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アンテイムド・モンキーズ  作者: jonathan
北の国『カイド』
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蜘蛛

 ソフィアの部屋へと虫を退治するべく向かった雄介。そしてそのまま浴室へと入る。

 ここの浴室はユニットバスとなっていた。トイレットペーパーのホルダーもしっかり付いているし、トイレも水洗式だ。

 よくよく考えてみるとシャワーなどの設備がある時点で、この世界の生活水準は元の世界に近いものがある。さすがに車などは無いが、暮らしていく上で困ることは少なそうだ。


 そして雄介は件の虫を発見、よりにもよって湯船の中にその虫はいた。


(うわぁお……こいつは……)


 雄介が思っていたよりもその虫は気持ち悪かった。長さ30センチの巨大な毛虫、といったところか。

 さすがにこれを処理するのは躊躇われる。そう思いソフィアの方をチラリと見た。


 ソフィアは頬を上気させ、期待の眼差しで雄介の方を見つめている。その姿はとても愛らしく、雄介は困ってしまった。


(……クソッ! 可愛い……)


 覚悟を決めた雄介はトイレットペーパーを何枚も手に巻きつけ、その虫を掴む。そしてそのまま部屋の窓から投げ捨てた。鳥肌がすごかったが、格好悪いところを見せるわけには行かない、雄介は努めて冷静を装った。


「さて、これでとりあえず大丈夫だろ。んじゃ部屋に戻るから、お前も終わったら俺の部屋に来てくれ」

「うん……。ごめんね。ありがとう」


 雄介は部屋に戻りシャワーを浴びることにした。ちなみに妖精は基本的に老廃物が体から排出されないため、体を洗う必要が無い。水浴びはただ気持ち良いからやっているとのことで、今は遠慮しておくらしい。


 そしてシャワーを浴び終え十分ほど待っていると少し濡れた髪のソフィアが部屋にやってくる。


「なんだ。しっかり髪の毛乾かしてくればよかったのに、ドライヤーあったろ?」

「風邪ひくぞい?」


 二人がそう言うと、ソフィアは申し訳無さそうな表情を浮かべながら答えた。


「いや……また迷惑かけちゃったし、あんまり待たせるわけにも行かないかなって」 

「またそういうこと言って……まあ髪短いしすぐ乾くか、んじゃ行こう」


 雄介はゴンザレスを再びポケットに入れ、宿屋と併設しているレストランへと向かった。この世界ではアルコールは16歳から飲めるらしい。

 しかしソフィアが明日の試験に支障が出るといけないということで飲まないと言い出し、一人で飲むのも気が引けるので雄介もやめておいた。


「それじゃ、本日無事試験を突破できたお祝いと明日の合格祈願ということで、乾杯!」

「乾杯!」


 雄介とソフィアはジュースの入ったグラスを合わせ、一口飲む。それから他愛も無い会話をしつつ、運ばれて来た料理を口にしていく。


「ってかソフィアって16歳だったのか、今年で17か?」

「うん。今年の九月で17歳だよ」

「それじゃ同い年だったんだな。いやー自分のこと僕って言ってるし、ちっちゃいから年下の男の子かと思ってた」

「ちっちゃいって言うな! でもそうか……男に見えたか……」


 ちっちゃい、という発言にツッコミを入れつつ、どこかソフィアは嬉しそうだ。雄介は理由を尋ねてみることにした。


「なんだ? 男に見られるってのが嬉しいのか?」

「……騎士になりたいって言うと、大体周りが女が騎士になれるわけ無いって馬鹿にしてきてさ、悔しかったんだ。それから自分のことを僕って言うようにしたし、言動も男っぽく振舞ったり……」

