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それからのふたり

こっそり



 新生暦十五年。

 アルカディア連邦、首都カルロ。

 宇宙一、土地単価が高いことで知られている首都カルロの一等地に、うず高くそびえる超高層建築物。

 それこそが、バウンティハンターズギルド本社である。

 全宇宙の凶悪な犯罪者達を、懸賞金目当てで日夜追いかけ回す、賞金稼ぎ達の総本山だ。


「ターニャ! エヴァ! またやらかしたそうじゃないッ!」

 そのギルド本社にて、今日も雷鳴が轟いた。


 本社の最上階で、高級なスーツに身を包み、黒革の椅子に座ったヒジリは、デスク上の電子新聞を力の限り叩きながら、通信モニターに向かって怒鳴り散らす。


 通信相手は、アルカディア連邦宇宙軍の退役将校、ターニャとエヴァである。

 彼女達の現在の仕事は、全宇宙を股にかける、犯罪者狩り専門の賞金稼ぎだ。


 新生暦十二年に配備された第四世代型戦闘用外骨格二機と、スーパー・エルフィニウム級宇宙戦艦一隻を、年金代わりにと連邦軍からかっぱらい、仕事道具として使用している現宇宙最強の賞金稼ぎコンビである。


「いやー、あれは……」

「これには深い事情が色々とあって、……その、申しわけない」


 アルカディア連邦艦隊の主力戦艦と、最新鋭の軍用外骨格を、個人名義で所有しているターニャとエヴァであったが、バウンティハンターズギルドの現CEOであり、高等宇宙弁護士でもあるヒジリにだけは、どうにも頭が上がらない様子であった。


「どうやったらこんな事態になるの!? 新聞にも散々な書かれ方してるし!」

 ヒジリの手元にある電子新聞の一面には。


 ――何度目だッ!? お騒がせ英雄コンビが、大迷惑な大活躍ッ!!

 と、大きな見出しが躍っている。

 この見出しが見事に、壮絶なる大事件のあらましを、全宇宙に対して伝えきっていた。


「でも今回は、反宇宙連盟勢力の、重要な資金源になっていた麻薬製造プラントを破壊して、組織の幹部も根こそぎ捕まえたんだし、懸賞金はたくさん出るだろうから――」


「懸賞金なんて、請求された賠償金の支払いでとっくに使い切ったッ! もう赤字ッ! 不足分は、二人の口座から引き出すから」

「――!?」

「……そんなー」


 アルカディア連邦軍の軍備縮小と、技術発展に伴う兵器の無人化は際限なく進み。

 多くの軍人達が軍を去り、己の才能を活かせる職に就くべく、宇宙へと広く旅立っていった。


 アルカディア連邦軍人は、優秀な技能と、極めて高い戦闘能力を併せ持つ万能選手であると周知されており、各文明から引く手数多であったため、幸いにも、再就職先に難儀する者は、末端の下士官ですら皆無であったようだ。


 そうやって人が抜けては階級が繰り上がり、ターニャとエヴァは、あれよあれよと昇進して、最終的に上級大将にまで上り詰めた。


 上り詰めた先にあるポストが、ババであることなど最初から理解していたが、彼女達は軍を辞めるわけにはいかなかった。


 次々と戦友が軍を去っていく中、彼女達はウルクナルの帰ってくる場所を守っていたのである。アルカディア連邦軍最後の有人外骨格部隊として、最後まで肩肘を張り続けていたのだ。


 ただその役目も、ウルクナルが帰還し、そして再び宇宙の外側へと旅立って行ったことで終わりを告げた。

 特別遊撃隊は今度こそ解散となり、部隊は伝説となったのだ。


 今は、特別遊撃隊という最精鋭部隊が存在したことを証明する記録と物品のみが、数々の鮮烈な戦績と共に、博物館の展示ケースの向こうで燦然と輝いている。


 軍を去った彼女達は、すぐさま賞金稼ぎとして人生を歩み始めたのだ。


 一方、ターニャ達よりも一足先に軍を辞めていたヒジリは、連邦軍の上層部にも通じる太い人脈を活かし、各界の重鎮達にかけ合い。


 犯罪者を、罪の重さに応じて格づけするランク制度と、指名手配中の犯罪者を引き渡せば、ランクに応じた懸賞金が支払われるという、宇宙では広く普及しているバウンティ制度の法整備を国内でも進めてもらい、俗に罪人市場とも呼ばれる新市場を開拓。


