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アビスウォーカーズ  作者: 大野 タカシ
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第61話 ファースト・アタック

■ヘリ空母駿河、戦闘指揮所(CIC)


板皮(ばんぴ)類……確か恐竜の時代よりも前に栄えた古代魚類だったか。随分と昔、国立博物館で頭部の化石を見た覚えがある」


 当時を思い出すように、宙に視線を彷徨(さまよ)わせながら津川艦長が呟く。その声にローザが答えた。


「はい、生物が本格的に陸上へ進出する以前、古生代デボン紀に栄えた生物カテゴリです。艦長が見た化石というのは、多分ダンクルオステウスでしょう。当時の頂点捕食者と考えられている肉食魚類です」


「ちょ、ちょっと待ってくれ! つまりA・W-4はすでに絶滅した生物の姿を模倣(もほう)していると?」


 木崎副長が慌てた様子で口を開く。今まで戦ってきたA・Wは、幼体であるA・W-1を除き、エイとヤドカリという既存の生物の姿を模倣していた。

 しかし、眼前のA・W-4は絶滅生物の姿を模しているという。『もしや今でもこの海のどこかに、その板皮類とやらの生き残りが居るのだろうか?』……そんな考えが木崎副長の脳裏を(よぎ)った。


 だが、ローザは少し考えるそぶりを見せた後、首を横に振った。


「いえ、あのヒレの形状を見るに、初期のA・W-4はシーラカンスのような現存する古代魚の姿を模倣したと考えられます。その後、何度か大型船舶を狙い沈めるうちに、より効率的に船を沈められる姿に変異したのでしょう……それが偶然、板皮類の姿に似たのだと思います」


 ローザの説明を聞き、津川艦長が髭を撫でつけながら口を開く。


「成程な……。頭部を強固な外殻で覆い、あの巨大なツノで衝角突撃(ラム・アタック)を敢行するわけか。あの質量で衝角突撃などされれば、この駿河も……いや、エンタープライズでもひとたまりも無いだろうな」


 衝角突撃(ラム・アタック)とは、かつて海戦で頻繁(ひんぱん)に用いられた体当たり戦法である。

 砲やミサイルなどの長射程兵器が実用化される以前、船同士の戦闘は弓兵での撃ち合いや相手の船へ乗り移っての白兵戦、そして敵船への体当たりが主流であった。そのため、体当たり攻撃の威力を増す為に船首喫水線(きっすいせん)下(現代の艦艇であれば球状船首(バルバス・バウ)の部分)にそのための衝角(ラム)が設けられた。

 この衝角を敵船のどてっ腹に突き刺し、浸水させ機動力を奪う……或いは撃沈するのだ。


 映像解析から導き出されたA・W-4の全長は、艦隊旗艦エンタープライズに匹敵する。そんな巨体であのツノを突き立てられれば、船体に大穴が開くのは間違いない。ダメージコントロールなど意味を成さないだろう。


「これまでのA・W-4の行動パターンから、ヤツはDSCVよりも水上の艦艇や潜水艦といったより大型の相手を襲う可能性が高い。イヴちゃんの歌で動きを阻害し、DSCV隊で一気にケリをつけた方が良いかと」


 ローザの提案、津川艦長は即座に首肯した。


「先手必勝……それしか無いだろうな。A・W-2は動きは素早かったが、何とか攻撃は通った。A・W-3は固い甲殻で攻撃が通らなかったが、動きは鈍重だった。ヤツはその両方の特性を兼ね備えているように見える。戦いを長引かせるのは危険だろう。副長、DSCV隊を発艦させてくれ」


「アイ、サー! DSCV隊発艦ッ!!」


 CIC内に木崎副長の号令と武鐘(ぶしょう)が鳴り響く。



■ヘリ空母駿河、飛行甲板(フライトデッキ)


『第2小隊、021から順次に発艦、どうぞッ!』


 フライトデッキクルーの号令と共に、第2小隊の八式がアクアラングを背負ったダイバーよろしく背中から青い海に落ち、盛大な水飛沫(しぶき)を巻き上げる。

 間もなく、八式のパッシブソナーがエンタープライズの方向から向かって来る複数のキャビテーションをキャッチする。航行音を確認するまでもない、エンタープライズを発艦したガーフィッシュ隊だ。


 無線からマディガン大尉の声が響く。


『総員、話は聞いているな? 023を中心に陣形を組み、人魚姫が歌うのと同時にあのデカブツに接敵、一気に決めるぞッ!!』


 第2小隊、そしてガーフィッシュ隊メンバーの復唱が無線越しに聞こえ、恭司も『了解!』と答えつつ、僚機達とフォーメーションを組む。

 マディガン大尉の命令通り023が中心となり、上下左右にガーフィッシュ隊の2番機と3番機、第2小隊の021と022が位置取り、マディガン大尉のハンマーヘッドが023の正面につく。

 簡単に言えばマディガン大尉を頂点とする、横倒しにした四角錐(しかくすい)のような編隊だ。


 計6機のDSCVはウォータージェットの出力を上げ、前進し始める。DSCVが搭載するソナーは未だ相手の姿を捉えてはいないが、上空を哨戒しているUAV、そして水上の艦艇……特に対潜能力に優れた艦はA・W-4の動向を感知しているはずだ。事実、エンタープライズのTFCCからは戦術データリンクを介して『A・W-4、12時方向より接近中。速力10ノット、深度50』とリアルタイムデータが送られてきている。


 恭司が八式のメインモニターでその情報を確認していると、今度は無線からローザの声が聞こえて来た。


『こちらローザ、皆聞いて。A・W-4は頭部全体を外殻で覆っているわ、あれはA・W-3の殻と同じく、生半可な攻撃は効かないでしょう。必然、頭以外の胴体を狙う事になる』


 ローザの声の合間に、宗像三尉の『やっぱりそうなるっスよねぇ』というぼやきが聞こえる。


『けど、A・W-4を覆うウロコも相当な強度があると考えられるわ。あのヒレの形状を見るに、ヤツはシーラカンスのような古代魚を模倣している。一般的に、古代魚は他の魚類よりもウロコが硬いはずなの。だから稼働部位……ヒレの根本を狙ってみて!』


 そう説明を終えると、ローザとの通信は途切れた。その直後、八式のソナーが前方に巨大な影を捉えた。

 A・W-4は眼前のDSCVなど意にも介していないのか、速度を変えることなく、悠々と接近してくる。


『よしッ! アニング博士の話通り、ヒレの根元を狙って攻撃する! 023、人魚姫に思いっきり歌ってもらえ! 全機散開ッ!!』


 マディガン大尉の号令。A・W-4との戦闘が開始された。

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