「悲鳴はやたら可愛かったけどな」


 雄介がそうツッコミを入れると、ソフィアの顔はどんどん赤くなっていった。


「うるさい! 大体、あれは君が……」

「んー? 俺が? なんだって言うのかな? 勝手に裸で部屋に入って来たのは誰だったかなー?」


 そう意地悪く言うと、ソフィアはクッ、と言葉を引っ込める。そして言い返せなくなってしまったため、話題を元に戻す。


「とにかく! 家が貧乏だったし尚更バカにされたんだ。だから努力が実を結んだ感じがして嬉しかったのさ」


 そのソフィアの言葉に、雄介はどこか引っかかりを覚えて問いかけた。


「家が貧乏だったにしては羽振りがいいじゃねえか。それにお前の持ってた剣、この世界の相場は俺にはわからねえが結構良い物に見えたぞ?」


 雄介の頭の中で様々なストーリーが展開される。

 きっと、親父さんが小さい頃からソフィアのために密かに貯めておいた貯金を……。いや、ソフィアが小さいながらも働きに出てコツコツと貯めた金で……。などと妄想しているとソフィアが口を開く。


「ああ。宝クジが当たったんだ」

「クソッ! ぶち壊しだ! この世界の住人は現実感に溢れてやがる!」


 もう少し感動的なエピソードを期待していた雄介は、宝クジって……などとぼやきながら料理を平らげていく。


 そしてどうしても気になっていたことを思い出し、ソフィアへと問いかける。


「なあソフィア」

「なんだい?」

「お前のその胸ってどうなってんの? やっぱサラシ? 普段ペタンコじゃん」

「……そうだね。普段はサラシを巻いている。いざって時胸が揺れて闘いにくいんだ。寝る時は外しているけど」


 若干軽蔑されている気がするが雄介は気にしないことにした。

 

