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光の姫巫女  作者: 水月華
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act.10




 クロスティア王国が抱える騎士隊と魔導師団は、“クロスティアの双璧”と謳われるほどの実力を誇っている。かつて敵対していたロードレイド王国との大戦では、見事に国を守り切った上、大きな功績を上げたと伝えられているが、それから五年経った今でも“クロスティアの双璧”は健在である。

 特筆すべきは、騎士隊を総括するオーヴィス・リュオルンと、魔導師団を纏め上げるエルフィナ・ファイード。

 オーヴィス・リュオルンは二十九歳という若さながら、並外れた剣の腕前と真面目で誠実な人柄ゆえに入隊から数年で騎士隊長にまでのしあがった実力者である。訓練は厳しいものの周囲からの人望は厚く、騎士の模範のような人物とまで言われているほどだ。

 一方のエルフィナ・ファイードは、女性として初の魔導師団長として名を轟かせている強者である。クロスティア国内で一、二を争うと噂されるほどの美女であるが、浮ついた話はほとんどなく、聞こえてくることといえば「戦乱の鬼姫」の通り名にふさわしい逸話ばかり。その豪胆な性格と申し分ない実力から、彼女は陰で「女王様」と崇められているのだとか。

 騎士隊と魔導師団は、何か用事があったり特別なことが起きたりしない限りはほとんど関わりがない。それぞれが独立した機関ゆえに、関わる必要がないからだ。


 ――それなのに、いったいどうしてこんなことになってしまったのだろう。


「お前達っ!何をやってるんだい!さっさとあたしと子猫ちゃんのために席を用意しないか!」

「はっ、はいいいいっ!」

「は……はは……」


 呆然とする陽菜の目の前では、ローブを着込んだ魔導師達がバタバタと忙しなく室内を走り回っている。

 本当に何故こんなことになってしまったのだろう、と乾いた笑いを零しながら視線を少しだけ横にずらしてみると、そこには陽菜の肩を抱いたまま、魔導師達に一喝をくれてやった美しい女性がいた。腰まで流れるワインレッドの髪はさらさらで、長い睫毛に縁取られた同色の瞳は目の前の光景に向けられている。

 そう、彼女こそが“女王様”――エルフィナ・ファイードだった。


「……ん?どうしたんだい子猫ちゃん。あたしの顔に何かついてる?」


 陽菜の視線に気付いたのか、エルフィナが柔らかな微笑みを浮かべながらこちらを見下ろしてくる。

 陽菜はゆっくりと首を振り、心配そうな表情でエルフィナを見上げた。


「な、なんでもないです!……それより、魔導師さん達はいいんですか?突然な上に、ご迷惑じゃ」

「ああ、部下達(あいつら)のことは気にしなくったっていいんだよ。これも仕事のうちさ。それに、あんな野獣どもの巣窟にあんたを置いておきたくなかったしね」


 野獣どもの巣窟――エルフィナがそう表現したのは、つい先程まで陽菜が見学していた訓練場のことだ。休憩に入ったらオーヴィスと一緒に城に戻るという約束で見学を続けていたものの、訓練が長引いてしまったことでなかなかオーヴィスと合流できずにいた陽菜のところに、どさくさ紛れに数名の隊員がやってきたのである。理由は言わずもがな、珍しい訪問者である陽菜に興味があったからだ。

 向こうは悪気が無かったのかもしれないが、突然数名の男性に囲まれた陽菜は大いに戸惑ってしまい、彼らの興味津々な質問に当たり障りのない回答を返すのみ。

 そこへ現れたのが、エルフィナだった。騎士隊長に用事があったらしい彼女は、扉を開けてすぐにオーヴィスの居場所を陽菜を囲んでいた騎士に尋ねていたが、困惑した様子の陽菜に気付くと「怖がってる女の子によってたかって何をしてるんだい!」と烈火のごとく怒り出した。

 そして、有無を言わさず魔導師達が詰める「水月楼(すいげつろう)」へと陽菜を連れてきたのである。ちなみに、騎士達が詰める場所は「炎月楼(えんげつろう)」というらしい。


