ランクアップ!
緑のクチバシへの依頼を完了させて商人としての生活を5日続けたが、なに一つ売れなかった。
結局、子どもたちの遊び場と化してしまい、商売どころではない。
食器類を揃えたのも間違いだった。この街の家庭は食器を使わないらしい。そういえば店ですらスプーンもフォークも出てこなかった事を思い出した。
この数日はハンターとしての依頼をしていた。
「おめでとうございます!」
いくつかの依頼を終えた俺はハンターランクが9級に上がった。
これでゲルドたちと一緒のランクになったのだ。
なったからといって一緒にパーティーを組んだりはしないのだが。
ただ、これでやっと討伐系等の依頼を全て受けることができるようになった。
拍手とともに祝われる。みんなのあいつランク9級になったんだ、へぇ〜みたいな視線にたえる。
視線に気づかないふりをして依頼の貼られた掲示場へと駆け寄った。
○カム村より周辺警戒【見回り】
○※※緊急※※ギルド発行※※黒の魔物※※【討伐】
○サザ人の目【採取】
○ストーカー被害【その他/討伐】
○ぷちぷちの生け捕り【その他】
○依頼を見てくれてありがとう! この依頼は報酬が段違いに良い! 難易度も低い! さあ! 手に取って受付へ!【その他】
○メルートのダンジョンパーティー【募集】
なんかクセの強い依頼も混じってるな。
大量の依頼の中で埋もれないように必死に考えた策だろう。涙ぐましいな。
最近、ひと目で猛者です! みたいな奴らが増えた。多分この緊急依頼のせいだろう。特に被害はでていないようだが、だいぶ前から依頼がなくなっていない。
大規模作戦進行中なのか。俺は下手に手を出さないでおこう。
そろそろ一度、グレストルから離れて近隣の村を見て回りたい衝動にかられていた。
近ければこれにしよう。紙の新しさから最近の依頼だろう。
カム村より周辺警戒の依頼紙を手に取った。
〜〜〜
依頼主 カム村 村長代理
期限 村長へ依頼受付をする旨を伝えたのち最低5日間
報酬 金貨1枚 その時に畑で取れた野菜 1日1食付
内容 畑の被害はまだ少ないが、プチプチではない何かの足あと。経験上ササササの被害だと思われる。早すぎて村人ではどうすることもできない。対策か討伐、また現れなければ周辺の探索を願いたい。討伐素材はすべてそちらで持って帰って構わない。
〜〜〜
受付に歩きながら内容を読みこんでいく。
5日間か。村に着くまで何日かかるかだな。
受付に依頼書を渡す。今日の受付はウサギ耳の獣人さんだ。そろそろこの街の受付の顔は全員覚えてきた。名前は知らんが。
「カム村へは歩いてどれぐらいかかるか知っているか?」
「歩いてですか? 歩いてとなると、5日はかかるんじゃないですかね? あまり歩いて行こうとする方がいないのでなんとも、ですが」
「……歩いて行く以外に何か方法があるのか?」
「え? あの、馬車、がありますけど……? 馬車なら1日で着きますよ」
なんだよこの世界馬車あるのか。まだ出会ってないぞ!
頭の上に大量のハテナが浮かんでいそうな顔でうさ耳さんがこちらを見ている。
街の中にもいないし、そもそも動物が鳥すらもいないのだ。獣人はいるが動物はいない。虫すら見てないから動くものは人間か魔物しかいないのかと思っていたぐらいだ。
「あ! あの、これササササの可能性もあるようですが……」
「ん?」
今度はこっちの頭にハテナが浮かぶ。それがどうしたというのだろうか。
「ああ、ソイツは大丈夫だ。見た目はそんなだがな、リーニャの攻撃を全て避ける」
「あ、そうなんですね! リーニャ先輩の攻撃を! じゃあ大丈夫ですね」
後ろで何かしていた巨人の爺さんが話に割り込んできてどこかへ歩いていった。
一瞬失礼な事を言われたような気がするが、気にしないでおこう。
受付の処理を終えて半割りされた石板を渡された。
「それを依頼主に渡せば依頼の人だとわかりますから」
石板をしまって馬車が借りれる場所まで急いだ。
門に一番近い小さな家で借りられるとのことだ。
人が4~5人しか入れなさそうな小さな家があった。
一応ノックして入ると、片目に傷を負っている厳つい純人族の女がテーブルに足を投げ出して座っていた。凄まじい絵面だ。
感想を聞かれたら強そうしか出てこない。
「どこまでいくんだい」
入ってすぐに聞いてきた。これは……間違いない。せっかちさんだ。
俺もできるだけ要点をまとめるようにしゃべろう。ブチギレられそうだ。
「カム村だ」
「あそこか。今は乗り合いはいねぇ。貸し切りだから銀貨4枚、どうする」
おいおいおいおい。報酬金貨1枚だぞ! 野菜もくれるらしいが。
……利益銀貨1枚か。赤字にならないために帰りは歩きだな。
場所さえわかればマップに登録されるし、まあ構わないか。
銀貨4枚をテーブルに置く。
「頼む」
「よっしゃ! 待ってろよ!」
女が少しはだけた懐から何かを取り出すと口に加えて思いっきり吹いた。
何の音も聞こえないし、召喚系のアイテムでもないようだ。
犬笛に近いものだろうか。
「もう待ってるだろうからさっさと門を出て御者とあいさつしてきな!」
急かされるように追い出された。
門から出ると、魔物がいた。
魔物の後ろに人と荷台もついている。
これが、馬車。
とてもではないが、馬ではない。角は3本生えてるし、6足歩行だ。
かろうじて馬のような体勢をとっているが、口は裂けているし、なんなら羽も生えている、真っ黒い魔物だ。
近づいていくと御者が声をかけてきた。
「あんただけか?」
「そう言ってたな」
「どこまでだ?」
「カム村だ」
「乗れ」
凄まじく高圧的だ。別にいいけど。
御者の顔は見えない。ターバンのように顔の周りをぐるぐると布が巻き付いている。目すら見えない。
声から男とだけ判断した。
屋根付きの荷台に乗ると動き始める。
走るのか、飛ぶのか。
っと思っていたが、普通に走り始めた。結構はやい。俺のいる荷台はガッタンガッタン揺れに揺れる。
道なんかそれほど舗装されていないから仕方がない。
サスペンションとかタイヤにつけろよ!
ひどい揺れに嫌気がさしそうになるが、我慢する。
これが1日続く事を思ってため息をついた。




