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到着

 分析官と呼ばれた魔導士は、超長距離狙撃で地形を変えたレールキャノンの威力に唖然とした様子だった。


「こ、こりゃまた、なんと……」


 ソニアも愕然として魔力制御を誤り、あやうく墜落するところだった。


(失われた古代魔法の隕石落とし? いえ、魔力の波動は全く感じなかった……)


 そして、残りの魔獣の大半が瞬時に粉砕されたのを見るに及んでは、驚きを通り越して呆れかえってしまった。

 一方の魔導士も毒気を抜かれたような表情を浮かべていたが、やがて、それは、がっかりとしたような表情に置き換わった。


「やれやれ。何の因果か。期待していた見せ場がことごとく台無しじゃ」


 いかにも気落ちしている風情だが、ソニアがつけ込む隙は毛筋ほどもなかった。


(まだ、こんな魔導士がいたなんて)


 眼下で繰り広げられた光景を意識の外に押し出しつつ、改めて相手に集中する。

 黒髪の宮廷魔導士の背中に、いやな汗がじわりとにじむ。

 年々、質が低下する一方の魔導士の中にあって、ローセンダールでは唯一の「魔法使い」と言える系譜のソニアだが、目の前の魔導士もそれに劣らぬ実力の持ち主のようだ。


(ひょっとすると、全盛期のお祖母様より上かもしれない)


 歴代で最強と言われるソニアだが、それは魔紋によって魔力を増幅するトロンヘイム派の「技術」に負うところが大きい。

 ソニアの祖母は純粋な呪文だけで魔導を行使する、正統ファールン派として当代の最強を誇っていたわけで、資質において、どちらが上かはソニアにとって比べるまでも無い。

 だが、目の前の魔導士は、魔紋も呪文詠唱も無しに飛行魔法を行使しているようだ。

 潜在能力は、ソニア自身は元より、彼女の祖母すら凌ぐかもしれない。

 その魔導士が、「おや?」と、興味深そうに下を見やった。

 ソニアも油断無く構えながら、そちらを見る。

 ただ一匹残る、蜥蜴のような魔獣に、シンゴと言う青年が対峙するのが見えた。


「うむ、これよ、儂が求めていたのは。いや、しかし、はて?」


 満足そうにうなずいたり、首を傾げたりと、中々に忙しい魔導士である。


「あの青年は、たしか『銀狐』の……」



         ◇



 蜥蜴のような魔獣は、こうして間近で見ると凄まじい迫力である。

 シンゴは知る由も無いが、魔結晶が変じた、言わば、自然の理によらずして魔導の理で生じたそれは、しかし、確固たる生命体として存在していた。

 あるいは、このファーラと言う魔導や神が実在する世界の在り方が、そのようなものだったのだろう。

 それゆえに、元々はパソコンゲームのデータでしかなかったシンゴと言うキャラやBMRのようなロボットが、この世界で実体として顕在化する事が可能だったのかもしれない。

 つまり、ある意味、この魔獣はシンゴの同類と言えなくも無い。

 少し離れたところから見ているヘレーネにしてみれば、確かにどっちもどっちである。


「魔装機甲兵に生身で挑むやつだからなあ。魔獣とも良い勝負かもしれないな」


 ヘレーネのぼやくような言葉を聞いたクラウスと言う娘が、ぎょっとしたように息を呑んだ。


「い、今、なんと言った? 魔装機甲兵に生身で挑んだと聞こえたようだが」

「ん? ああ。ザミーンの《サラマンダー》って機体が、転移して襲撃をかけてきた事があってな。あいつは、それを生身で撃退しちまったんだ」


 《サラマンダー》の襲撃に関わる話は、本来は機密事項である筈だが、この感情と行動が直結しやすい茶髪の女戦士は、未だに素性が明確でない相手に、あっさりとそれを明かしてしまった。


