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最終話 追放された回復師、世界最強の仲間たちと笑う


魔王討伐から三日後。

王都は、かつてないほどの歓声に包まれていた。

魔王を討ち、世界を救った冒険者パーティ。


その名は――『黎明の勇者たち』


剣士、魔術師、弓使い、そして彼らを支え続けた回復師。

リーダーを務めるのは、かつて所属していたパーティから無能と罵られ、追放された男、レオンだった。


「勇者様! どうかこちらを向いてください!」


「魔王を倒した英雄に万歳!」


民衆の歓声に、レオンは少し困ったように笑った。


「俺一人の力じゃありません。ここにいる仲間たちがいたから、勝てたんです」


隣に立つ仲間たちが、誇らしげに笑う。

彼らもまた、かつては仲間から見捨てられ、自分の居場所を失った者たちだった。

しかし今では、誰もが認める世界最高の冒険者である。


「それにしても、まさか俺たちが勇者パーティなんて呼ばれる日が来るとはな」


戦士ドランが笑う。


「誰かさんが、私の魔力切れを一瞬で治してくれたおかげですわね」


魔術師のフィーネが、レオンの肩を軽く叩いた。


「おいおい。俺だって、レオンに助けられたんだぜ」


弓使いのエルナも微笑む。

レオンは照れくさそうに頭をかいた。 


ーーかつて、彼の回復魔法を軽視する者は大勢いた。


傷を治すだけの男。

攻撃魔法も使えない役立たず。

そんな言葉を投げつけられたことも、一度や二度ではない。


けれど、彼は知っていた。

仲間が傷つけば、どんな強敵にも立ち向かえなくなる。

毒に侵されれば、どれほど優れた剣士も倒れる。

魔力が尽きれば、どれほど強大な魔術師も無力になる。

だからこそ、誰かを守る力には価値がある。

そして、その力を認めてくれる仲間たちが、今はここにいる。

レオンは心から思った。


――あの日、追放されてよかったのかもしれない。

もちろん、あのときの苦しみを忘れたわけではない。

だが、あの追放がなければ、目の前の仲間たちと出会うこともなかったのだから。


     ◇


一方、その頃。

王都から遠く離れた辺境の町に、かつてレオンを追放した冒険者たちの姿があった。

彼らは今、酒場の片隅で肩を落としていた。

かつては名の知れた冒険者パーティだった。


しかし、レオンを追放してからというもの、彼らの運命は転落の一途をたどった。

傷を負っても、以前のようにすぐには回復しない。

毒に侵されれば、治療薬を探して何日も苦しむ。

魔物との戦いでは、誰かが負傷するたびに陣形が崩れ、依頼の失敗を繰り返した。

それでも彼らは、自分たちの過ちを認めようとしなかった。 


「あいつが悪いんだ……!」


酒杯を握りしめる。


「あいつさえ戻ってくれば、俺たちはまた一流に戻れる!」


だが、酒場の客たちは冷たい視線を向けた。


「何を言ってるんだ?」


「勇者パーティを追放した連中って、お前らのことか?」


「世界を救った英雄を無能扱いしたって話、本当だったんだな」


嘲笑が響く。

ゼノは立ち上がり、怒鳴った。


「違う! あいつは俺たちの仲間だったんだ! 俺たちが育ててやったんだぞ!」


その言葉に、酒場の老人が鼻で笑った。


「育てた? お前さんたちが捨てたんだろう」


ガルドは言葉を失った。


「本当に優れた人間ってのはな、自分を支えてくれる者の価値を知っているもんだ。お前さんたちは、それがわからなかった。それだけのことさ」


誰も反論しなかった。

彼らはもう、かつての栄光を取り戻すことはできないだろう。

自分たちが何を失ったのか。

それを理解したときには、もう遅かったのだ。


     ◇


その夜。

王都の城壁の上で、レオンは仲間たちと星空を眺めていた。 


「これから、どうするつもり?」


フィーネが尋ねた。


「そうだな……」


レオンは夜空を見上げた。

魔王は倒れた。

人々は平和を取り戻した。

勇者として称号を授かり、王宮からは爵位や莫大な報酬まで提示されている。

けれど、彼が望んでいたものは、そんなものではなかった。


「俺は、これからも回復師を続けたい」


「回復師を?」


フィーネが目を丸くする。


「ああ。傷ついた冒険者を助けたい。俺たちみたいに、仲間から見捨てられた人間にも、もう一度チャンスを与えられる場所を作りたいんだ」


レオンは仲間たちを振り返った。


「誰かに才能がないって言われたからって、本当に価値がないわけじゃない。俺は、それをみんなに伝えたい」


しばらくの沈黙のあと、ドランが豪快に笑った。


「だったら、俺たちも一緒にやるに決まってるだろ!」


「当然ですわ。あなた一人に任せたら、無理をして倒れるに決まっていますもの」


フィーネが呆れたように言う。


「回復師が自分の健康管理もできないんじゃ、話にならないからな!」


エルナも笑った。

レオンは目を見開き、それからゆっくりと笑顔になった。


「……ありがとう。みんな」


彼らは肩を並べ、星空を見上げた。

明日からも、きっと新しい困難が待っている。

誰かが傷つき、誰かが悩み、時には道を間違えることもあるだろう。


ーーそれでも、もう一人ではない。

互いの弱さを知り、互いの強さを認め合える仲間がいる。

それだけで、どんな困難にも立ち向かえる気がした。

やがて彼らは、王都の片隅に小さな冒険者支援所を開いた。


そこには、実力を正当に評価されなかった者や、仲間から追放された者たちが次々と訪れるようになった。

レオンは彼ら一人ひとりと向き合い、その才能を見極め、必要な力を授けていった。

そして、彼らの中からも、やがて歴史に名を残す冒険者たちが生まれていくことになる。

いつしか人々は、レオンのことをこう呼ぶようになった。


『世界を救った回復師』


そしてもう一つ。


**『追放された者たちに、第二の人生を与えた英雄』**と。


レオンは今日も、傷ついた冒険者に手を差し伸べる。


「大丈夫。まだ終わりじゃない」


温かな光が、彼の手からあふれ出す。


「ここから、もう一度始めよう」


その言葉に、かつての自分と同じように絶望していた冒険者が、涙を浮かべてうなずいた。

レオンは微笑む。

かつて自分を追放した者たちは、彼の価値に気づかなかった。

けれど今、彼の周りには、自分の価値を認めてくれる仲間たちがいる。

それこそが、彼が手に入れた最高の宝物だった。

そして今日もまた、新しい冒険が始まる。


――追放された回復師の物語は、ここで一つの終わりを迎えた。

けれど、彼が救う未来は、まだ始まったばかりだった。


ーfinー

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