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低ポリ囚人の神グラ無双 ~特殊バグを喰らって解像度が限界突破した俺は、情報の暴力で階級社会を粉砕する~  作者: 星島新吾


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情報食い.4

「ビット行くぞ。ジャック、お前はどうする?」


中型バグを狩るための情報が揃った。そして俺の問いに、ジャックは当然のように頷いた。


「行くに決まってんだろ。俺はなにすりゃいいんだ」


血の滴るトゲつき棍棒を手に持って殺意に満ち溢れている様は、新人とは思えない迫力がある。

覚悟も決まったところで俺たちは作戦会議に移った。


作戦は簡単な陽動と攻撃の二手に分かれて柔軟に行われる。


常に状況が変わり続ける特別任務において、複雑な作戦はかえって思考の硬化を招いてしまう。


全員が柔軟に思考を飛躍させ、臨機応変に動き続けるための枠組みとして作戦は存在した。それからは、目標とそれに至るまでの段取りについてビットが話を進めて行き、一通り話終えるとジャックに二つの選択肢がビットより与えられた。


「正面と上から襲いかかる係、どっちやりてえ?」


「襲いかかる方に決まってんだろ」


ジャックは自信満々に襲撃者として立候補した。

ビットはそれに頷き、陣形を組み立てていく。


「囮は俺がやろう。ビット、遠距離攻撃は任せたぞ」


「あいよ。さっきの斧使いの立ち位置、覚えてんだろうな」


ビットがからかうように訊いてくる。大きく間違えば俺も壺ヤギの餌食になるこの作戦だが、たとえ上からの襲撃に失敗したとしても尻ぬぐいできる立ち位置にはいられるように立ち回るつもりだった。


「覚えてなければ勝負はしない。ジャック、失敗しても良いから気楽にやれ。もし奇襲が失敗したらそのままバスに走って駆け込め。バスの中はとりあえず安全だからな」


命がかかわる以上、プランにない行動は極力避けるようジャックに促す。

機械的に動き、なるべく頭を使わず勝利する。

それが一番安全で、危険が少ないやり方だった。


「あの時こうするつもりだった」や、「こうしてくれると思っていた」などという戯言を墓穴から呟いても仕方がないからだ。


「中型バグを狩ることが俺たちの第一目標じゃない。コイツはあくまでオマケ、生存が最優先事項だということを忘れるな」


そう言い残して俺は、ジャックの視界にピンを送る。そのピンが打たれた建物に向かえば上から簡単に首を狙える奇襲ポイントだった。


前のグループが戦っている間に探知を仕掛け、割り出しておいたポイントの一つ。そこにジャックを配置して、後は俺がそこに誘導する。


後は成功するもしないも新人次第。そういう作戦だった。



『プー、プー』


帰還のバスが鳴らすクラクション音。

作戦開始の合図が聞こえてきた。


俺は駆けだすと、背後から忍び寄り、壺ヤギを前に《刺突モーション》をとった。


「ハァ……」


吐く息と、足先に力が同時に込められる。アーケード街に敷き詰められたタイルの上を、蹴りながら小突くように刺突する。


力は入れていない。大したダメージがなくてもコレで注意を引ければそれでよかった。


しかしそれは、ヌルッ。という奇妙な音と共に大きく修正を余儀なくされてしまう。


「なんだ……⁉」


刺突した瞬間に、大剣そのものが意思を持ったように食らいついていたからだ。


「く、食ってる……」


大剣に食われた壺ヤギの首はデータとして情報食い(データイーター)に取り込まれ、跡形もなく消える。そして壺ヤギは失った首を探すようにしばらく(うごめ)いた後に、壺の中からまた新たな首を生やして復活した。


「コアは壺の中にあるぞ!」


大声で叫び、ビットと待機しているジャックに情報を送る。

壺ヤギは怒り狂い、蹄をコンクリートに打ち鳴らして突進を続ける。

突進にそれほどのスピードはなく、接近させない事を徹底すれば容易に避け続けることができた。


たまにビットが背後から投げナイフを投擲(とうてき)し、壺ヤギのヘイトを分散させる。俺が引きつけ役ならビットはジャックが狙いを定めやすいように位置を固定させる係だ。


「よっしゃ今だ! 自分のタイミングで行け! ニュービー!」


ビットの投げナイフで、バグの動きが止まった。


あの投げナイフには動きを封じる、即効性のウイルスが込められている。まともに命中すれば、数十秒は完全に足止めできる代物だった。


問題はその命中率だが、今回は止まっていた相手というのも合って命中し、ウイルスに感染した壺ヤギは痙攣(けいれん)したかのように体を震わせて全身を硬直させた。


「であああああ!! 」


ジャックは建物の上からジャンプして、手に持ったトゲ付き棍棒で壺ヤギの壺を叩き割った。


「メェエエエエエエエ‼」


絶叫を上げる壺ヤギのコアがついに剥き出しになる。壺ヤギの下半身に、折り畳まれるように収まっていた蛇の赤い頭。ゼリーのようにテラテラと光るその頭こそ、壺ヤギの体の情報ファイルが集約されたコアだった。