 人脈を総動員し、資本を集め、早期に国内市場を独占した。

 当初は、国内からヤッカミに等しい批判が相次ぎ、裁判沙汰にまで発展したが、ヒジリは軍役中に取得した高等弁護士の資格と能力を遺憾なく発揮し、見事に裁判で大勝利を収め、バウンティハンターズギルドCEOという現在の地位を確立した。


 以降、ヒジリが運営するギルドは、飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長し、日に日に存在感を増していっている。

 ゆえに軍を辞めたターニャとエヴァが、ヒジリが運営するギルドに身を寄せたのは必然であり、当初は彼女も二人のことを歓迎していた。


 そう、その二人が、一度砲火を交えようものなら、指名手配者もろとも現場を焼け野原にするという、とんでもない問題児であることが発覚するまでは――。


「なに? 自分達が蒔いた種なのに、賠償金の支払いに文句があるの?」


「こっちは、宇宙の平和を守ったのに……」


「宇宙の平和を守る? 組織と無関係の無人宇宙ステーションを二十一基も破壊したんだから、平和を脅かしているのはアンタ達のほう! 反省しなさいよ! 一般市民の犠牲者が出なかったのは、奇跡としか言いようがないんだから!」


「ぶーぶーぶー」

「反省してまーす」


「まったくもう」

 今現在、ターニャとエヴァは、宇宙でも五本指に数えられる悪名高き有名人だ。


 彼女達には、真っ当な賞金稼ぎにはおよそ似つかわしくない、様々な通り名をつけられている。

 曰く、執行者。

 曰く、デストロイヤーズ

 曰く、破壊神の申し子。


 彼女達が通れば銀河は破壊され、アステロイドベルトすらも残らない。

 飲み込めば、ブラックホールすらも腹を下す。


 などと、散々なウワサが蔓延していることからも分かる通り、二人がこれまでにやらかしてきたトラブルの多さと、その破壊行為の規模は他の追随を許さず。


 反宇宙連盟勢力のテロリストよりも、テロリストらしいとまで評される始末である。


「ターニャとヒジリは、やり過ぎなの! 相手は宇宙植物じゃないんだから。もっと丁寧に!」

「はーい」


「最近のヒジリって、お母さんみたいだよね」

「うん、きっと年取ったからだ」

「そっか、年取ったのかー」


「――エヴァ、ターニャ、なにか言った?」


「いえ特に」

「幻聴ではありませんか?」

 この後再び、室内に雷鳴が轟いたのは言うまでもない。




 ケンタウロス座銀河団の辺境を、一隻の宇宙戦艦が気だるげに航行していた。

 あれこそが、賞金稼ぎの民間人が所有しているスーパー・エルフィニウム級宇宙戦艦である。


 戦艦は、連邦宇宙軍の軍港において、秘密裏に近代化改修を受けており、単純な火力は配備当初よりも格段に向上している。


 この戦艦一隻で、アルカディア連邦を除く、すべての宇宙文明を滅ぼすことも可能であった。


 並大抵の戦略兵器よりも、遥かに高い殲滅能力の有するスーパー・エルフィニウムではあるが、その存在は各文明の政府から、事実上黙認されている。


 触らぬ神に祟りなし。


 純粋に、誰も関わり合いになりたくないのだ。

 もはやこの戦艦は、宇宙を放浪する災害の一種として認識されており。


 仮に戦艦が文明の支配領域を無断で侵犯したとしても、対処するすべを持たない以上、その文明は無事に嵐が過ぎ去るのを、ただ座して祈るほかないのである。


「あー、長かった」