 最後にデザートの果物を注文し、こっそりゴンザレスに分け与えながらそれを食べ終わると、会計を済ませそれぞれの部屋へと戻る。

 疲労がピークに達していた雄介はアラームを十一時に設定した後、そのままベッドに倒れ込み深い眠りに就いた。


 そして次の日の朝、雄介はきっかり十一時に起き、顔を洗い歯を磨いた後、ソフィアの部屋へと向かう。


「おーい! ソフィア!」


 コンコンと何度もノックをするが、一向にソフィアが呼びかけに応じる気配は無い。


「くそ、あいつやっぱり寝てるな、そろそろ起きないと遅刻だってのに」


 雄介は一旦自分の部屋に戻り、窓を開ける。


「ゴンちゃん、あいつのことだから窓の鍵までは閉めてないと思うんだ。窓から侵入して叩き起こしてくれ」

「了解じゃ。しかし、この分だと騎士になってからが思いやられるわい」


 溜め息を一つ吐いた後、羽で空を飛びソフィアの窓から侵入を試みるゴンザレス。予想通り窓には鍵がかかっていなかった。


「んー……もう食べられないよ……むにゃむにゃ」

「ベタ過ぎるじゃろ……逆にこんなこと寝言で言うやつ初めて見たわい」


 そうツッコミを入れた後、ゴンザレスはソフィアを起こすべく魔法を発動させる。


「『トルネード』」


 その魔法で小さな竜巻が部屋に発生した。その竜巻はソフィアを吹っ飛ばし、壁へと叩きつける。


「どうじゃ? 起きたか?」


 雄介の言葉通り叩き起こしたゴンザレスにソフィアは恨みがましい眼差しを送っていた。


「もうちょっと普通に起こしてよ!」

「ええからさっさと準備せい。遅刻するぞい」


 そう言われてソフィアは不満気な表情をしながらも、準備を始めた。ゴンザレスはそれを確認すると、雄介の所へと戻る。


 雄介とゴンザレスが部屋の前で待っていると、十分程度でソフィアが出てきた。ゴンザレスをまたポケットに入れ、再び雄介はソフィアを訓練場へと連れていくことにした。

 ソフィアがしつこく案内は必要無いと言っていたが、全て無視した。そして無事に時間前に訓練場へと辿り着き、ソフィアを送り出す。


「そんじゃ今日も頑張れよ」

「……」


 雄介が言葉をかけたのだが、ソフィアは俯き、何も言おうとしない。


「どうしたよ? なんで黙ってるんだ?」


 そう問いかけると、ソフィアは顔を上げる。


「実は今日の試験で合格すると、そのまま騎士団の宿舎に入ることになるんだ。だから君達とはここでお別れなんだ」


 これから夢が叶うかもしれないのに、そう言うソフィアの表情はどこか寂しそうだ。


「君達には本当に世話になった。短い間だったけど、楽しかったよ。ありがとう」

「ああ、こちらこそ楽しかった。またどこかで会えたらいいな」

「うん……。それじゃ、またね!」


 ソフィアは手を振って歩いて行った。門の前の騎士に話しかけ、中へと通されていくソフィア。

 感動の場面だが、雄介は腕組みしながらニヤニヤしていた。


(ま、この後も楽しませてもらうぜ)


 雄介は絶影を発動し、透明になる。ゴンザレスに魔法をかけてもらい、宙を浮きながら移動を開始した。


 昨日と同じく、グラウンドの中央に志望者達は集まっていた。五十人程度だろうか。しばらく待っていると、試験監督のライアンが姿を見せた。


「それではこれから実戦試験を行う。この試験は王都近くの森まで馬で移動し、生息している魔物と実際に戦ってもらう。五つの班に別れ、魔物を十体以上討伐できた班は合格とする」


 めったに人里へは姿を現さないのだが、王都ポロサッツの近くにも魔物は生息している。

 事前に決められていた班に分かれた後、騎士志望者達と、ライアン達試験官勢は馬に乗り移動を始めた。それを雄介達も追いかける。


 馬で飛ばすこと三十分。森に到着した一行は、木に馬を繋ぎ止め、森の中へと入っていく。雄介達もそれに続く。


 森に入ってすぐに、班ごとに分かれて行動を開始した。ソフィアの班はソフィア以外全員男だ。というか志望者に女はソフィア一人だった。


「おい、近すぎやせんか?バレたら面倒じゃぞ?」

「あんな美女を目の前にして、男達が発情したらどうすんだよ? まあ俺が全員消し炭にするけどね」


 コソコソと小声でやり取りをする雄介とゴンザレスだが、二人はソフィアの真後ろに陣取っていた。距離は3メートルほどしか無い。

 ソフィア達の班は合計十二人で、一班に二人ずつ付いている試験官を先頭に、他の男達が続き、ソフィアは最後尾にいた。雄介にとっては好都合である。


 しばし歩いていると、一体目の魔物が姿を現す。ソフィアは飛び掛かろうとしたが、他の志望者に先を越されてしまう。

 試験官は手を出さないとしても、ソフィアの他に九人もいるのだ。なかなか出番は回ってこないだろう。まあ班の討伐数の合計で合格が決まるのでなんら問題は無いのだが、ソフィアはうずうずしていた。

 

 最初の一体を皮切りに、次々と魔物が現れる。討伐数は簡単に十を超え、志望者達は合格を喜んだ。


 しかし、試験官の一人が訝しげな顔で言い出す。


「おかしいな……多すぎる。ここの魔物は比較的臆病な性格をしている。こんな頻度で襲い掛かられるなんて妙だ」


 それを聞いていた雄介とゴンザレスは小声で会話を始める。


「フラグだ。フラグ立てやがったよこの野郎」

「うぬ……ワシの敵探知にも何か引っかかっておるんじゃが……」

「じゃが?」

「気配がボヤけているというか、何か他の魔物とは違うものを感じるんじゃ」

 

 そして案の定遠くから悲鳴が聞こえてきた。ソフィア達の班はそれを聞きつけ、悲鳴の聞こえた方へと走る。距離はそこそこ離れていたようで、なかなか辿り着かない。

 走り続けること二十分。ようやくソフィア達の班はそこに辿り着いた。


「なんだ……これは……」


 そこには瀕死の騎士志望者達と試験官達、そして巨大な魔物と交戦中のライアンがいた。辺りの木は薙ぎ払われ、その周辺だけやけに拓けている。あれだけ大量に発生していた他の魔物もその場には一体もいなかった。