「《サラマンダー》を? そんなバカな」

「あんたもそう思うだろ。あたしも大いに同感さ」


 クラウスと言う娘は、しばらく絶句していたが、ヘレーネの言う事が嘘では無いと悟ったようだった。


「そんなやつが相手では、私の遠当ても通じぬ道理だ。何者なんだ、あの青年は」

「う~ん、そうだな。こことは異なる世界からやってきた、凄腕の……ヘタレだな」


 BMRのパイロットと言う概念を理解していないのは仕方が無いとしても、ひどい言われようである。

 だが、ヘレーネの直感は、シンゴという青年の本質を見抜いていた。

 こと、戦闘ともなれば、信じがたいほどの超絶的な武力を発揮するが、日常の場では何となく抜けていて頼りない。

 ロボット対戦ゲームの廃人プレイをする傍らで、十八禁ゲームでリビドーを解消させていた九之池慎吾と言う青年が大元であってみれば、それも仕方の無い話ではあった。

 だが、そんなシンゴを見るヘレーネの眼には、やんちゃをしている息子へ向けるような、母親にも通じる優しい光があった。


「ま、油断は禁物だ。魔獣相手じゃ何があるかわからねえ。万が一、あいつが危なくなったら支援するぞ」


 折り畳み式の弓を広げ、弦を張りながらヘレーネが言うと、クラウスもいつでも遠当てを放てるよう、魔力を練り始めた。

 この場所へ来た同行者の、残る一人であるテレーゼは、未だに《ガリア・フット》の内部にいた。

 運転席の、見たことも無い機器をのぞき込みつつ、これが自分の知っている魔導車とは異なるシロモノだと言う事を感じている様子だった。


(首都からここに至るまでの速さと言い、魔獣を瞬時に粉砕した砲と言い、ただの魔導車ではありえぬ。そう、どことなく、あの『銀狐』を思わせる車両だ。何か関係があるのか? ふむ、そういえば、あの『銀狐』も人型から鳥もどきに「化けて」いたな。この車両が化けても驚かぬぞ)


 ザミーンの『氷姫』が抱いた感想は、じつのところ、当たらずと言えども遠からずと言ったところである。

 この軍事車両《ガリア・フット》は、陸戦型BMR、正確には地上用多目的型のUA‐03Gを中核とする《ガリア》システムの一部でもあった。

 興味津々ではあったが、テレーゼはさすがに運転席の機器類に手を出すのは我慢した。

 得体のしれない車両でもあり、とんでも無い事になりそうな予感があったからだ。

 結果として、それは正解である。

 《ガリア・フット》は、シンゴが搭乗を許可しているからこそ、一人で車内に残っているテレーゼを許容しているに過ぎず、彼女が許容範囲を超えた行動を取った場合には、容赦なく防衛機構を発動させていただろう。

 そうとは知らないテレーゼは、今度はシンゴから使用許可を出された小銃を手に取って、色々と調べてみた。


(見たことも無い拵えだ。これも我々が知っている銃器とは異なるようだな。あのシンゴなる者は、このような未知のシロモノをいくつ隠し持っているものやら)


 こめかみにじんわりとした痛みを覚えつつ、テレーゼはため息をついた。

 もし、彼女がグレート・ストレージの内部を見たら、顎が外れるような思いをしたに違いない。

 ヘレーネやソニア同様、その美貌を台無しにする表情となる事は、まず、間違いなかった。

 そうして、ザミーンの皇女が《ガリア・フット》の中で、とりとめの無い考えにふけっている間に、外ではシンゴと魔獣の戦いが始まっていた。


 蜥蜴のような魔獣は全長三メートルに及ぶ巨体であったが、標準的なBMRや魔装機甲兵が全長十六メートル前後であってみれば、生身でそれらを相手にするシンゴにとっては、小型の相手と言って良い。

