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あってもなくても変わらんプロローグ

 目を覚ますと、知らない天井があった。


「……どこだ、ここ」


 ベッドから身体を起こす。やけに柔らかい。

 布団も、枕も、何もかもが今まで使っていたものとは違う。


 いや、それ以前に。


「……なんでこんなに部屋が広いんだ?」


 天井には見たこともないほど大きなシャンデリア。壁には妙に高そうな絵画。

 窓には分厚いカーテン。そして、ベッドの横には銀色の鏡が置かれていた。


 俺は何となく、その鏡を覗き込んだ。


「……は?」


 知らない女がいた。

 長い黒髪。

 透き通るような肌。

 赤い瞳。


 どう見ても俺ではない。


「…………誰?」


 鏡の中の女も首を傾げた。

 当然だ。

 俺が首を傾げたから。


「……え?」


 もう一度、鏡を見る。

 女。

 俺を見る。

 俺も女を見る。


「…………」


 沈黙。


「…………俺?」


 鏡の中の女が口を動かした。


 間違いない。

 俺は俺だ。

 だが、鏡に映っているのはどう見ても女だった。


「いや、待て待て待て」


 ベッドから飛び降りる。

 長い髪が肩から滑り落ちる。

 足元を見る。

 見覚えのないドレス。


「……なんで俺、ドレス着てるんだ?」


 そこで初めて、部屋の外から足音が聞こえた。


 コンコン。


「お嬢様。お目覚めでしょうか?」


「……お嬢様?」


 俺が答えるより早く、扉が開いた。

 入ってきたのは、黒い服を着た女性だった。


「おはようございます、お嬢様」


「…………」


 俺は背後に誰かいるのかと見てみた。


「お嬢様?」


「……俺?」


「はい?」


「俺のこと?」


 女性は不思議そうな顔をした。え、もしかして俺ってば実はお嬢様だったのかしら。


「もちろんでございます」


「…………」


 俺は頭を抱えた。

 どうやら、とんでもないことになっているらしい。

 でもこれは真実のようだ。

 だって……アソコの感覚がないッ!


「お嬢様、本日は王城へ向かわれる予定ですので、早急にお支度を――」


「王城?」


「はい」


「なんで?」


「……なんで、と申されましても」


 女性は困ったように眉を寄せた。王城って、その、あれだろ? 王様の家みたいなやつ。


「殿下との婚約についてのお話がございますので」


「…………婚約?」


「はい」


「俺が?」


「はい」


「誰と?」


「第一王子殿下と」


「…………」


 情報量が多すぎる。

 俺は頭を抱えた。


 一旦整理しよう。異世界転生。これはいい、むしろ大歓迎だ。問題はここから。


 女になった。

 貴族。

 王子と婚約。


 俺はアニメオタクだが、令嬢系だけはどうも受け付けなかった。だから全く知識がない。

 原因は確か、さっき妹との散歩中魔法陣が出てきて……目覚めたらこれ。


 だが、そんな俺を置き去りにするように、女性は淡々と話を続ける。


「本日は大切な日でございます。どうかくれぐれも、殿下の前では――」


「そ、それって……」


「はい?」


「……婚約破棄?」


 その瞬間、女性の顔が引きつった。


「ご存じだったのですね……」


「え?」


「……今日のこと」


「……?」


 俺は首を傾げる。


 女性は深く息を吐いた。


「本日、殿下は正式に婚約破棄を宣言される予定です」


 え、まず殿下ってなんだ。

 偉い地位? それとも名前か?


「……俺、なんか悪いことした?」


「数え切れないほどございます……」


 俺は鏡に映った可愛らしい自分を見て思った。

 俺はいわゆる悪役令嬢に転生してしまったらしい。

 なんか嬉しいような悲しいような……まあ、魔法があるならなんでもいいんだけどさ。

  

 まあ、それはさておき。


「……令嬢ってなんだ?」

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