「肩凝ったー」


 艦内の随所に設置されているサロンにて、ターニャとエヴァは、向かい合ったソファにそれぞれ寝転がり、だらしなく寛いでいる。


「年々、ヒジリの説教が長くなってきてる気がする」

「気のせいじゃないよ、絶対長くなってるって」


 彼女達は頭部の以外の全身を、有機的な丸みと、セラミックタイルの如き白色の光沢を帯びた、単一のオメガ・マター装甲で滑らかに覆い尽くしていた。


 それこそが最新鋭機、第四世代型戦闘用外骨格ノーブル・ロットである。


 かつての愛機であったフルスペック・ファントムと同様に、ターニャの胸元には緑色のライン、エヴァの胸元には黒色のラインがペイントされている。


 本来ノーブル・ロットは、全高三百メートルの外骨格であるが、それは戦闘モードでの一形態にすぎない。

 必要十分な防御能力を確保しつつ、かつ意識を定着させた状態で遅延なく機体を動作させ、最大限の継戦能力を発揮できるサイズが、全高三百メートルなのだ。


 継戦能力の大幅な低下を考慮しなければ、機体はいくらでも巨大化できる。

 同様に、火力と防御能力に制限をかければ、現在のパイロットスーツほどのサイズにまで、機体を縮小させることも可能なのである。


「……お腹減ったね」

 ターニャはふと、天井を仰ぎながら呟く。


「ん」

 するとエヴァは、歯磨き粉のチューブのような物体を差し出した。

 チューブにはラベルも貼られておらず、業務用という言葉がシックリくる見た目である。


「これでも食べれば? まだたくさんあるよ、ターニャが誤発注した五千食分のチューブ入り非常食。味は、チョコレートに、チョコレートに。……チョコレートしかないけど」


「いらない、おいしくないもん」


「この調子じゃ、あと千年は倉庫に山積みだぞ」


「私は、一万年とみた。それで賞味期限が切れて、チューブが在庫の山に押し潰されて、中身が飛び出て、腐って、息ができなくなって私達は死ぬ」


「はははは」

 エヴァの気の抜けた笑い声がサロンに響いていた。


 第四世代型戦闘用外骨格ノーブル・ロットは、単純な火力よりもむしろ、継戦能力を重視した機体であり、装備してさえしていれば、生命として当然の生理現象すらも無視できてしまう。


 端的に言ってしまえば、風呂もトイレも、基本的に食事すらも不要なのだ。


 彼女達が現在身に纏っている最小構成のノーブル・ロットは、コタツを遥かに凌ぐ、自堕落人間製造装置なのである。


 あまりにも快適で、便利であるがゆえに、脱ぐ必要性を一切感じなくなってしまう。

 何事も、過剰であれば毒なのである。


「バカ言ってないで、どこかに食べに行こうよ」

 ソファから体を起こしたターニャは、空間にモニターを立ち上げると、超光速インターネットを駆使して飲食店を探す。


「ターニャ。近場で出入り禁止になっていない店なんて、まだあるのか?」

「たぶん、どこかにあるでしょ」

「そうは言っても、私達を快く迎え入れてくれる店なんて、シルバーフォレスト以外にはもうないぞ」


 ターニャは、戦艦に搭載された人工知能にいくつかの飲食店をピックアップしてもらうと、その中からガッツリ食べられて、かつお酒もおいしいと評判のファイレスをチョイスした。

 

 店名はスペースダイナー。

 じつに安直な名前だが、全宇宙で高いシェアを誇るチェーン店で、神獣王国の企業が経営する宇宙ステーション型のファミリーレストランである。

 

