第三十一話 何かお悩みですか?
次の日、フェルメ王国第四王子ウィークの死亡が伝えられた。
その事に誰もレオが驚いていないのは、こうなることを予想していたからだ。
――王の秘密を勝手に聞かされた俺らも始末されるかと思ったが、流石に四人を一度にヤルことはしなかったか……。
ウィークを始末したのは、間違いなくカウケマール王だ。
父親の不調を知り、心配するどころか王位を簒奪する為の仲間集めをした息子を許せなかったらしい。
そのあおりを受けて、ウィークの傘下に入っていた弟王子の数名も姿が見えない。
既に、この世のものではないのだろう。
ただ、レオにとって幸いだったのは、何故不調に陥っているのかというところまでウィークが突っ込まなかったところだ。
その原因までペラペラ喋られていたら、レオもラットも、ルーゲンすら始末されていたかもしれない。
レオは、実は何故カウケマール王の元気が無くなったのか知っている。
先ず第一に、プラタの血を飲めなくなったからだ。
本人から聞くところによると、彼の血は薬であり毒。
常時飲み続けられれば良いが、それが止まると、強制的に若返らせていた体が急速に老いるという。
そして、第二の原因が戦況が劣勢に立たされたことによる精神的ストレスだ。
今まで他国を好き勝手に蹂躙してきた彼だが、今度は広げ過ぎた領土を御しきれず、あちらこちらで反乱がおきている。
それなのに、まだ領土を広げようと同盟まで組んだ。
膨れ上がった国は、突けば足元から崩れるほど危ういものになっている。
――そろそろ、内部でも何か起こるとは思っていたが、いとも簡単に息子の命を刈るとか、親のすることじゃないよな。
転生して以来、レオは母シャルティから溢れんばかりの愛を注がれている。
毎日毎日飽きもせず、抱きしめてくれる小柄な彼女は、我が子の為なら命すら投げ出すだろう。
――そろそろ、母上達を安全な場所に移さないとな。
ノームに世話を頼んだ孤児達の一部は、既に国外に出て新しい生活拠点を築き始めている。
このフェルメ王国が瓦解した後は、全員がそちらに移動する予定にしていた。
その場所は、シャルティが生まれ育った場所で、現在は、フェルメ王国の統治下だ。
本来なら敵地のど真ん中と同じなのだが、そこにある山は険しく、秘密の抜け道をする者以外入れないようになっている。
ノームの案内で先発隊が居を構えたのが二年前。現地に残る残党も引き入れたことで、かなりの数に膨れ上がってた。
「どうやって、ここを出るかが問題だな」
なにせ、母シャルティは、獣人の血を引いている者とは思えぬほど運動神経が死んでいる。
しかも、夜伽に呼ばれないようにする為に自ら足に大火傷を負ったことで、歩行に支障も出てきていた。
秘密裏に抜け出させるには、かなり危険を伴う事になるだろう。
「はぁ……参ったな」
つい弱音を吐いてしまったレオに、
「何かお悩みですか?」
と侍女のカメリアが声を掛けた。
「うわっ!びっくりした!」
全く存在を感知していなかったレオは、文字道理椅子から飛び上がって壁際に逃げた。
このカメリアという女は、レオをしても気配を察知できない所がある。
時々こんな風に驚かせて来るので、正直、常にチリンチリンと音を鳴らす鈴を付けておきたい人物でもある。
「いや……別になんでもない」
引きつった笑顔で返事をしたものの、カメリアの何もかも見透かしたような眼差しに、喉がカラカラになってくる。
「そうですか。それなら良いのですが。実は、後宮の人員を削減するという噂がありまして。そろそろ私達も危ないかと……」
気配を消すことが出来るカメリアは、あちらこちらに出向いては、色々な話を拾ってくる。
その手腕は、王家の監視員の上を行くほどだ。
噂とは言っているが、ほぼ確定事項なのだろう。
なにせ、膨れ上がった後宮は人であふれかえっており、年老いた側妃など、カウケマールにとっては家畜以下の価値しかない。
そして、戦に金を使い過ぎたフェルメ王国には、巨大化した後宮を支えるだけの資金源がないのだ。
「削減って、まさか」
「はい。廃棄と言っても良いでしょう」
結局は、殺すという事だ。
死人に口なし。
側妃達が偶然知りえた情報までも、全て闇に葬り去るつもりなのだろう。
「ったく、次から次へと」
レオは、右手でこめかみを押さえた。頭の痛い話だが、もう、時間も然程残されていないようだった。