 その魔獣は、目の前に対峙する人間をようやく獲物と認識したのか、その鋭い爪で引き裂こうと襲いかかってきた。

 シンゴはあっさりとそれを躱すと、懐に飛び込んでレーザーソードを振るった。

 光の刃が、魔獣の胴体を切断する。

 そのように思われたが、今度は魔獣がシンゴの斬撃を回避してのけたのである。


「速い!?」

『この敵性個体は、先ほどの重機関砲の斉射も回避していたのが観測されています。反射速度はユーザ並みか、それ以上かと推測されます』

「このでかい図体で、おれより速いだと。いくら異世界だからって、それは反則じゃないか」


 魔獣が魔獣と呼ばれる所以ではあるが、しかし、常人からするとシンゴも充分以上に反則的な存在である。

 とは言え、パワーと頑強さを考慮すると、いささかシンゴの方が分が悪い。


「しょうがねえ。援護するぞ」


 ヘレーネはそう言うと、弓を構えて狙いを定めた。

 クラウスと言う娘も、次々と魔力衝撃を放つ。

 だが、魔獣の眼には、魔力の軌跡が見えるのか、それらの遠当ては尽く回避されていく。

 ヘレーネが放つ矢も同様である。


「ちくしょう。なんてすばしこいやつだ」

「信じられない速さだ。さすがは魔獣」


 二人の娘が口々に忌々しそうな声を上げる。

 その頃になって、ようやく状況に気づいたらしく、テレーゼがビームライフルを抱えて車両の外に出てきた。

 ザミーン軍人として射撃の鍛錬は欠かさない彼女だが、この世界の銃器と勝手が違うのか若干もたついたようだ。

 しかし、直ぐに、引き金を引くと言う操作自体にさほど違いは無いと気づいた様子で、堂に入った射撃体勢を取ると、狙点を定めて撃ち始めた。

 呆れ果てた事に、魔獣は亜光速のそれすらも回避してのけたのである。


『ビームそのものではなく、銃口の向きから狙点を察知して回避しているものと推測されます』

「眼も良いし、頭も回るってか。つくづく、厄介なやつだな」


 三人の娘が支援射撃を行っている間に、レーザーソードのバトンをしまい、頭をガシガシと掻きながらシンゴは少し考え込んだ。

 そうしているうちに、ヘレーネの矢とクラウスの魔力が底をついたようだ。

 テレーゼのビームライフルは、エネルギー切れまで充分な余裕があったが、携帯用の銃器と異なる相応の重量に腕が支えきれなくなったようだ。

 いくら鍛錬は欠かさぬとは言え、訓練だけに明け暮れている兵士とは立場や求められる能力が違うわけであるから、それも仕方が無いが、本人は不本意そうに、ほっそりとした自分の腕を見つめている。

 支援射撃が止んだせいで、魔獣の関心は再びシンゴに戻ったようだ。

 そのシンゴは油断無く魔獣を見ているが、しかし、両手は何の武器も持たずにだらりと下げている状態だ。


「あのバカ、何をしていやがる」


 ヘレーネが焦ったように叫び、テレーゼとクラウスが息を呑んだ。

 蜥蜴のような魔獣は、何の表情も浮かべずに、目の前の獲物を八つ裂きにしようと襲いかかる。

 その寸前、魔法のようにシンゴの手に現れたビームガンが、輝きを放った。

 抜く手も見せない早撃ちである。

 いわゆる西部劇のような文化はこの異世界ファーラには無いが、九之池慎吾はネット動画で実在の早撃ち名人の実演を幾度となく見たことがある。

 ホルスターの銃を取り出して撃ち、再びホルスターに納めるまでの動作を肉眼では捉えられないスピードで行う。

 その妙技を、シンゴはこの剣と魔法の世界で再現したのだった。

 さしもの魔獣も、狙点が読めなければ、亜光速のビームを回避するなど不可能である。

 眉間に当たる場所を超高熱の輝きに撃ち抜かれ、魔獣は絶命した。


「え? え? ええ?」


 何が起こったのか分からず、ヘレーネは口をぱくぱくさせていた。

 クラウスも魔法のように見えて、しかし、全く魔力を感知できない状況に眼を見張っている。

 シンゴの周囲にある人々の中では、最も速くに「諦める」と言う選択を行っていたテレーゼは、


(あの『銀狐』の主ならば、そういう事もあるだろう)