「そんなことより、大丈夫かい?怖かったろう?後で騎士隊長に文句言ってやらないとね。どんな躾してるんだって」

「そんな、大丈夫ですよ!突然で少しだけ驚いたけど、怖いわけではなかったし……それに、オーヴィスさんもいずれ交流することがあるだろうって言ってましたし。今度はもう少しちゃんとお話しできればいいなって思ってるくらいですから」

「そうかいそうかい、子猫ちゃんはいい子だねえ」


 しみじみと呟きながら、エルフィナは陽菜の頭を優しく撫でる。

 どうでもいいが、この世界の人達は頭を撫でるのが好きなのだろうか。


(いや、私は撫でられるの好きだから別にいいんだけどさ!ぶっちゃけ子供扱いされてるような気もしないでもないけどさ!)


 いったい自分はいくつに見られているんだろうか、と思ったが今は口にしないでおいた。

 エルフィナは何故か陽菜のことを“子猫ちゃん”と呼ぶし、日本人は若く見られやすいと聞く。

 嫌な予感しかしなかった。


「騎士隊の訓練が終わり次第、隊長があんたを迎えに来るだろう。それまではここで休んでおいき。狭いところだが、あんた一人増えたところで邪魔にはならないさ。そうだろう?お前達!」

「はいっ!もちろんですっ!」


 何人かの魔導師が口を揃えてそう答える。

 女王様とその従者達、と表現したほうがしっくりくる光景に、陽菜はひくりと頬を引き攣らせた。

 魔導師団の中にはエルフィナに心酔している者が多々見受けられると耳にしたが、この場にいる彼らはきっとそれなのだろう。宰相でもあり魔導師でもあるリードや他の魔導師は普通なはずなのに、と陽菜は内心考えた。


 陽菜とエルフィナのために急遽用意された椅子に座ると同時に、温かい紅茶が運ばれてくる。

 しかし、それを受け取ってすぐ、陽菜達がいる水月楼の一室にノックの音がこだました。


「おや、予想以上に早かったじゃないか。まったく、お茶の一杯くらい飲ませてくれてもいいだろうに――開いてるよ。入りな」


 どこか不満そうな響きを滲ませながら、エルフィナが入室の許可を出す。

 間もなく、「失礼する」という台詞とともにオーヴィスが部屋に入ってきた。


「オーヴィスさん!?」


 目を丸くして驚愕の声を上げる陽菜の姿を認めたのか、オーヴィスは真っ直ぐにこちらに歩み寄ってきた。


「遅くなってすまない」

「いやいや、遅くなったなんてそんな……それより、訓練はもう終わったんですか?」


 ティーカップをテーブルに戻し、陽菜はオーヴィスの方に身体ごと向ける。

 オーヴィスは苦笑交じりに「ああ」と頷いた。


「師団長(エルフィナ)が君を連れていったと聞いてね。あとは各自訓練に励んでもらっているよ。ああ、君に迷惑をかけた者達にはしっかりと灸を添えてきた。私がいながら、申し訳ないことをした。本当にすまなかった」


 そう言って頭を下げるオーヴィスに、陽菜は慌てたように立ち上がった。


「ちょっ、そんな、謝らないでください!オーヴィスさんは悪くありませんから!というか、私に声をかけてくれた人達も悪くないですし……と、とりあえず頭を上げてください!」


 オーヴィスに駆け寄り、陽菜は懇願するような眼差しで彼の片腕に触れる。

 落ち着かなすぎて、とにかく一刻も早く顔を上げて欲しかったが為の行動だったのだが、陽菜の言葉通りに姿勢を正したオーヴィスはどこかうろたえたように視線を彷徨わせていた。心なしか、頬に赤みが差しているように思われる。

 けれどそれも一瞬の出来事で、オーヴィスは陽菜が変化に気付く前に、表情を元に戻した。


「あっはっはっは!“白銀の獅子”にもかわいいところがあったんだねえ!」


 表情の変化を目ざとく見つけたエルフィナが、おかしそうに笑い出した。

 陽菜は何のことかわからず傍らのオーヴィスを見上げるも、彼は押し黙ったまま何も答えない。

 続いてエルフィナに視線を移すが、彼女も意味深な笑みを浮かべるだけで答えようとはしなかった。


(……?なんだろ?)