 

 その魔物は蜘蛛のような体に、人に近い顔がくっ付いていた。もっとも、鼻や耳などは人間の物だが、目が四つあり、やたら牙が鋭い。

 脚の先も刃のように鋭く、全体的な色合いは紫とかなり毒々しい。目は赤くギラついており、目を合わせると呪われそうだった。


 瀕死の人間はざっと見て四十人以上いる。つまりソフィアの班以外は既に全滅した、ということだ。初めに悲鳴が聞こえてからそう時間は経っていない。

 初めは一つの班が襲われ、その後駆けつけた他の班が全滅したのだろうが、早すぎる。ライアンだけが奮闘し、時間を稼いでいたのだろう、かなり消耗しているようで、あまり長くは持たなそうだ。


 すかさず加勢に入るソフィアの班員達、だがライアンから制止の声が飛ぶ。


「だめだ! 来るな!」


 しかし最後尾のソフィア以外は、既に魔物の射程圏内に入ってしまっていた。その瞬間、魔物はフシューと荒い息を吐き、その脚を伸ばした。蜘蛛の脚がソフィアの班員達を全員薙ぎ払う。

 見た目ではまだ距離に余裕はあったのだが、この魔物の脚は伸縮自在、それでいてかなりの硬度を誇っていた。凄まじい勢いで弾き飛ばされ、その後立ち上がれる者は誰もいなかった。


「う……嘘……」


 あっという間に自分以外が全滅してしまったという事実を受け入れられないソフィア。そしてその場にへたり込んでしまう。


「何をやっている! 君だけでも早く逃げるんだ!」


 ライアンの叫ぶ声はソフィアには届かない。恐怖で完全にパニックに陥っていた。そしてソフィアに気を取られてしまった、そんな一瞬の隙を魔物は見落とさなかった。


「……!? し、しまっ……!!」

 

 ライアンは魔物の脚の直撃を受け、吹き飛ばされる。木に叩きつけられ、グッタリと倒れ込んでしまった。息はあるようだが内臓などが破裂している可能性が高い。急がなければ手遅れになってしまいそうだ。


 ライアンが木に叩きつけられる轟音で、ハッと我に返り、辺りを見回す。そしてソフィアは絶望した。この場に残っているのは自分だけ、その現状がソフィアに重く圧し掛かる。

 魔物はソフィアの方をギロリと見た。今にも襲いかかって来そうな殺気に溢れたその瞳にソフィアは萎縮し、ハラリと涙を流した。


「ころ……される……。嫌だ……いや……」


 震えが止まらない。逃げたくても足が言うことを聞いてくれなかった。このまま自分は死ぬのだろうか、そんな考えが頭を支配する。


「嫌だ……いやだいやだいやだいやだ!!!」


 ソフィアは子どもの様に泣き叫ぶ。無理も無い、彼女はまだ実戦の経験も無い十六歳の女の子だ。死の恐怖と直面し、冷静ではいられなかった。そして魔物はそのソフィアの声に刺激されたように、こちらへ近づいてくる。


「嫌だ……誰か助けてよ……父さん……!」


 ふとソフィアの脳裏に、あの少年の姿が浮かぶ。


「……ユースケ……」

「呼んだ?」


 後ろを振り向き、驚愕するソフィア。そこにはここにいるはずの無い少年と、おじいちゃんのようなヘンテコな格好をした妖精がいた。


「やぁお嬢ちゃん! 泣き顔もキュートやけど、ワイやっぱ笑顔の方が可愛いと思うねん! 兄ちゃんが笑かしたるさかい、待っとって!」

「それ一体どこの言葉なんじゃ? なんとなくは伝わったが……」


 二人は前に出る。呆気に取られるソフィアを庇うようにして立ち、雄介は魔物に向かってビシっと指を指し、宣言した。


「こういうの嫌いだって言ってんだろ!! こっからお前の存在をギャグに変えてやるよ!!」


 





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