 と、投げやりに考えている。

 そんな彼女に、上から声がかけられてきた


「姫様!? なんと、テレーゼ皇女ではありませんか」


 さすがに意表をつかれて、上を見上げると、ローブを纏った人物がもの凄い勢いで降ってくるところだった。

 あの分析官と言う魔導士である。

 その魔導士は、テレーゼの眼前に降り立つや、平伏して言った。


「殿下、ご無事でございましたか。殿下がこちらにおられると知っていれば、あのような真似は致しませなんだものを」

「殿下?」


 魔導士の言葉を聞きとがめた、ヘレーネが訝しそうに見てくる。

 ザミーンの『氷姫』は舌打ちするところをあやうくこらえた。


「何を言っているのか分からぬが、私はそのような者では無い」


 そう言いながら目配せしようとするが、相手が平伏した状態とあってはどうしようも無い。


「何を仰せられます。あ、いや、ザミーン帝国の第三皇女たる御身に口答えするつもりなど、とうていありませぬが……」


 空気を読まない魔導士が、テレーゼの思惑をぶち壊した瞬間だった。


「な、何だって?」

「やはり、ザミーンの『氷姫』だったようね」


 目を剥くヘレーネの隣に、黒髪の宮廷魔導士も降り立って言った。

 その時、丈の長い衣服の裾が捲れ上がり、シンゴの位置から白いお尻が見えてしまっていた。

 思わず前屈みになるシンゴだった。


「ともかく、一刻も早く、この場から逃げて下さりませ。ほどなく、アレがやってきます」


 魔導士は、一向に周囲の空気を読まずに、平伏したまま訴えた。


「アレ? 曖昧な言い方ではわからぬ。あー、面を上げよ。これでは、まともな話もできぬ」


 テレーゼが苛立たしげに言うのへ、ようやくに頭を上げた魔導士は、次の瞬間、その年齢不詳の顔を引きつらせた。


「なんと、魔導圏が拡大した? 魔獣が全てやられた事を感知したか」


 ソニアも、自身の肌を覆う魔紋の輝きが弱まっていくのを見て、焦ったように言う。


「魔導圏? 《空魔》並み、いえ、ひょっとしたら、それ以上だわ」


 さしもの『氷姫』もしびれを切らしたように叫んだ。


「とにかく、まずは詳しい事情を説明しろ。話はそれからだ」



         ◇



 分析官の説明を聞いた一同は、困惑の中にあった。


「属性変換か。《クワポリガ》がそのような。信じられん」


 テレーゼが唸ると、ソニアが首を振りながら言った。


「いいえ、事実よ。それならば、この異常な魔導圏も納得がいくわ。そう、理に反した属性変換ね」

「魔法の事は詳しく無いが、理に反した属性変換て、邪法とか外法の類いじゃなかったか」


 ヘレーネが首を傾げてそう言うと、黒髪の魔導士はうなずいた。


「そうよ。本来は、神々のいまわす、この東大陸ではあり得ない話だわ。だけど、そういう事情ならフレア神の言っていた事もわかる。魔導を国家同士の争いに使う以上は、こんな事態があっても神々の救済はあり得ない」

「ともかく、今の《クワポリガ》は制御を離れた状態のようです。ここへ来るとなれば、分析官の言う通り、一刻も早く逃げなければなりません」


 クラウスと言う娘がテレーゼに避難を訴える。

 だが、テレーゼは首を横に振った。


「エマを置いて逃げると言うわけにもいくまい。それに、水と食料を得るにはローセンダールの首都に戻らねばならん。そこが暴走した《クワポリガ》の攻撃目標とあっては、とうてい逃げ切れまい」


 一人、話についていけず、蚊帳の外におかれた格好になったシンゴはチルに尋ねてみた。


「何の話だかわかる?」

『否定。理解不可能な用語タームがあります。解析不能』


 魔導や神々と言う概念に、全く縁の無い人工知能は、当然の回答を返した。

 そして、チルにはそれよりも優先度の高い報告があった。


『UA‐03G、六時の方向、約二〇キロまで接近しました。その座標から現在位置まで地形上の障害は認められません。重力制御による移動を陸上移動に変更する旨を進言します』

「よし。重力制御を通常設定に変更の上、《ガリア・キャリア》形態へ移行。現在位置への到着を最優先だ」

『命令受領。《ガリア・キャリア》への移行を確認。現在位置まで約五分前後で到着するもの推測します」


 そのチルの言葉から、さほどの時間を置かず、南の方角から地響きを立てて接近するものがあった。

 シンゴを除く人々が、ぎょっとしたように、こちらへ向かってくる「それ」を見つめた。


「な、なんだ? あれ」


 ヘレーネが震える声で指さす先に、陸戦型BMRが変形した超巨大トレーラーの姿があった。

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