 疑問に思ったが、オーヴィスもエルフィナも教えてくれそうにないのでそれ以上追及しないでおく。代わりに、別の質問をぶつけることにした。


「白銀の獅子、ってなんですか?」

「あれ、子猫ちゃんは知らなかったのかい?そこにいる隊長サマの通り名ってやつだよ」

「そう呼ばれる謂(いわ)れは特にないのだがね」

「国王に剣の腕前を認められる程の男が何を言ってるんだい!」


 嫌味か、と毒づくエルフィナに、オーヴィスは苦笑いを浮かべる。

 エルフィナは腕組みをしながらふん、と鼻を鳴らした。


「まったく、男共ときたらどいつもこいつも。やっと見つけたあたしの癒しを横から掻っ攫っていく奴もいるし」

「さっさと迎えに来いと怒鳴って去ったのは君だろう。それに、彼女は君の所有物ではない」

「ああ、わかっているよ、まったく小煩い男だね。……陽菜、あんたもそんな男にいつまでも引っ付いてないで、何か言っておやり」

「えっ、引っ付いてなんか――――うひゃあ!?」


 一瞬何を言われているか理解できなかった陽菜だったが、すぐにエルフィナの言いたいことがわかって赤面した。


(うわわわ、オーヴィスさんの腕掴んだままだった――!)


 陽菜は慌ててオーヴィスから距離をとった。


「ご、ごめんなさいっ!」

「いや……」


 オーヴィスは陽菜の謝罪に短く返すのみで、迷惑そうな素振(そぶ)りは微塵も感じられなかった。

 陽菜はそれをオーヴィスの気遣いだと勝手に解釈する。


(今日が初対面だっていうのに、馴れ馴れしかったよね!?はしたない女だって思われてないといいけど……)


 そんな陽菜の心配をよそに、話は進んでいく。


「話を戻すがエルフィナ、君の要件を聞こう。師団長自ら出向いてまで伝えなければならなかった重要な話なのだろう?」


 オーヴィスが真剣な表情で切り出すと、エルフィナは曖昧に笑って立ち上がった。


「ああ、そのことなんだけれどね。あんたと陽菜が来たことでほとんど解決してしまっているようなもんなんだよ」

「……どういうことだ?」


 エルフィナは胡乱げに聞き返すオーヴィスをちらりと見やり、次いで陽菜に視線を移す。

 何故ここで自分を見るのかと陽菜は内心首を傾げたが、黙ったままエルフィナの次の言葉を待つことにした。


「あたしに下された命令は二つ。ひとつめは、陛下の客人である陽菜を陛下の御前に連れて行くこと」

「ええっ!?」


 思わず声を上げる陽菜に、エルフィナが微笑みかける。


「何を驚くことがあるんだい?確かに急すぎる話だけど、あんたは陛下の客人なんだろう?」

「そ、そうですけど。でもどうして突然呼ばれてしまったんでしょうか」

「さてね。あたしもそこまでは知らされていないから」


 エルフィナは肩をすくめると、テーブルの上の紅茶を一気に飲み干した。

 そしてティーカップを静かにテーブルに置き、続けた。


「そしてふたつめ。騎士隊長オーヴィスに、陛下の命を伝えること」


 こつん、とエルフィナの靴が床を蹴る音が響く。

 エルフィナはオーヴィスを真っ直ぐに見据え、口を開いた。 


「次の夜会までの一か月間。騎士隊長オーヴィス・リュオルンを陽菜の護衛として命ず――――だとさ。あたしは確かに伝えたよ。詳細は後で陛下に聞くといいさ」


 陽菜の隣で、オーヴィスが息を呑む気配がした。

ちょっとずつ話が動いてるかな?といったところでしょうか。

オーヴィスの出番が多い気がしますがきっと気のせいですね。


エルフィナは姉御キャラです。美人なおねーさまです。

主人公は何故か気に入られてしまったみたいですね。

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