2-(18)
涙を拭いて深呼吸を数回してから、シャオンはしっかりと前を向き語り出した。
まだ、不安が完全に消えたわけではなかったが、手から伝わる確かな優しさが不安を溶かす様に感じていた。
「私は、あの村に来る前までは王都にいたんだ。母さんと父さんに会ったのは村に来る直前で、それまでは名前も知らなかった」
「私の本当の母親が、命を狙われていた私を密かに逃がしてくれて。それまでも何度か暗殺されかけたけど、あの時には相手が本格的に動き出してきたらしいって言ってた」
そこまで聞いて、アレンが疑問を口にした。
「その相手って…さっき言ってた軍部関係者?」
-殺したはずの私だったんだっ
先程のシャオンの言葉が引っかかる。
なぜ軍部が彼女を殺そうとするのだろうか。
当時シャオンはまだ幼い少女で、暗殺するにはそれなりに特異な理由があるはず。
そんなアレンの疑問を感じ取ったのか、シャオンがその理由を話そうと口を開く。
「私の、本当の母親は…」
次に発した言葉に、アレンは自分の耳を疑った。
「昨年亡くなられた、スレア王妃なんだ…。」
「…え?それって…えぇっ!?」
「私は、病気で死んだことになってる元第一王女…なんだ」
「ほ、本当に?」
ここでシャオンが冗談を言うとは思わなかったが、あまりの驚きにアレンは聞き返さずにはいられなかった。
「本当。今更嘘はつかない」
まさかの告白にアレンは一瞬思考が追いつかず、開いた口がふさがるまで時間がかかった。
やっと追い付いた思考回路で、スレア王妃が亡くなったと知ったときの事を思い出す。
(確かあの時…)
シャオンの様子がおかしかったのを覚えている。
王妃が亡くなったことは、宿に泊まるときにそこの主人から聞いたのだが、その夜シャオンは風に当たってくるといって一晩帰ってこなかった。
心配になって街中を捜したが見つからず、アレンは一睡も出来なかったのを覚えている。
結局次の日には普段通りの彼女が帰ってきたので、今まで忘れていた。
まさか、シャオンが王女だったとは…。
「でも、当時はまだ7歳くらいだよな。なんで命なんか…権力争いとか?」
アレンの質問に、シャオンは首を振った。
「分からないけど…権力争いだとしたら、妹も狙われたと思うんだ。でも、狙われたのは私だけだった。それに……」
そこまで言うと、シャオンは表情を曇らせて口を閉じた。
「それに?」
アレンがシャオンに優しく問いかける。
目が合うと、アレンは“ダイジョウブ”と口をうごかした。
「命令、したのは……父様なんだ…」
「!!」