第二話 頼まれたら断らないのが、私の信条
何百年と言う月日を経て現世に呼び出されてしまったレオパールは、赤子の姿で途方に暮れていた。
自分の横で決意に満ちた顔をしている母親には悪いが、出来れば使い古された名前を更に短縮したような命名は勘弁して欲しかった。
生まれた時から風前の灯火のような命。
それを守ってくれと言われても、正直、そんな力が自分にあるとは思えない。
――後世の人間が何を言ったかしらないが、私は、ただの盗人。期待をされても困る。
豹の獣人であったレオパールは、夜目が利くことを利用して悪党どもの財産を根こそぎ奪っていた。
周りは義賊だと囃し立てたが、盗みは盗み。犯罪者でしかない。
全身黒装束で身を包んで闇夜を駆ける姿は、正に黒豹といった美しさがあった。
そのため恋焦がれる者も多かったが、実態は、面白半分に友の飯に虫を入れるようなダメ人間である。
正直、崇め奉られるなど、ちゃんちゃらおかしい存在だった。
それがどこでどう間違ったのか、前世では突然「女王様」に祭り上げられた。
――あれは、アイツらが面白がって「女王様、鞭でぶって」とか悪ふざけしたから、変なことになったんだ。私のせいじゃない。
ダメ人間の周りに居たのもダメ人間だったというオチだ。
皆腕っぷしは強いが、癖の強い変わり者集団。
獣人族は種族に関係なく強い者に従う習性がある為、本来なら腕力で負ける女性のレオパールが統治者になることなどありえなかった。
だが、ある日、それを覆すことが起こってしまう。
彼女の友の中でも一番力の強い象族のパオンが、ちょっと性癖を拗らせていた。
強い女性が好きなのに、出会えないと嘆くのだ。
同属の女性でも、流石にパオンより強い者など存在しない。
そんな彼のために、仲間の一人が「一回だけ、夢を叶えてやればパオンも納得するだろう」とレオパールに鞭を持たせた。
何故そうなると流石の彼女も抵抗を試みたが、馬鹿な仲間が囃し立てたことで渋々一度形だけ鞭を振るうことになってしまった。
――決して、振り下ろしてはいない。ちょっと撫でてやっただけだ。
喜ぶパオンにドン引きしつつも、要望に応えてやったことが後々仇となってしまう。
「お前、この国の女王様になったんだってな」
「いや、違う。そういう意味じゃない」
正しくは「レオパールが、(パオンの望みを叶える為に、一回だけ)女王様になった」なのだが、情報が一部欠落したことでレオパールが女王様という噂が一気に広がった。
必死に弁明しようとした彼女だが、その微妙な内容を詳細に公表することが出来ない。
これは、パオン以上に、レオパールの名誉に傷がつく案件なのだ。
――誰も、訂正してくれないんだもんな。皆、きっと王様とか面倒くさかったんだろうな。
こうして、少々お人好しで頼まれると嫌と言えない性格が災いし、レオパールは、女王様(仮)へと担ぎ上げられ、自国をそこそこの大国にしてしまった。
しかし、何世代も経った今、もっと大きな大国に目を付けられ、結局滅亡させられたらしい。
――しかし……このまま負けっぱなしというのも癪だな。
彼女は超がつく負けず嫌いだった。
そして、勝つためには手段を択ばない悪辣さも持ち合わせていた。
レオパールは、正々堂々などと言う言葉は、上から目線の者が自己陶酔して吐く言葉だと思っている。
弱い者は、相手が能書きを垂れている間に急所を攻撃し、一気に片を付けなければ勝てるはずがないのだから。
忙しく歩き回る母を目で追いながら、レオパールは、先ずはどれだけ動けるのかを確かめるために、自分の小さな手を開いたり閉じたりしてみた。
なんとも頼りなく、柔らかで、悲しいほど壊れやすい。
――しかも、尻尾なしか……。
昔は自由自在に動く尾っぽを第三の手として自由自在に操ってきた。
しかし、いつのころからか混血が進んだことで、獣人の姿は、徐々に人と変わらなくなってしまった。
庇護のないこの後宮で、誰の助けも得られなければ、数日とて生き延びることは出来ないだろう。
――これは……困った。
自分の子孫が、このまま蹂躙されて死ぬなど許せることではない。
――仕方ない。頼まれたら断らないのが、私の信条だしな。
結局厄介ごとに巻き込まれやすい体質なのだろう。レオパールは、レオとして生きることを決めた。
そして、こうも思う。
――折角この世に戻ったんだ。どうせなら、全部奪い取ってやるのも面白いかもしれない。
これは、前世大盗賊だった元女王様が、祖国を滅亡させた国を丸っと全て盗んで魅せるお話。
戦後の苦しい時代を生きた人々に、勇気と夢を与えた男装王子レオの誕生だった。




