入学式
四月、ある公立小学校の入学式でのことです。
新入生が入場し、保護者席には真新しいスーツや着物に身を包んだ親たちが
ズラリと並んでいました。
式が進み、国歌斉唱で全員が起立したとき、
教師のHさんが異変に気づきました。
保護者席の最後列、一番端の席に、奇妙な男が座っていたそうです。
周りが皆、式にふさわしい服装なのに、
一人だけ泥で汚れた作業着のような恰好で、深く帽子を被っていました。
何より不気味だったのは、男が微動だにせず、
ずっと天井を凝視していたことです。
訝しんだHさんは、式の邪魔にならないよう、斜め後ろから様子を伺いました。
すると、男の首筋から、白い粉のようなものが舞うのが見えたそうです。
式が終わり、新入生が教室へ移動する退場の時間。
混乱を避けるため、Hさんは他の職員に目配せをし、
男に声をかけようと近づきました。
ところが、保護者たちが一斉に動き出した一瞬の内に、男の姿は消えていました。
出口にいた教師たちは、誰一人として彼が外に出るのを見ていません。
不審に思ったHさんが、男が座っていた椅子を確認しに行くと、
そこには「古い線香の灰」のようなものが、薄く積もっていたそうです。
後日、新入生の家庭の資料を確認していると、ある児童の父親が、
入学式のちょうど一週間前、職場の事故で亡くなっていたことがわかりました。
ただ、Hさんたちが震えあがったのは、その後でした。
「天井の梁に、小さな手形がびっしりとついていたんですよ。
それも、あの日入学した新入生の数と同じ、ちょうど四十人分」
それからしばらくの間、
「式の最中、誰かに肩を叩かれた」
と囁く子どもが、何人もいたそうです。