「くたばれぇええええ!」


ジャックは棍棒を振り下ろした。

だが、蛇もただ叩き潰されるのを待ってはいない。


「シャアアアアアアア!」


蛇も最後の力を振り絞り、ジャックのカウンターを狙うように足に食らいついていた。


「あ゛あああああああ‼」


噛みつかれた片足がミシミシと悲鳴をあげ、絶叫を上げるジャック。

しかし負傷しながらも、棍棒を振り下ろす手は止めない。

下半身の蛇も噛みついていたことが仇となったのか、頭を容赦なく叩き潰され絶命した。


「おい、ジャック。お前がトドメを刺しな」


ビットがジャックに短剣を手渡す。

最後に絶命したかを確認するための行為だ。


ジャックはビットから渡された短剣でコアと肉体を分離させると、中型バグの《ヒュギエイア》は、無事に討伐が完了した。


滝のような汗を掻きながら足を抱えジャックは呻く。コイツはまだ自分が戦場にいるということを忘れているようだった。仕方がないので、俺たち二人が周囲に気を配りながら、ジャックの首輪に簡易的な回復薬(修復パッチ)を投与する。


「アァ……」


温泉にでも浸かったかのような声を漏らすジャックに、俺たちは苦笑する。


「立てるか?」


「ああ。……それよりコイツは……?」


ジャックは自分の視界に奇妙な金のドクロが浮遊していることに気づいたのだろう。

不思議そうに首を傾げている。


その表情を見て大事なことを思いだしたかのように商売人の顔になるビット。大好きな商売の話だからか、いつもより口調のテンポが速い。


「中型以上の敵には、最後の一撃を入れたヤツに限って、《パニッシャー》っつー、()()()()()()()()()()()()()()()()が貰えるんだ。恐らくそれのことだろ?」


「金のドクロ……ああ、そいつが視界の中央にずっとある」


不思議そうに手を払うジャック。すると金色のドクロは収納されたのか、ジャックは安心したように顔をあげた。


「自分で中身を使うのもいいが、俺様に売ってもいい。みあうデータ量()と交換してやるぜ。いや絶対に売るべきだね」


周囲なんてお構いなしにビットはジャックにそう説明すると、ついでに肩を貸してやるともいった。

あくまで商売を優先させるのがビットらしい。それにしても急いだほうがいいのは間違いなかった。

バスの出発時刻はもうすぐだ。


「急ぐぞ」


俺は初戦闘で足を持っていかれたジャックを待って貰うために、先に行ってバスの運転手にお願いをする。するとバスの運転手は、「少しの間だけなら」と、帽子を目深(まぶか)に被り、ハンドルに片手を置いた。


バスには先ほどの《ヒュギエイア》に壊滅させられたうちのメンバーである斧使いが、震えながら着席している。他にも傷ついた大勢の低ポリゴンの囚人と目が合った。全員がこの地獄からの生還を心待ちにしているようだった。


「速く来い!」


俺は急かすように二人を呼ぶ。

ビットに肩を持たれながら歩くジャック。

───そんな二人の背後に新たな中型のバグが忍び寄っていた。


「戦いの音に惹かれたか……!」


俺はバスを降りた。


「執行者さん?」


バスの運転手が後ろから声をかけてくる。

おそらく奇行に見えたのだろう。


「悪いな運転手さん。遅れた二人を乗せたら出発してくれ。俺はどうやらこのバスには乗れないらしい」


二人に迫っている中型のバグは青白い馬に乗った、浮いた鎌と草臥れたボロボロの茶色いローブのバグで、中身は空っぽで何もない。


視界のUIには《ペイルライダー》と赤く表記されている。その鎌が二人の背中に襲いかかろうかというところで、その鎌を大剣で弾き飛ばした。


「新人相手に中型バグ二体とは、随分な歓迎だな」


二人が逃げるまでの間、時間を稼ぐ。それが今の俺にできる最大の先輩面だった。

確たる情報もない中、信じられるのは己の直感のみ。

次に何をされるかを待つよりも俺は先に自ら動いた。


「姫守!───餞別(せんべつ)だ!受け取れ!」


背後で肩を持って歩くビットが振り向きざまに麻痺ナイフを《ペイルライダー》の馬に命中させ、馬の動きを一時的に止める。上に乗ったローブには効果が波及しなかったようだが、コレで一対一、奴は足を失い馬上に囚われる状況を作ることができた。


「行け!」


俺の声がアーケード街に響き渡り、《ペイルライダー》とのにらみ合いがしばらく続いた後。バスが発車する音が聴こえ、車輪の音が遠くになっていく。


その頃には馬の動きも利くようになり、《ペイルライダー》は次なる標的として俺を選んでいた。


「馬鹿が。俺は戦わんぞ」


次の瞬間、ジャックには見せられないような見事な逃走で、俺は《ペイルライダー》から脱兎の如く距離を取った。幸いにもここはアーケード街が広いだけで、脇道に入れば、馬では追跡が難しい迷路になっている。


下馬してついてこない以上、地の利はコチラにあった。


「最終便まで……マラソンだ」


そうやって細道を走り周って、《ペイルライダー》を撒くと、民家に転がり込んで一息ついた。


「お前さんの相手は後から来る中ポリと高ポリに任せるさ」


ふぅーと、一息ついて何か食い物がないか物色しようとした矢先。

民家の中で震える存在を視界端に捉える。俺は咄嗟に小型バグだと思って剣を構えたが、どうやら違う。


……何処かで見たような、黒髪の七三わけ。

盾と片手剣を地面に投げ出し、片腕は食われているが止血が終わっている、首輪付きの男。

ああ、こいつは間違いない。


「お前……晴信?」


てっきり死んだと思っていた、良い奴こと、晴信が取り残されて民家に隠れていた。


「怖いよー!」


「大丈夫だよ。このお兄ちゃんが守ってくれるからね」


一般人の家族と一緒に。


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