 早速、ターニャは人工知能に命令し、戦艦を緊急ワープによって店へと急行させた。

 所要時間は、一分少々。


 通常宇宙に出た瞬間に航行を停止し、魔力によって戦艦を空間に固定、つまり停泊させる。

 現座標は、スペースダイナーからあまりにも遠く離れた宙域であった。


 だが近場に出現しようものなら、他の宇宙船の航行妨害にしかならないため、店舗の入っているステーションから遠く離れた宙域でのワープアウトが必須なのである。

 この取り回しの難しさこそが、巨大な本艦の数少ない欠点である。


「席は空いているみたいだし、早速行きましょうか」

「ターニャはなに食べる?」

「うーん、私は――」


 ターニャとエヴァは、ノーブル・ロットの頭部装甲を機体から拡散させた粒子によって構築し、即席の宇宙服にすると、瞬間移動によってスペースダイナーへと転移する。


 転移の直後、視界に飛び込んできたのは、ウサギ型獣人ウェイトレスの引きつった笑顔であった。


「――ッ!? いっ、いらっしゃい、ませ」

 とっさに言葉を紡げたのは、神獣王国特有の勤勉さと、接客訓練の成果によるものであろう。

 ターニャとエヴァは、外骨格の頭部装甲を粒子状に分解して収納する。


「二人です」

「しょ、少々、お待ちくださいませ!」


 エヴァが、オメガ・マターに包まれた白い指で人数を示すと、獣人の店員は言葉を詰まらせながら、尻尾を巻いて店の奥へと駆け込んだ。


 しばらくして店の奥から現れたのは、強面でガタイのいいブルドックの獣人であった。

 どうやら、この店の店長であるらしい。


「お待たせいたしました。……どうぞ、こちらへ」

 ほとんどすべてのテーブルに、食べかけの料理が置かれているにも関わらず、客が一人もいない静寂に満ちた店内を歩き、なぜか、高級料理店のような純白のクロスが敷かれたテーブル席に通される。


 直後、注文を聞きに現われたのは、先ほどのウサギのウェイトレスであった。

 彼女は今にも失神してしまいそうな表情で、注文を入力する電子端末を握りしめている。


 なお彼女達が注文したメニューは、ターニャがステーキセット、エヴァはお子様ランチである。

 あまりにも予想外なエヴァの注文に、しばしターニャは抱腹して笑い続けた。

 エヴァはこれを必死に耐えたが、しかし、注文した料理が先に運ばれてきたのはターニャの方であった。

 これはどういうことかとウサギのウェイトレスに尋ねたところ、エヴァの注文したお子様ランチはまだ調理中であり、もうしばらく時間がかかるとのことである。

 それを知ったターニャは再び抱腹絶倒し、散々お子様ランチをバカにして、見せつけるようにアツアツのステーキを頬張った。


 敗色は濃厚、敗戦の悔しさを飲んででも、一欠けらのステーキを恵んでもらうべきだと主張する心の中の敗北主義者に彼女が屈しようとしていた刹那、ついにお子様ランチが運ばれてきた。


 瞬間、戦況は一挙に逆転する。

 理由は単純、お子様ランチが、とても美味しそうだったのである。


 お子様ランチ――わんぱくセットと銘打たれたそのメニューは、ケチャップライス、ミートソーススパゲッティ、ステーキ、海老フライ、ハンバーグ、タコさんウィンナーを、一つの大きな皿に盛りつけ、さらにデザートとしてプリンアラモードまでついてくる。


 大人も楽しめるお子様ランチ。


 メニュー表に大きく記されたキャッチフレーズに偽りはなく。

 価格も、ボリュームの割にはお手頃で、一切の隙がない。

 まさに全部乗せの無敵戦艦である。

 こうして勝敗は決し、ターニャは悔しそうにステーキを噛みしめ、エヴァは笑顔でタコさんウィンナーを頬張るのであった。





 お久しぶりです。

 エルフ・インフレーションの後日談を何話か投稿しようと思います。

 

 まあ白状すると、自分の新作『この世界を救うために、もう一度戦ってほしい』(もうすぐ完結)のPRも兼ねてます。


 エルフ・インフレーションとはまるで毛色の異なる作風で、とても小説家になろう向けの作品ではありません。総合ランキングなんて無理無理カタツムリ確定です。

 ですがそれでも、個人的には非常に納得のいく作品に仕上がっています。

 ご一読いただけると、とっても嬉しいです。


 ここが面白いとか、ここがクソとか、ここがキツイとか、こんな展開だから人気でないんだよとかの感想、なんなら長文レビューもばっちこいです! 

 万が一レビューを頂けたなら、私はそれを家宝として一生大切にする所存です。

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完結!
『この世界を救うために、もう一度戦ってほしい』
https://ncode.syosetu.com/n2335lj/

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