


そう言われるのがオチだ。

コイツの土下座に俺の命を賭けられるか。

俺は熟慮の末に、男の土下座がそう軽いわけがないという決断に至った。


「おい、オマエしばらく土下座禁止な。……家族集めろ」


俺はビットと違って面倒見は良くないから、晴信にしてやる最初で最後の先輩風だ。

家族は三人、お婆さんは車椅子で放心状態。

子供は外に出ると行ったら「大丈夫なの?」と母親の顔色を窺っている。


このメンバーで唯一頼りになりそうなのは、子供の母親だけだ。彼女だけが無理やり笑顔を作って子供を勇気づけている。旦那と子供がいなくなったのだから、心中穏やかではないと察せられるが、顔に出さないだけで偉かった。


ココで子供が泣きだせば、俺たち全員仲良く中型バグの餌食だ。

そうならないためにも、子供には笑顔でいて貰う必要があった。


「あの……執行官さん。今ってどのぐらいのバグがいるんでしょう」


母親が俺に尋ねてきた。


「中型が一番湧いている時期です。危険ですから、非難したいのですが、まだ中ポリ……一般の執行者がまだ来ていない状況です。我々はその下請けのようなものになります」


俺の説明を受けて、母親は俺の首についた鎖付きの首輪を見る。

俺たち低ポリゴンの囚人が特別任務(バグ取り)に参加していることは、世間に公表されていない。だから俺たちのことも、この母親はユニークな首輪をつけた、ただの社会人として見ているのだ。

実際には社会になど一度として出たことのないゴミの集まりだが、その誤解は有難かった。


「下請け……ですか」


厳密には違うのでイエスともノーとも答えず、説明を続ける。


「本隊が到着した後に、彼らが獲物を引き付けてくれるので、それに乗じて俺たちは逃げます。大丈夫、落ち着いて俺の指示に従って下されば安全に逃げれますよ」


時間があったので、マップを手書きして家族と晴信に見せる。

最短ルートというよりも、時間が掛かっても敵の少ない迂回ルートを選んでいることを事前に話しておく。


「その道が本当に安全だという保障はあるんですか」


母親は真剣な表情で聞いてくる。ココに残って救助を待つという選択肢も彼女たちにはあるからだ。

もし了承すれば、我が子と老人を連れての移動になり、敵に発見されれば逃げる事は困難を極める。

だからこのルート決めが命運を分ける事を彼女は分かっていた。


「絶対に安全という保障はありません。ですが、このルートなら俺も晴信も三人を守りやすい地形だということは確かです」


その説明の途中にも小型バグが数匹民家に侵入して、俺たちに襲い掛かってきた。

それを潰しながらココも危ないことを伝えると、母親は息を静かに吐いてから頷いた。


「……お願いします」


家族の同意が取れたところで、バスの音がシステムメッセージとして、耳の中から聞こえてくる。

中ポリ(一般執行者)の御出ましだ。


低ポリ(囚人執行者)が戦えば一撃で殺される攻撃を、中ポリ(一般執行者)なら何度か耐えることができる。鎧などを着ているならば、さらに攻撃を防ぐこともできるだろう。


俺たちは戦場がアーケード街で展開されているのを肌で感じて、密かに玄関先から通路を見た。


音につられて中型バグが中央のアーケード街に吸い寄せられていっている。今が一番の好機と判断し、俺は周囲の偵察にでることにした。


何か偵察に利用できるようなものはないか探し、子供が遊ぶようの花火とライターを見つける。


「これ、使わせて貰うぞ?」


子供は嫌な顔をしたが、今は生存優先でしぶしぶ了承を得た。

最後にルート確認を全員で行うため、リビングに家族と晴信を集める。


「晴信と家族には安全になったルートを歩いて近寄って貰う。空にも敵がいるから、なるべく民家の屋根を使って隠れながら来てくれ」


机を取り囲みながら説明をしていく。その途中で晴信が、


「それは分かってますけど、どうしたって屋根がない場所もあるんじゃ……」


と至極当然の疑問を口にしたので、なぜこのルートなのかも踏まえて説明を加えた。


「ああ、その通りだ。だから、車椅子でも隠れれるように最大限に屋根のついたルートを選んでる。だが、ない時は晴信、お前が空を見て確認するんだ」


幸いココはアーケード街を横に入った裏路地。空から視認するには、ダクトや換気扇など、様々な遮蔽物を越えて地面を見なくてはならない。二重三重の隠蔽が、彼らを脅威から隠してくれるだろう。


「分かりました」


「あと俺とは通話中にしておけ。それで何かあったらすぐに連絡しろ───いいな?」


「はい!」


耳から晴信のハキハキした声が、ノイズキャンセリング機能で聞こえなくなる。


「腕ないのに無理するな。小声で話せ」


「わ、分かりました……こごえ、ですねっ……」


「今は別にいい」


通信状況は問題ないようで、すぐに作戦を開始した。



リアクションされると喜びます。

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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